響「ハム蔵が潰れた」【我那覇響SS】

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/01/07 21:55:55 ID:wnC+71RO0
グチャ!ヂュッ!

天海春香、17歳。158cm。

響「え…?」

足はスラリと細く、腕はもっと細い。

春香「…え?」

プロデューサーさんなら、お姫様抱っこしたままどこまででも走っていけるだろう。
軽く、細く華奢な体。

真「あ…」

しかしその軽い体重は、

雪歩「ぁ…あぁ…」

ハム蔵を踏み潰すのには、十分すぎた。

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/01/07 22:01:01 ID:KVDyjriaP
響「は…るか…?」

響の静かな声に心臓が飛び跳ねる。

足の下に、何かを感じる。

春香「い…違…これ、は…」

真「…」

雪歩「…」

春香「ち、違う。ぁ、お願い…」

この足の下には、何もいない。小さな命はいない。

そう願って、足をどける。

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/01/07 22:04:12 ID:KVDyjriaP
春香「!」

小さな命は、どこにもなかった。

真「うっ…!」

あったのは、いつもはふっくらしたハムスター…の、ぺしゃんこになった死体だった。

雪歩「ぅっ…ぉえ…」

雪歩は耐えられなかった。口からとび出た赤いものをモロに見てしまったからだ。

真「!ゆ、雪歩…こっちに…」

春香「あ…あぁ…あ…ハム、蔵…」

最悪の結果だった。

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/01/07 22:08:00 ID:KVDyjriaP
響「はるか…?ハム蔵…?ハム蔵…?」

響「ハム蔵!ハム蔵!!」

ぺしゃんこになったモノに呼びかける響。

春香「う…あ…!」

春香が後ずさると、足の裏についた血が床にこびりつく。

響「嘘…ハム蔵…」

P「どうした!何があった!!」

真「プロデューサー…ハム蔵が…」

逃げた、ではない。
春香の足から伸びるほんの少しの血を見て、プロデューサーは一瞬で察する。

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/01/07 22:10:05 ID:KVDyjriaP
P「と、とにかく…真と雪歩は、外に」

真「は、はい…」

雪歩「ぅ…うう…」

響「ハム蔵…ハム蔵…」

P「な、何があった?」

わかっている。何があったか、状況を見ればわかる。
しかし大事なのは、彼女たちの心だ。

P「春香、何があった」

春香「っ!」ビクン

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/01/07 22:12:25 ID:KVDyjriaP
呼ばれた春香は、抜けた魂が戻ったように飛び跳ねた。

春香「ああぁの、私が、えと、響ちゃんと遊んでて…私、押されて」

P「…そうじゃない。何が、起きたんだ。教えてくれ」

春香「…ハム蔵を、潰した」

自分の犯した状況を口に出した途端、春香は泣きはじめる。

春香「ハム蔵…ハム蔵?響ちゃん?」

P「くっそ…なんてこった」

その間も、響はずっとハム蔵の名を呼びかけていた。

50: 1 2014/01/07 22:16:00 ID:KVDyjriaP
ID:rtob5cAc0 は1ではないので飛ばすかNGにしてください

P「もしもし、律子か?…ああ、緊急事態だ…すぐに戻ってこれるか?…俺一人じゃどうしようも…」

P「ええと…その…春香が…ハム蔵を……した」

P「ああ…じゃあ…」

響「ハム蔵!!ハム蔵!!嫌!!」

春香「…」

P「二人とも、とにかく落ち着くんだ」

響「プロデューサー!!ハム蔵が!!」

P「わかってる。とにかく、ここから一度離れるんだ」

56: 1 2014/01/07 22:18:50 ID:KVDyjriaP
社長室

真「雪歩、大丈夫?」

雪歩「真ちゃん、ありがとう…」

春香「…」

P「…」

どうすればいい。俺はどうしたらいい。

響「ねぇ!」

突然、響がいつもの声をあげた。

響「プロデューサー!ハム蔵を病院に連れて行かないと!」

P「え…?」

60: 1 2014/01/07 22:21:38 ID:KVDyjriaP
俺は、どうしたらいい…

P「響…」

こんな素直な子に、ハム蔵は死んだ、諦めろと言うのか?

