1: だりやすかれんだよー ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:06:09.52 ID:0XlP4mvFO
――大きくなったわたしへ。
おげんきですか。
わたしはいま、びょういんのベッドでお手がみをかいています。
大きくなったわたしは、きっともうげんきいっぱいで、おそとを走りまわってるとおもいます。
てんてきとか、けんさとか、しないでいい、けんこうな体になってたらうれしいです。
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2: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:07:36.27 ID:0XlP4mvFO
―――
おかあさんとおとうさんも、おげんきですか。
わたしはすぐにおうちにかえりたくなって、おかあさんをこまらせてしまいます。
おとうさんも、おしごとでまい日たいへんなのに、おみまいにきてくれます。
でも、わたしがわがまま言っても、いつもやさしくあたまをなでてくれます。
だから、大きくなったわたしも、いっぱいいっぱいふたりをなでてあげてください。
3: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:09:08.90 ID:0XlP4mvFO
―――
アイドルになるゆめ、かなえましたか。
テレビの中でうたってるおねえさんたちは、かわいくて、かっこよくて、げんきいっぱいです。
わたしも早くげんきになって、おねえさんたちみたいにうたってみたいです。おどってみたいです。
おけしょうもべんきょうして、きれいになって、かわいくなりたいです。
早くおとなになりたいな。
4: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:10:52.23 ID:0XlP4mvFO
―――
お友だちはできましたか。
いまのわたしは、ちょっぴりさみしいです。みんなすぐにたいいんしちゃうから。
だから、大きくなったわたしは、お友だちおもいの子になってたらいいです。
そしたらきっと、さみしくないよね。
5: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:11:52.01 ID:0XlP4mvFO
―――
かきたいことがいっぱいで、かみがたりません。
かなえたいこと、まだまだたくさんあります。
このお手がみをよんだら、おしえてください。
6: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:13:45.41 ID:0XlP4mvFO
大きくなったわたしは、すてきな女の子になっていますか。
すきな男の子はできましたか。
まい日がたのしいですか。
じまんのわたしになっていますか。
えがおでいますか。
いろんなことをけいけんして、いまのわたしより、もっともっとすてきなおとなになってたらいいな。
いまのわたしの、なんばいもしあわせでいてください。
いまのわたしより。
―――
7: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:14:58.95 ID:0XlP4mvFO
―――
――
―
――子どもの頃使ってたポシェットを部屋で見つけて、懐かしくなって事務所に持ってきた。
中から綺麗に折り畳まれた紙が出てきたのが運の尽き。
「なにこれ。んー……手紙? 『大きくなったわたしへ』――?」
一瞬にして奪い取られた。やられた……!
8: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:16:58.49 ID:0XlP4mvFO
部屋中追いかけ回したけど、2対1じゃ敵うはずもなく。
世間をなんにも知らなかった頃の私の、恥ずかしい手紙の中身を全部朗読された。
ひどいひどい!
読み上げた張本人は、目尻に涙を浮かべて顔を真っ赤にしながら笑いをこらえてる。
うるさい、なにが『ロックだね』よ。まともにギターも弾けないくせに!
……あぁダメだ、精一杯の悪口も効いてない。ついにソファーに突っ伏して笑い転げだした。あぁもう。
9: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:18:39.49 ID:0XlP4mvFO
――で? アンタはいつまで私の頭撫でてるつもり?
まるで青い猫型ロボットみたいにあったかーい目で私を見てくる。
アンタのその自慢のぱっつんヘアーもボサボサにしてやるっ。
う、うるさいうるさい、かわいくないっ!
熱を出したみたいに顔が熱い。もはや逃げ出すことしかできない私を誰が責める?
……2人が責める。もう、いつの間にか私が追いかけられる番になってるし!
10: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:20:46.13 ID:0XlP4mvFO
ま、待った! も、もうヤメにしない?
私もアンタたちもなにも見てない。おーけー?
……その顔絶対分かってないでしょ!
いい? ぜっっったい他の人に見せないでよ? 特に――
がちゃり
あ、おかえり。新しいお仕事?
あああああああダメだってばああああああ!
11: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:22:05.43 ID:0XlP4mvFO
――は。ははは。あはははは。
もうなにも怖くない。いつか仕返ししてやる。
覚悟してなさいよ……!
「分かった分かった♪ いつかそんな日が来たらいいねー?」
「ふふ、楽しみにしてるね……♪」
にこにこ、にこにこ。ムカつくくらい大好きな笑顔。
つられて、私も笑った。
「――ばーか♪」
12: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:23:43.41 ID:0XlP4mvFO
同情されるより、腫れ物扱いされるより、声を上げて笑ってくれた方がずっといい。
それだけで救われた気持ちになる。
「わ、笑って悪かったよ加蓮。気、悪くしたか……?」
私の手を引いてここまで連れてきてくれた人が、申し訳なさそうに聞いてきた。
「ううん、もういいよ。はぁ、顔あっつい……ふふふっ」
「そ、そうか?」
うん。笑ってていいよ。私も、昔の私を笑うから。
昔の分も、いっぱいいっぱい笑顔でいるから!
13: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:25:05.19 ID:0XlP4mvFO
――ね、昔の私。
元気だよ。
お母さんもお父さんも、「いってらっしゃい」って笑顔で送り出してくれる。
なれたよ、アイドル。……ちょっとスレてて、夢を忘れてた時期もあったけどね。
友だちもできた。一生大切にしたいって思える、大好きな友だちが。
14: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:26:39.81 ID:0XlP4mvFO
素敵な女の子かどうかは……昔の私はどんなふうに思ってたか知らないけど、多分なれてるかな。
好きな男の子……これはまぁ、いいでしょ。アイドルだしね。
「ん? なんだ加蓮」
「んーん、なんでも」
こほん。
――毎日が楽しいかって? そんなの当たり前。楽しくない日なんてないよ。安心してよね。
きっと、アンタが思ってるよりずっとずっと、ずーっと自慢できる私になってるから。
だから、いつも笑顔だよ。
15: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:27:47.66 ID:0XlP4mvFO
アンタが描いた夢も未来も、きっと実現してみせるから。
大切な人たちに囲まれて、今も幸せいっぱいだけど。
もっともっと幸せになるから。
またいつか、この手紙を見たときに……今よりもっと幸せだって言えるように、頑張るから。
サボらないように、見張っててよね。
16: ◆5F5enKB7wjS6 2016/05/06(金) 08:29:06.65 ID:0XlP4mvFO
昔の私へ。
「――大丈夫っ」
他の誰にも聞こえないようにささやく。
これで充分でしょ? 同じ私なんだから。
だから、
「加蓮、なにしてるの? 早くレッスン行こうよ!」
「今日は歌唱レッスンだから……加蓮、お手本よろしくね。ふふっ」
「気をつけてなー、頑張れよ!」
「うん、すぐ行く! いってきますっ」
――心配しないでね!
おわり