1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:34:26.84 ID:o+AKmLcv0
海の匂いがする。
沖縄の青い海じゃなくて、都会の少し鼻につくような。
「ひびき」
どうしたんだプロデューサー?
ここはどこだっけ。確か……IA大授賞式の後にプロデューサーと会った……
2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:36:04.88 ID:o+AKmLcv0
部屋に鳴り響く携帯の着信音で目を覚ます。
「んー……」
まだ眠いぞ……でも、出ないわけにもいかないか。
ベッドサイドテーブルに置いてある携帯を手に取り、通話ボタンを押す。
「もしもし……」
『おはよう響』
「ん……アリサ? おはよう」
『寝起きだった?』
「うん……」
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:38:03.41 ID:o+AKmLcv0
『今日空いてる? 遊びに行かない?』
「今日は民宿でバイトだぞ。明後日なら空いてるかも」
『じゃあ明後日で。なんか元気無いわね? 悪夢でも見てた?』
「悪夢というか……最近会ってない人が出てきた」
『ああ、東京に残してきた彼氏ね』
「ち、違うぞ! ぷ、プロデューサーはそういうのじゃなくて!」
携帯の向こうで大笑いされてる。
悪意がないのはわかってるんだけど……
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:40:04.87 ID:o+AKmLcv0
「アリサはそうやってすぐ自分のことからかって……」
『ごめんごめん。でもそういうのって、相手が逢いたいって思ってるから夢に出るって』
「本当に!?」
『マンガで読んだ』
「なんだ……マンガか……」
『なんだとは何よ。響にも貸してあげたでしょ。面白かったって言ってたじゃない』
「でもマンガでしょ?」
『確かにそうなんだけど……私はこういうのまんざらでもないと思うけど』
「そうかなぁ」
『詳しくは後で聞くわ。ランチ食べにそっち行くから。じゃあね』
「わかった。ばいばい」
7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:42:13.14 ID:o+AKmLcv0
IA大賞にノミネートされた事で、プロデューサーは1年間ハリウッドでの研修を受けられる事になった。。
もちろんプロデューサーは研修に行った。心残りはあったみたいだけど、それでも自分たちのためになるからって。
自分はプロデューサーを見送った後、一度島に戻った。島の皆にありがとうって伝えるために。
皆にありがとうって伝えた……んだけど、隣の家のおじさんが長期出張で出かけていたせいで、おじさんにだけまだ伝えられてない。
自分がここまでアイドルとして有名になれたのも皆のおかげだし、全員に伝えるまで帰るわけにはいかない!
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:44:09.04 ID:o+AKmLcv0
ユニットの2人に相談したら
「そうですね。その選択は間違いではないと思いますよ。響の思うように行動しなさい」
「響がそうしたいなら、いいんじゃないかな。美希達が勝手に活躍しちゃってたら、プロデューサーすねちゃうかもしれないし、プロデューサーが帰ってくるまで待っててもいいと思うの」
なんて言われちゃった。
とりあえず、おじさんにありがとうって伝えて、プロデューサーが帰ってくるまでユニット活動休止って事に。
それが決まってからは、家の民宿を手伝いながら、アイドルになる前に通っていたアクターズスクールでレッスンだけは続けていた。
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:46:12.99 ID:o+AKmLcv0
IA大賞授賞式からなんだかんだで1年が経った。
この1年、できるだけプロデューサーの事は考えないようにしてた。
プロデューサーの事を考えてると、毎日が過ぎていくのが長く感じるような気がするから。
最初の数ヶ月以来、夢に出るなんてことも無かったんだけどなー。
最近マシになっていた、胸の奥のヒリヒリしたような感覚がまた戻ってきたような気がする。
誰かを好きになるってことは、いい事ばかりじゃなかったんだな。
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:48:06.71 ID:o+AKmLcv0
早くプロデューサー帰って来ないかな……
ってこんな事考えてる場合じゃなかった!
身支度をして、朝食を取る。
確か今日明日は宿泊客がいなかったはず。掃除とランチの準備と……
とにかく今日も頑張るぞー!