響「さっきな!ハム蔵の飛んだ目を入れたら少し動いたんだ!」

雪歩「や、やめて、響ちゃん」

響「だからな!中の物もかきあつめて!」

真「響!やめて!」

春香「プ、プロデューサーさん」

P「…!!」

言えるわけがない!

65: 1 2014/01/07 22:24:44 ID:KVDyjriaP
律子が戻るまでの10分間、響は喋り続けていた。

律子「ただいま、戻りました」

P「律子…」

貴音「状況は、聞いております」

伊織「…」

美希「寝てる場合じゃないの」

響「律子!律子!午後は動物病院に行ってくるぞ!」

律子「病院…?」

P「律子」

響は…不安定だ。
目で律子に合図した。

72: 1 2014/01/07 22:28:48 ID:KVDyjriaP
P「律子、ちょっと」

律子「はい」

P「…俺には、無理だ」

律子「…」

P「情けないが、あの響にハム蔵は死んだと突きつけることは…できない」

律子「じゃあ、どうしろって言うんですか」

P「…わからない」

律子「…すみません…私も、わかりません。ですが、突きつけなければならないことだと思います」

ガチャ

社長室から貴音が出てきた。手には小さな箱を持っている。

P「貴音?」

80: 1 2014/01/07 22:32:15 ID:KVDyjriaP
貴音はハム蔵の前にしゃがみ込む。

貴音「…本当に、死んでしまわれたのですね」

律子「そう、みたいね」

貴音は長い箸を取り出し、ハム蔵をつまむ。

貴音「亡骸を、このままにしておくわけにはいきません」

P「すまないな…貴音。俺がやるべきことを」

貴音「いいのです。響は、大切な仲間です」

白い箱にハム蔵を丁寧に入れる。

貴音「響は…不安定な様子。友の死ほど辛いものはありません」

84: 1 2014/01/07 22:36:22 ID:KVDyjriaP
P「…」

貴音「しかし、誰のせいでもありません。そこはきちんと、伝えるつもりです」

律子「え、あなたが、伝えてくれるの?」

貴音「あなた方が頼りない、と言うつもりではありませんが。言うなら…私の方がよいかと」

P「ありがとう。すまないな…貴音」

貴音「はい」

88: 1 2014/01/07 22:38:02 ID:KVDyjriaP
社長室の空気は妙な形で張り詰めていた。

響「それでな、ハム蔵がな…」

ハム蔵の過去を、誰に聞かせる訳でもなく笑顔で語る響。

春香「…」

響の槍がいつ自分に向くかと思うと恐ろしく、動けない春香。

雪歩「…」

真「…」

響の笑顔が耐えられない真、雪歩。

美希「…」

伊織「…」

状況の中に放り込まれ、何を言えばいいのかわからない二人。

92: 1 2014/01/07 22:42:08 ID:KVDyjriaP
これは確かに、プロデューサーや私には荷が重いわ…と、律子は思った。

下手に突きつけるより、貴音などの親友に言ってもらった方がいい。

貴音「響」

響「貴音?貴音もハム蔵の話聞くか?」

貴音「響。ハム蔵は、死んだのです」

響「え…あ…」

響はきっと、認めたくなかったのだろう。
ハム蔵が死んだ事、事故とはいえ、殺されたこと。
誰を責めてもいけない。
でも死を受け入れられない。そんな思いが響の頭をぐるぐると回って、無理やり明るく振る舞うしかできなかったのだろう。

99: 1 2014/01/07 22:45:54 ID:KVDyjriaP
響「ちがうぞ、貴音」

貴音「わかります。友の死は辛いもの。ですが、生きるものは死ぬもの。それが今突然やって来たのです」

響「ちがうぞ」

貴音「受け入れなければならないものです、響」

響「うぁあ…」ボロボロ

貴音「誰のせいでも、ありません。大切なのは、はむ蔵を忘れぬことです」

響「貴音ぇ…!」

響は大声をあげて泣いた。

貴音、よくやった。緊張の糸がゆるみ、皆がほどほどに安心した顔になる。

106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/01/07 22:49:26 ID:KVDyjriaP
貴音「さぁ、響。はむ蔵を弔いに行きましょう」

