1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 22:01:10.21 :vV5ofmI30
お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、だったかな
それはさておき
「楓さん」
「はい、何でしょう?」
にこり、と
それはもう満面の笑みで
これ以上ないくらいの笑顔で
俺の膝の上で返事をする
魔女の衣装を着た楓さん
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 22:06:54.12 :vV5ofmI30
「そろそろ降りてくれませんか?」
「無理です」
即答ですか
「何故ですか?」
「降りたくないからです」
うん。実に分かりやすいですね
花丸をあげましょう
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 22:14:27.33 :vV5ofmI30
「ですが、これでは仕事ができません」
「明日にしましょう、仕事は」
簡単に言わないでください……
「明日の仕事はわーくわく、ですね」
全然わくわくできませんからね!?
むしろ、ちひろさんに怒られるビジョンしか思い浮かびませんよ……
「今日できることは今日やりたいんですよ」
きょとんとしていらっしゃる
鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔だ
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 22:27:39.78 :vV5ofmI30
「もぅ、ノリが悪いですね」
ぷくっと頬を膨らませて抗議された
子供みたいな仕草だが
この人がすると、不思議とそんな感じがしない
「貴女を膝を乗せている時点でノリも何もないでしょう……」
散々お願いをされて、こちらが折れてしまった訳なんだが
わーい! なんて飛び跳ねて喜ばれたら、流石に悪い気はしない
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 22:38:57.22 :vV5ofmI30
……だが、断言しよう
これはまずい
俺が色々とまずい
楓さんの体温、柔らかさ
そして、この良い匂い
変態みたいな言葉ではあるが、こんな言葉しか出てこない
軽いパニック状態だ
たまに、身じろぎするのだが
太ももに伝わる柔らかさにびくりとしてしまう
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 22:46:01.92 :vV5ofmI30
年少組のアイドルたちにお願いされて、膝に乗せる時はあるが
考えが甘かったようだ
大人と子供でこうも変わってしまうとは……
しかし、現在進行形な今
どうにかして乗り切らなくてはいけない
ちらりと元凶でもある楓さんを見てみると
「~♪」
こちらの考えなんてお構いなしに御機嫌だ
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 22:52:12.58 :vV5ofmI30
「どうしたんですか?」
こちらの視線に楓さんが気づく
どうしたものか
何か会話の糸口を見つけて、気持ちを切り替えなくては
「いえ。そういえば、その衣装はどうしたんです?」
目を凝らして衣装を見てみる
生地や裁縫がしっかりしていて、安物ではない事が一目でわかる
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 22:59:39.62 :vV5ofmI30
「凛ちゃんたちが奈緒ちゃんに用意したみたいなんです」
ほうほう
「でも、奈緒ちゃんが逃げちゃったらしくて」
あいつ恥ずかしがり屋だもんな
容易にイメージが想像できる
「で、それを譲り受けたと?」
よく逃げ切ったな、奈緒
「正解です」
ウィンクも頂きました、ありがとうございます
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 23:05:00.45 :vV5ofmI30
「でも、私には少し大きいみたいなんです」
ぴらり
指で胸のあたりを開けてみせる
「ほら」
瞬間的に顔を背ける
「はは、そうなんですか」
狙ってやってるのか無自覚でやってるのか
この人は無自覚なんだろうなぁ……
12 :>>5 >>10それぞれ思い描くPで変換してもらえれば :2015/11/02(月) 23:12:30.50 :vV5ofmI30
「丈は短いんですよ」
ぴらり
今度はスカートの裾を摘まむ
また顔を背ける
これは精神攻撃か何かですか?
男としての性とプロデューサーとしての理性
まだプロデューサーとしての理性が勝ってくれている
よし、まだまだ耐えられる
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 23:17:49.95 :vV5ofmI30
「あら? どうしたんですかプロデューサーさん」
にこにこと笑って顔を覗きこんでくる
貴女、分かっててやってますよね?
「あの、そういうのは自重してくれますか」
おずおずと切り返す
……何で俺がお願いする立場になっているんだ
「ふふっ」
俺の言葉を聞いてから、笑顔の質が変わった
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 23:22:48.91 :vV5ofmI30
アイドルの高垣楓としてではなく
女としての高垣楓
ファンを魅了するのではなく
男と虜にする笑み
「私、嬉しいんです」
嬉しい?