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:50:05.93 ID:o+AKmLcv0
ランチ終了ギリギリの時間にアリサがやってきた。
「おばさんこんにちは。Aランチ一つお願いします」
「あら、アリサちゃん久しぶり。Aランチね。響のも作ってあげるから、一緒にお昼食べてらっしゃい」
「ありがとあんまー」
テラス席に座って、2人で遅い昼食を取る。
「それで、朝の続きなんだけどさ」
「特に話すこともないぞ」
「響さ、プロデューサーのこと好きでしょ」
お茶を吹き出してしまった。
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:52:22.79 ID:o+AKmLcv0
「だからそんなんじゃないって!」
「真面目に答えて」
「うう……」
自分はプロデューサーのことが好きだ。
心のなかでハッキリと答えられるほどには好きだ。
「どうなのよ」
「……好き」
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:54:18.54 ID:o+AKmLcv0
「相手にはちゃんと伝えた?」
「伝えた!」
「なんて?」
「……かなさんどーって」
「ああ……それ伝わってないかもね」
「え!?」
「ウチナーグチじゃあねぇ」
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:56:18.53 ID:o+AKmLcv0
「スクールの先生に言われてたじゃないの。アイドルになりたいなら標準語を覚えなさいって」
「自分だって努力して少しはヤマトグチに近づいたんだぞ!」
「肝心な時に出てないじゃない」
「それは! ……あの時は仕方なかったんだ」
「とっさに出ないようじゃ身についてないわね」
「というか、なんでアリサは完璧にヤマトグチで話せるんだ?」
「アイドル目指してた時の名残みたいなものよ。いつか本土に出るつもりだし、こっちでも普段から標準語にしてるだけ。そんなことはどうでもいいの。プロデューサーとは連絡取ってないの?」
「きっと忙しいだろうからって自分たちからは連絡しないことにしたんだ」
「こっちにも連絡は無いのね?」
「うん……」
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 02:58:09.68 ID:o+AKmLcv0
「向こうで彼女できてたりして」
「え……」
どうしよう。勇気を振り絞って言ったはずだったのに、伝わってないかもしれないなんて思いもしなかった。
1年で帰ってくる予定だったのに未だに帰ってこないのは、やっぱり向こうで彼女ができて自分たちのことなんてどうでもよくなって……
「う……うう……アリサ……プロデューサーがもう帰って来なかったら、自分……」
「じょ、冗談だって! あーもう泣かないで響。私が悪かったから」
「本当に向こうで暮らしていくつもりだったら……」
「大丈夫だって! だいたいこんな可愛い子放っといてアメリカで生活なんてできないに決まってるじゃない」
「ほんとに?」
「ほんとほんと。私が保証するから。だから泣かないの」
「わかった……」
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:00:10.21 ID:o+AKmLcv0
「朝も話したでしょ? その人が夢にでてきたのは、響に逢いたいって思ってるからだって。そんな風に思ってる人が帰ってこないわけないじゃない。少し研修が長引いてるだけよ」
「でもマンガの受け売りなんでしょ?」
「いいじゃないロマンチックだし。くよくよしたって始まらないわよ」
「そうだね。……なんか自分元気でてきたぞ!」
「そうそう、それでいいの。元気の無い響なんて響じゃないでしょ?」
「その言い方だと、元気しか取り柄がないって言われてるような気がするんだけど」
「元気が一番だって言ってるの。ほら、明後日遊びに行ってリフレッシュしよ。また連絡するから。ごちそうさま」
「うん。じゃあねアリサ」
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:02:13.65 ID:o+AKmLcv0
アリサが帰ってから民宿の前を掃除することにした。
見上げると、今日の空は雲ひとつ無い青天。
まるで、宇宙まで突き抜けそうな気がするほどの。
空はつながってるんだし、プロデューサーも自分と同じ物を見てるのかな。
そう考えるだけで、なんだか嬉しくなってくる。
ハリウッドが同じような天気だなんて決まってるわけないんだけどさ。
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:04:15.11 ID:o+AKmLcv0
宿泊客もいないし、掃除も終わって夕飯時まで暇になってしまった。
今日はレッスンも無いから夕方まで何しよう。
海に入りたいって気分でも無いし。
テラスでボーッとしてると聞こえてくる潮騒の音と島の海の匂いが心地いい。
なんだか眠くなってきたぞ……
今日は朝も早かったし、少しくらいお昼寝しても良いよね。
おやす……み……
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:06:17.27 ID:o+AKmLcv0
「ひびき」
「ん……」
プロデューサー?