響「ゔん…」

貴音「あなた様、しばしよろしいですか?」

貴音「はむ蔵を、埋葬してきます」

P「ああ。ありがとうな…」

貴音はチラリと春香を見た。
春香は最大限の感謝を、無言で貴音に飛ばした。

残った血の片付けは終わった。

P「貴音には、感謝しないとな」

律子「…そうですね」

108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/01/07 22:50:42 ID:KVDyjriaP
…でも、俺たちは分かってなかった。
この時の俺たちの行動が、後に全て裏目に出てしまうことになるとは…。

P「俺は…情けなかったな。響に、何も言えなかった」

律子「プロデューサーは、正しいことをしましたよ。下手に出てたらどうなっていたか…結果論、ですけど」

P「貴音がいなかったら…想像もしたくないな」

律子「辛いでしょうね…響は」

ガチャ

P「ん…春香か」

春香「プロデューサーさん…私は…私は…」

P「春香、大丈夫だ。誰のせいでもないって、貴音も言ってただろ」

春香「でも…でも」

真「春香、誰が悪いとかそういう話じゃないよ。謝ればきっと大丈夫だよ」

116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/01/07 22:53:54 ID:KVDyjriaP
美希「デコちゃん、今日は珍しく無口ね」

伊織「…あんたも、珍しく寝ないじゃない」

美希「…寝れる状況じゃないの」

伊織「私も、何を言っていいのかわからなかったわ」

美希「貴音はすごいの…やっぱりひびたかなの」

伊織「?」

雪歩「春香ちゃん安心して!四条さんが話してくれたし、私たちも謝るから!」

春香「雪歩…ありがとう」

真「ボクも、きちんと謝るよ」

P「うん…一時はどうなることかと思ったが…大丈夫そうだな…」

ピピピピピピ

121: 1 2014/01/07 22:56:42 ID:KVDyjriaP
P「ん?貴音から電話か」

P「もしもし?」

貴音『あなた様。今すぐ春香に事務所から出て行くよう指示を』

P「!?どうした?何があった?」

貴音『私の、力不足です。響がはむ蔵を殺したのは誰だとずっと聞いてくるのです』

ゾクっとした。

P「どうすればいい」

貴音『春香がいると危険かもしれません。今すぐ春香を隠して下さい』

P「わ、わかった」

P「春香!今すぐ来るんだ!」

130: 1 2014/01/07 22:59:14 ID:KVDyjriaP
春香「えっ、どうしたんですか」

P「いいから、はやく

ガチャ

響「…」

貴音「…くっ、間に合いませんでしたか」

この状況は非常にまずい。
ハム蔵のショックが大き過ぎれば、誰かにあたるかもしれない。
もし今そうだとしたら…間違いなく、春香にあたる。

響「春香だ!」

春香「っ」ビクッ

響「ねぇ貴音!春香だぞ!春香がハム蔵を」

響「ころしたんだ」

136: 1 2014/01/07 23:01:06 ID:KVDyjriaP
春香「…ごめんなさい」

真「響!ごめんなさい!ボクもあの時ちゃんと警戒してれば…」

雪歩「ごめんなさい。響ちゃん。私も…」

響「あはっ、認めたぞ!」

真「…え」

まずい。非常にまずい。

P「ひ、響…」

響「ねぇ春香!ハム蔵どんなかんじで死んだの?教えて!」

春香「やめて、お願い響…」

146: 1 2014/01/07 23:04:41 ID:KVDyjriaP
すると響は、くるりと向き直って。

響「プロデューサー。ハム蔵はどこ?」

P「え」

響「ハム蔵がまた逃げちゃったんだ!ハム蔵ー!」

おそらく今の響は、ハム蔵の死を認める気持ちと、絶対に認めない気持ちと、責任をとらせる気持ちでめちゃくちゃになっているんだ。

律子「響。ハム蔵は死んだのよ。今、箱を埋めて来たでしょう?」

貴音「響。埋葬は終わりましたよ」

響「うそだ!うそだうそだ!あの箱の中身は自分見てない!見てないぞ!ハム蔵!」

しまった…。貴音は響のためを思い、ハム蔵を箱に入れて埋めるまでの間、中身を見せなかった。それが逆に、ハム蔵は死んでないと思わせる結果になっている。

P「響、よく聞くんだ。ハム蔵は死んだ。それだけは分かってくれ」

150: 1 2014/01/07 23:06:21 ID:KVDyjriaP
響「あははっ、プロデューサーひどいこと言うなー!ハム蔵が死んだなんて!」

響が怖かった。
なぜお前は、そんな無邪気な顔で笑うんだ。

バタンッ!