「プロデューサーさんが私を意識してくれて」
こんな状況で意識しない奴なんていないでしょうに
そんな奴がいたら是非見た見たいものだ
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 23:33:25.17 :vV5ofmI30
「貴女の周りには可愛い子がたくさんいます」
みんな俺がスカウトしてきた子たちですからね
自信を持ってプロデュースしていますし
どこに出しても恥ずかしくはないです
「そんな子たちが少なからず貴方に好意を持っています」
年上の異性への憧れを勘違いしてるだけじゃないですかね?
こんな男を好きになっても無駄だと思います
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 23:47:10.59 :vV5ofmI30
男なんて腐るほどいるし
あれだ。恋に恋するお年頃って奴だ
うん、きっとそうに違いない
「皆、それぞれアピールしています」
身に覚えがあるでしょう? と聞かれた時
まったく無いとは言えないが
そこまで言うほどのものかと思うと疑問が残る
弁当や差し入れなんて、感謝の気持ちなのではないだろうか
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/02(月) 23:54:48.83 :vV5ofmI30
「ある時、私の中で変化があったんです」
淡々と楓さんが語る
自分の気持ちを、俺に対する感情を
「変化ですか?」
変化
変わること、変わってしまうこと
あるいは、変わらなければならなかったこと
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 00:00:17.18 :hpm/xeHh0
「私は皆を見てるだけで楽しかったんです」
いつもの楓さんは優しい笑顔で
年少組からは良いお姉さんとして
同年代からは良きライバルとして
良い関係を築いていると思っていた
楓さんの変化にまったく気づく事ができないとは
いつも近くにいた自分が情けなく思える
19 :>>1です :2015/11/03(火) 00:05:22.08 :hpm/xeHh0
「人間関係の悩みですか? 俺に何かできることはありませんか?」
プロデュースするだけが仕事ではない
色々なケアも仕事のうちだ
彼女たちは売り物ではなく人間なのだから
「いつも優しいですね、プロデューサーさんは」
力なく笑う
さっきまでの楓さんが嘘みたいだ
「でも」
顔を上げて彼女は言う
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 00:12:34.27 :hpm/xeHh0
「私は変わろうと思います」
力を込めた声で彼女は宣言する
「私も負けていられないんです」
楓さん……
貴女がそこまで考えていたなんて
「プロデューサーさんのお膝に乗せて、なんて言うの勇気が必要だったんですよ?」
えっ?
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 00:20:28.85 :hpm/xeHh0
「楓さん、ちょっと待ってください」
「はい、待ちますよ」
にこりと笑う楓さんの瞳は妖しい光をしていた
「整理してみましょう。楓さんはどうして俺の膝の上に?」
問い1
「私からアピールしようと思ったからです」
問い1の答え
「貴女が変わろうとしたのは?」
問い2
「皆にプロデューサーさんを取られたくなかったからです」
問い2の答え
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 00:26:58.35 :hpm/xeHh0
……頭が痛くなってきた
この25歳児はやることが斜め上だ
「楓さん、貴女って人は……」
まったく、こんな事しなくても他にやりようがあるでしょうに
自分を安売りなんてしては駄目だ
「ふふっ、プロデューサーさん」
猫撫で声で楓さんが言う
「私を膝の上に乗せてくれたのは、少しでも期待があったからじゃないですか」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 00:30:16.81 :hpm/xeHh0
「なっ……」
言葉に詰まる
「ほら、やっぱり」
攻守逆転
ここぞとばかり攻めてくる
「私はもう子供じゃありません、大人の女性ですよ」
顔が近付いてくる
お互いの瞳の中に自分を確認できる距離
吐息が感じられる距離
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 00:34:42.48 :hpm/xeHh0
くすくす
楓さんが笑う
「スタイルには自信があるんですよ」
彼女の瞳に見つめられ
まるで金縛りにあったかのように動けなくなる
駄目だ
「もっと私を感じてみたくないですか?」
やめてくれ
「悪戯しちゃいますよ? それとも悪戯したいですか?」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 00:42:00.35 :hpm/xeHh0
「どちらが良いですか?」
貴女はそんなことをしてはいけない
「ふふっ」
俺の胸に楓さんの指が這う
それが皮肉にも俺の反撃の狼煙になった
「やめるんだ楓さん!」
腹の底から声を出す
びくりと楓さんが硬直する
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 00:48:37.66 :hpm/xeHh0
「これ以上は怒りますよ」
意思を込めて楓さんを見る
これ以上この人にこんな事をさせてはいけない
俺の大事な人にこんなことは……
「……」
驚きと悲しみだろうか、詳しく読み取る事はできなかったけれど
がくり、と
糸が切れた操り人形のように楓さんが頭を垂れる
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 00:52:22.27 :hpm/xeHh0
「……うぅ」
しばらくして聞こえてきた泣き声
「なんでですか……」
ゆっくりと顔を上げた楓さんの瞳は、涙で濡れていた
「なんで拒絶するんですか……」
ゆっくりと言葉を紡ぐ
「私の事が嫌い……なんですか?」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 00:56:55.16 :hpm/xeHh0
「何か言ってくださいよ……ねぇ」
とん、と
彼女の手が俺の胸と叩く
弱弱しく、痛みなんて感じない力で
「何で、何でなんですかっ……」
そこからはもう泣き声だけだった
付き合いが短いわけではないが、泣き顔を見たのはこれが初めてだ
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 01:03:23.80 :hpm/xeHh0
楓さんは泣き続ける
彼女の綺麗な瞳から涙が止めどなく溢れ
俺のスーツに染みを作っていく
こんな時に気の利いた台詞を言える奴がモテルんだろうなぁ
なんて、間抜けな事を考えていた時だった
「どうせ私なんて……」
楓さんの弱弱しい言葉を耳が拾う
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 01:13:25.61 :hpm/xeHh0
「こんな女に魅力なんて感じないですよね……」
魅力を感じない?