「こんな所で寝てたら風邪ひくぞ」
これは夢なんだろうか。
「なんでプロデューサーがここに?」
「研修が終わったから帰ってきたんだよ」
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:08:10.87 ID:o+AKmLcv0
「プロデューサー……自分に逢いたかった?」
「逢いたかった。だからここまで来たんだよ」
よかった。プロデューサーは自分に逢いたかったんだ。なんか嬉しいな。
「IA大賞授賞式の後、自分が何言ったか覚えてる?」
「うーん……なんて言ってたっけ。もう一回言ってくれるか?」
大丈夫。夢の中なら何度でも言える。
「プロデューサー、かなさんどー」
「俺も響のこと愛してるよ」
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:10:22.81 ID:o+AKmLcv0
「本当に? ってうわっ!?」
驚いて椅子から転げ落ちてしまった。
「イテテ……」
あれ……痛い?
「大丈夫か?」
「うん……大丈夫……じゃない!?」
あれ?
どこからが夢?
どこまでが夢だった?
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:12:22.60 ID:o+AKmLcv0
「せっかくアイドル活動再開するのに、こんな所で怪我してどうするんだ」
「うぎゃーっ!? ぷ、ぷぷぷプロデューサー!?」
「なんだよ」
「なんでここにいるんだ!?」
「だから研修が終わったから帰ってきたんだって」
「でもプロデューサーは自分が島にいるって知らないんじゃ!?」
「全部音無さんから聞いたよ。響が島にいることも、ユニットが活動休止してるってことも」
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:14:31.80 ID:o+AKmLcv0
「いつ帰ってきたんだ!?」
「質問攻めだな……今日だよ今日。まったく、飛行機で日本に帰ってきてまたすぐに飛行機で沖縄まで来たんだぞ。俺を1日に何度も飛行機に乗らせてくれるのは響くらいだっての。しかも今回は船まで乗ったし」
「なんでそんな急に」
「響に逢いたかったから」
「自分に?」
「そう、響に」
たぶん今の自分、耳まで真っ赤になってるぞ。
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:16:24.57 ID:o+AKmLcv0
「少しは落ち着いたか?」
「たぶん……」
「響さ、なんというか……全体的に小さくなった?」
「プロデューサーが大きくなったんじゃないのか? なんとなくガタイも良くなってる気がするし」
「研修が思いの外ハードでな……料理も全体的に量が多いし、気がついたら筋肉ついてたよ」
「これで自分たちのプロデュースにも力が入るんじゃないか?」
「おう、任せとけ。早速東京戻るぞ。皆が待ってる」
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:18:09.53 ID:o+AKmLcv0
「え? ぴよ子から話を聞いてたんじゃないのか?」
「いや、だから俺帰ってきたし活動再開の準備をだな」
「まだ隣のおじさん帰ってきてないから、本土には戻れないぞ」
「えっ」
「だからプロデューサーが東京に戻ってもやること無いし、こっちで一緒に民宿で働くぞ」
「やること無いってわけじゃ……」
「ダメ、これは決定事項なの。ぴよ子や社長にも言ってあるから」
「ちょっと待て、電話してくる!」
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:20:04.65 ID:o+AKmLcv0
そう言ってちょっと遠くで電話をかけるプロデューサー。
おー、困ってる困ってる。
自分だってあんなに驚かされたんだもん。自業自得だよね。
あ、戻ってきた。
「響さん、これからよろしくお願いします」
「へへーん、任せてよプロデューサー。一から十まで全部教えてあげるからなー!」
「そうだ、響」
「ん?」
「ただいま」
「おかえりなさい。プロデューサー」
おわり
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/31(金) 03:20:35.13 ID:o+AKmLcv0
支援とお付き合いありがとうございました