社長室が勢いよく開き、美希が歩いてきた。
と思ったら。

パン!

響に思いっきり平手打ちを食らわせた。

響「あっ!」

全員、固まった。

153: 1 2014/01/07 23:08:07 ID:KVDyjriaP
響「なっ、なにす、」

響が顔をあげると、美希は泣いていた。

美希「ミキ、響のそんな顔…見たくない!」

美希は、響に抱きついて泣いた。
響はきょとんとした顔になり、貴音を見た。

響「…ハム蔵…は?」

貴音「はむ蔵は、死んだのですよ」

その瞬間、全ての糸が切れたように泣きはじめた。

春香「プロデューサー、さん」

P「春香…もう、大丈夫だ。この三人なら大丈夫。そう、信じたい」

159: 1 2014/01/07 23:10:44 ID:KVDyjriaP
それから一週間後。

響「ねぇ春香!」

春香「なに、響ちゃん?」

もうすっかり響も立ち直り、春香とも普通に話せるようになっていた。

あの後響は、取り乱したことを謝り、春香含め皆に謝られ、仲を取り戻した。

響、美希、貴音の三人はより仲がよくなったように見える。

俺も律子も、後からこの話を聞いた他のメンバーも小鳥さんも社長も、ほっとしていた。

なんとか、無事に終わったな…。

その時の俺は、そう思っていた。

167: 1 2014/01/07 23:13:05 ID:KVDyjriaP
貴音「あなた様」

P「どうした?」

貴音「少し、響のことで気になることが」

P「ああ…あの後、何か変わったことがあるか?」

貴音「はい…」

貴音が言い淀む。

すっかり安心していた俺だったが、徐々に徐々に、不安が滲み出てくる。

P「何か、あったのか?」

貴音「いえ、直接何かあった、わけではありません」

貴音「出かけられる時に、一人で外に来てください」

171: 1 2014/01/07 23:16:00 ID:KVDyjriaP

貴音「こちらへ」

P「…」

貴音が連れ出す理由。
響。
この予感。杞憂であってくれ。

貴音「箱に入れたあの日、わたくしは響とこの道を歩きました」

P「ああ」

貴音「はむ蔵との思い出、飼う動物のことを話しました」

P「…」

貴音「気に、しすぎかもしれませんが…」

P「構わん。話してくれ」

176: 1 2014/01/07 23:18:08 ID:KVDyjriaP
貴音「わたくしが事務所に戻るまで、響はあなた様の知るような状態でした」

貴音「あの後、事務所で皆に諭され、状況を理解して共に帰りました」

P「ああ」

貴音「その時、一言…響が呟いた言葉があって…」

P「なんだ?」

貴音「「かわりをさがさないとな」と」

P「…それが、どうかしたのか?」

貴音「それを、確かめに行くのです」

184: 1 2014/01/07 23:21:19 ID:KVDyjriaP
P「貴音、もう少しわかりやすく話してくれ」

貴音「その後からです。この一週間、響をぺっとしょっぷと、この道でよく見かけるのです」

P「…なにも、おかしくないと思うぞ」

P「響は、ペットショップでハム蔵のかわりを探してる。この道には、ハム蔵の墓参りか何かだろうよ」

貴音「わたくしもそう思いました」

ました?