「皆に嫉妬して、みっともないですよね」
人間、嫉妬の一つや二つあるんじゃないですか?
「もう、どうしたらいいのか……」
……
「私、私……プロデューサーさんに嫌われたくないんですよぉ!」
それは力無き叫びだった
でも、俺の中でその言葉は、どんどんと大きくなる
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 01:19:24.67 :hpm/xeHh0
「楓さん」
言葉と同時に体が動いていた
両腕で楓さんを優しく抱きしめる
「落ち着いてください、楓さん」
俺の心音を聞かせるかのように
壊れ物を扱うように胸に優しく抱きとめる
「プロデューサーさん……」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 01:24:28.71 :hpm/xeHh0
「暖かいです」
「ええ、暖かいですね」
楓さんがおそるおそる腕を背中に回してきた
大切な人の暖かさ
大切な人の匂い
大切な人の柔らかさ
全てが愛おしく感じる
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 01:29:36.43 :hpm/xeHh0
「すみません、プロデューサーさん」
ようやく泣きやんでくれた
「良いんですよ。気にしないでください」
このくらい容易いもんさ
「もう少しだけこのままでいいですか?」
おずおずとしたお願い
「ええ。貴女が望むまで」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 01:35:01.90 :hpm/xeHh0
「ありがとうございます。ねぇ、プロデューサーさん」
「何ですか?」
「私、嫌われてないですか?」
「嫌いな人にこんな事しませんよ」
抱きしめる力を少し強くした
「……ふふっ、そうですか」
嬉しそうな言葉が返ってきた
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 01:41:29.99 :hpm/xeHh0
「それに貴女はとても魅力的です」
こうしてる間にも胸の鼓動が速くなっている
「嫉妬だってしてもいいじゃないですか」
俺だってほかプロデューサーにしたりするし
「楓さんは楓さんですから」
人は人、他人は他人です
「プロデューサーさんに言われると納得しちゃいます」
「ええ。存分に納得してください」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 01:50:37.50 :hpm/xeHh0
「変なプロデューサーさん」
顔を上げた楓さんには笑顔が戻っていた
くだらないジョークを言って
皆と喜びを分かち合う、あの笑顔が
「これが俺ですから」
俺なりの不器用なやり方
スマートじゃないけれど、これしか知らない
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 02:00:44.31 :hpm/xeHh0
五分かそれとも一時間か
どれだけの時間が経ったのかはわからない
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
微笑んだ後にするりと俺の膝から降りる楓さん
そして彼女は深呼吸をする
すぅ、はぁ
「私、高垣楓は誓います」
俺のアイドルが高らかに宣言する
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 02:12:37.49 :hpm/xeHh0
事務所がステージに変わる
限られた者にしかない輝き
きらきらとした美しさ
そう、貴女はこうあるべきだ
「高垣楓は、貴方の一番になります」
美しい魔女の声が綺麗な夜空に響いた
おしまい
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 02:14:24.50 :hpm/xeHh0
読んでくれた人に感謝を
コスプレした楓さんが見たかった、ただそれだけなのです
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/11/03(火) 03:22:34.32 :8+WIV32OO
いいふんいきだったおつ
SS速報VIPに投稿されたスレッドの紹介です
【SS速報VIP】楓「トリックオアトリート」
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