貴音「ですが、ぺっとしょっぷの店長に聞いたところ…」

貴音「響は、この一週間で何匹もはむすたーを購入していました」

貴音「店長は響と顔見知りで、なんら不思議には思ってませんでしたが…」

188: 1 2014/01/07 23:24:12 ID:KVDyjriaP
P「わからんな…それがどうして気になるんだ?」

貴音「わたくしも、はむ蔵を失った響が、多くのはむすたーに囲まれることで悲しみを癒していると思います」

P「…」

貴音「ですが…」

貴音「はむ蔵のお墓に向かう時…」

P「…」

貴音「響は、はむ蔵のお墓に、何かを埋めているようなのです」

P「そりゃあお前…エサとか、そういうものをそこに埋めればハム蔵も喜ぶだろう?ヒマワリの種でも埋めれば、花が咲くかもな」

貴音「わたくしもそう思います。ですから、これはわたくしの考えすぎの心配事なのです」

194: 1 2014/01/07 23:26:07 ID:KVDyjriaP
P「まぁ、とにかく見に行こう」

寺の境内、墓場の隅。

貴音「許可をいただいて、ここに埋葬させていただきました」

P「確かに…何度も掘り返した後があるな」

貴音「供養であれば、お墓の前に置けばよいもの。お墓を掘り返すのは、あまりよくはないことです」

P「ここを掘り返して、響が埋めているものを見れば安心する、というわけだな?」

貴音「その通りです」

確かに、貴音は少し考えすぎかもしれない。
響が、ハム蔵の供養のために買ったハムスターを埋めているとでも思ったのだろうか?
…まさか、そんなはずはないだろう。

200: 1 2014/01/07 23:29:21 ID:KVDyjriaP
これで確かめて安心すれば、貴音も安心するというものだ。

二人で手を合わせ、ハム蔵に掘り返すことを告げる。

貴音は小さなスコップを取り出す。

貴音「…では」

P「まて貴音、俺が掘ろう」

貴音「…そうですか。お願いします」

何もない。何もなく終わる。
掘ればあの白い箱が出てきて、中身を確認すればハム蔵の亡骸がいる。それで終わりだ。

何度も掘り返された土はかなり柔らかく、あっさりと掘れる。

そんなに深くは埋めてないだろう。もうすぐ箱にスコップが当たって…

ぐに。

207: 1 2014/01/07 23:32:03 ID:KVDyjriaP
…?

なんだ、この感覚は?

突き刺したスコップの先端は、何かに刺さった。

土でもなく、箱でもなく…

まさか…まさか

貴音「…どうか、したのですか?」

P「い、いや、なんでもないさ」

俺は何もないと言い聞かせて、その土を掘り返した。

途端、俺は叫んだ。

P「う…?う、うわあああああああ!!!」

220: 1 2014/01/07 23:34:59 ID:KVDyjriaP
貴音が覗き込む。

貴音「あなた様…何が…っ!うっ!」

掘り返した場所には、あの箱と、それと…

P「貴音!見るな、見るんじゃない!」

何匹もの、ハムスターの死体が埋まっていた。

P「見るんじゃ、ない…」

貴音は後ろを向いてその場から離れる。

このハムスターの死体が、そのまま埋めてあったらどんなによかったことか。

死体はすべて、あの時のハム蔵と同じように潰されていた。

228: 1 2014/01/07 23:36:51 ID:KVDyjriaP
貴音「響…響、どうして!」

P「貴音、落ち着け…落ち着くんだ」

貴音の肩を抱き寄せる。震えていた。

潰されたハムスターを見た恐れ…よりも、親友への恐ろしさに震えている。

貴音「あなた様…これは、何かの…供養、でしょうか…?」

P「こんなものは、聞いたことがないよ」

自分で買ったハムスターを同じように潰して埋めるなんて。
…まともじゃない。

233: 1 2014/01/07 23:39:04 ID:KVDyjriaP
ペットショップの店長は、なんらかわった様子はないと言っていた。
つまり、いつものように買い物に来て、いつものようにエサを買ったりして、そしてまるでいつものように…ハムスターを、買っていく。

P「それ程までに…響は…」

響は、壊れているんだ。

貴音「あなた様…わたくしは…わたくしに、できることは?」

P「貴音。お前は本当に強い子だ」

こんな状況でも、親友の身を案じている。

P「俺は、響の家に行く。お前は…俺を信じて、待っていてくれ」

240: 1 2014/01/07 23:41:06 ID:KVDyjriaP
P「もしもし、律子か?今から響の家に行く…ああ、ああ…」

貴音「…」

P「律子には連絡した。お前は、事務所で待っててくれ」

貴音「なぜ…響は…」

P「この一週間、気がつかなかった俺も悪い。それに…」

P「もしかしたら、こうなってしまったのは、俺が原因かもしれない」

貴音「どういうことですか?」

P「あの日。ハム蔵が死んだ日、俺は響をすぐ社長室に連れて行った。そのあと、貴音が箱に入れて…」

244: 1 2014/01/07 23:43:41 ID:KVDyjriaP
P「響には、ハム蔵が死んだと言葉では伝えたが、実際にハム蔵の死体をしっかりと見ていないんだ」

P「あいつは最後に見た死体を、まだ生きてると言い張って…目を…入れていた」

P「要するに…」

貴音「響の心には、ハム蔵はまだ生きてると?」

P「…そうだ。ハム蔵を、探しているんだよ。ハムスターの、中から」

貴音「…」

P「行ってくるよ。響の家に」

貴音「あなた様…」

貴音「響が戻ると、約束してくれますか?」

P「ああ…するさ…するとも…」

250: 1 2014/01/07 23:46:44 ID:KVDyjriaP

響の家。

響は、ガラスケースに入った何匹ものハムスターをニコニコと見ていた。

響「はっむ蔵をー♪さっがっそー♪」

ガラスケースの中に手を入れる。
その手にはヒマワリのタネがあり、ハムスターたちは寄ってくる。

響はその中の一匹を、やさしく掴んだ。

手に乗せられたハムスターは、状況を理解していない。

響「君はハム蔵かな~?」

261: 1 2014/01/07 23:50:00 ID:KVDyjriaP
響はハムスターの瞳をのぞく。
ハムスターは響の手でヒマワリのタネを一生懸命食べている。

響「君は、ハム蔵じゃないな!」

次の瞬間に何が起こるのか、ハムスターにはわかるはずもない。

響は手を裏返す。
当然、ハムスターは下に落ちる。

ぼてっ。

落とされたハムスターは、驚いて歩き出した。

そのハムスターを、響は思いっきり踏み潰した。

269: 1 2014/01/07 23:52:33 ID:KVDyjriaP
ぐしゃっ

ハムスターが口に咥えていたヒマワリのタネが飛んで、どこかで音を立てた。

部屋の隅で、餌も十分に貰えなくなったペットたちが震えている。

響「はっむ蔵をー♪さっがっそー♪」

響はまた笑顔に戻り、選別を始める。
足元には、何匹かの死体。

その時。

ピンポーン

玄関から呼び鈴が鳴った。

響は笑顔のまま、玄関を見た。

276: 1 2014/01/07 23:55:25 ID:KVDyjriaP
P「響?いるか?」

響はとてとてと玄関に走る。
歩くたびに何か湿った音がする。

響「あ、プロデューサー!みんな!プロデューサーだぞ!」

がちゃり。

響がドアを開けてくれた。

P「今、大丈夫か?」

響「いいぞ!入って入って!」

俺は入った途端に、床にへばりついたハムスターの死体を見た。

281: 1 2014/01/07 23:57:30 ID:KVDyjriaP
俺はこみ上げる吐き気と、泣きたくなる気持ちを必死に堪えた。

P「響…これはなんだ…」

響「ハム蔵を探してるんだ!」

部屋の隅に目をやると、痩せ細ったペットたちが震えていた。

P「響…何をしてるんだ」

響「え?だから、ハム蔵を」

P「ハム蔵は!死んだんだぞ!!!」

ありったけの大声を出した。大声なんて、何年ぶりだろうか。

響「知ってるよ?」

キョトンとした顔。

283: 1 2014/01/07 23:59:49 ID:KVDyjriaP
響「だからな、ハムスター買って来て、ハム蔵を探してるんだ。なかなかいなくて困ってたんだぞ」

響「プロデューサーも手伝ってくれるのか?」

P「もう…もう、俺は…」

ここまで壊れているとは。

P「すまない…俺は、お前を救えない…」

響は嬉しそうにハムスターに話しかける。

響「よかったなぁ!みんな!次のやつはプロデューサーに選んでもらおうな!」

P「貴音…律子。俺は、すまない。情けない奴で…俺は、もう無理だ…」

294: 1 2014/01/08 00:02:21 ID:GyLC/dKLP
響「ねぇプロデューサー。ハム蔵が見つかるまで、ここにいてよ!」

響はくいくいと袖をひっぱる。

P「駄目だ。いっしょにはいられない」

どうして、どうしてお前はそんな笑顔をするんだ。

P「響…お前はもう、駄目だ。アイドルから降ろさないと。それと、病院に、行こう。響」

響「どうしてそういうこと言うんだ」

P「響。俺にはもうどうしようもない。お前は…壊れているんだ」

305: 1 2014/01/08 00:04:41 ID:GyLC/dKLP
響「壊れてない。自分は健康だぞ」

響「ハム蔵、いっしょに探そう?プロデューサー」

そう言うと、響はガラスケースの裏からはさみを出してきた。
昔の物で、両側が刃物になっている、今ではもう見ない危ない形の物だ。

P「響。それを置くんだ」

はさみには血がついている。なるほど、散らばってるバラバラのハムスターはそれでやったのか?

響「ハム蔵探そうよ?プロデューサー。ハム蔵、探そう?自分、プロデューサーとならやれるきがするんだ。ハム蔵探そう?」

314: 1 2014/01/08 00:07:05 ID:GyLC/dKLP
響「大丈夫。プロデューサーの世話は自分がやるぞ。プロデューサーはハムスターを選ぶだけでいいんだ」

P「くそっ!」

このままでは危ない。俺は玄関にダッシュするか考えた。
しかし扉が閉まっている。開けている間にはさみに切られるかもしれない。

しかしこれ以外に、どうしようもない!

P「うわああああああ!!」

思いっきり叫んで、玄関に走ろうとする!

響「待ってよ」

318: 1 2014/01/08 00:09:55 ID:GyLC/dKLP
と、その時。

響「うわぁ!」

痩せ細ったワニ子が、響に飛びつき、噛み付いた。

ワニ子と目が合った気がする。逃げろ。そう言ってくれたのだろう。

俺は迷わず玄関に飛び込む。

扉を開け、閉める時ちらりと見えたものは、響がワニ子にはさみを刺している瞬間だった。
ワニ子は刺されながらも、響の腕に噛み付いていた。

334: 1 2014/01/08 00:12:03 ID:GyLC/dKLP

765プロ

律子「プロデューサー!」

貴音「あなた様!!」

P「はぁ…はぁ…はぁ…」

貴音「あなた様、響は…」

P「貴音…ごめんな…約束、守れそうにないよ」

俺は貴音にすがり、泣き崩れた。

344: 1 2014/01/08 00:13:56 ID:GyLC/dKLP
二ヶ月後…

響が事実上のクビとなってから二ヶ月。

事務所には昔と変わらない日常があった。

響は当然、いないけども。

あれから何度か、響を見たという話を聞く。
…俺にとっては、もう聞きたくもない名前だ。

名前が出るその都度、ハムスターの入ったガラスケースを、笑顔で持ち帰っていたという話を聞かされる。

…今も何処かで、ハムスターを購入しているのだろうか。

そして今もあの部屋で、ハムスターの中からハム蔵を探しているのだろうか。

354: 1 2014/01/08 00:15:43 ID:GyLC/dKLP
春香は、周りのフォローもありすっかり立ち直っている。

墓の件、響がハムスターを買う理由を知っている貴音は、まるで半身が無くなったように落ち込んでいる。
それでも、仕事はキチンとこなす。まったく、大したやつだ。

響の家に行った日、何が起きたのか。
俺と貴音、社長だけが知っている。

今となっては、もう理由を聞く人などいない。

春香「プロデューサーさん、午後のお仕事もよろしくお願いします!」

P「ああ。そうだな。よし、行くか!」

響のいない765プロは、今日も動いていく。

おわり

363: 1 2014/01/08 00:17:23 ID:GyLC/dKLP
お疲れ様でした。
春香ちゃん舐めたいです。

わざわざ最後まで読んでいただいてありがとうございます。

春香に踏まれたいなぁと思っているところで思いつきました。悪気はありません。
響も大好きですし、ハムスターも好きです。

春香「惚れ薬」
亜美「惚れ薬…?」
あずさ「惚れ薬ですか?」

も書いたので、そちらも読んでいただくと嬉しいです。

お疲れ様でした。

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