【藤原肇SS】藤原肇「夜空に浮かぶ、星のように」

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:12:11.63 ID:fdHSr9T30

つい先程まで歩いていた通り。

時間が余ったからと立ち寄った、お洒落なカフェ。

思わず見上げてしまった、ビルの群れ。

それらも霞むほどに、私達は空へと近づこうとしています。

「わぁ……ほら、見てください、――さん」

まるで空を飛んでいるみたい、なんて。

「……そうだな」

小さなガラスの箱に、私と彼と、二人きり。

まるで巨人の肩に乗ったみたいに。

今ならどこまでも、どこまでも見渡せるんじゃないかと思う程でした。

3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:13:26.97 ID:fdHSr9T30

「ふふ……素敵ですね」

見上げれば、果てしなく続く空。

足元には、いくつもの大きな、けれど小さなビル。

きっと夜には、天の川のようにきらきらと輝く夜景が見られるのかな。

「こうしてずっと、遠くを見ていると……なんだか、心が晴れる気がします」

憧れていた、都会の空。

少しだけくすんでいるけれど、どこまでも高く、広がる空。

ずいぶん遠い場所に来てしまったのかな、と少しだけ不安な気持ちが生まれるけれど。

誰かさんと一緒にいるから、大丈夫だって。

ずっと、まっすぐ前を向いていられるんだって。

やっぱり恥ずかしいので、鍵をかけて、そっと心の中にしまっておきます。

4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:17:17.15 ID:fdHSr9T30

まだまだ登ってゆく、ガラスの箱。

まるでお人形のショーケースみたい。

もちろん、隣には……ふふ。

「……どうした?」

「いえ……とてもロマンチックで、素敵だなって」

なんて笑ってみるけれど。

「本来は……外から見えるようにするのが目的だがな」

外から見えるから事件が起こりにくい、だなんて。

「むぅ……」

もっとロマンチックに考えましょうよ、と訴えかけてみるけれど。

今でも十分ロマンチックだろ、と笑うばかりでした。

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:18:24.93 ID:fdHSr9T30

ゆるやかに減速し始める、ガラスケース。

本当に、この手も天に届くようなほど、高い空に来てしまいました。

私のふるさとも見えないかな、なんて思ったけれど。

「……どうした?」

笑われるのはなんだか不服なので、これも心の中へ。

なんでもありません、と笑っておきます。

「――さん」

今、私には何が見えていると思いますか。

じっと、考えたような素振りをして。

「何を見ているか、何が見えるかは……肇次第、だろう」

ずるいなぁ、と思ったけれど、それも正解にしてあげます。

何だそれは、と苦笑いをされてしまいました。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:22:32.31 ID:fdHSr9T30

立ち並んでいた中でも、一番高いビルの、一番上の階。

ガラス張りの大きな広間が、今日の会場でした。

主催の方に案内をしてもらいながら、楽屋代わりの部屋へと通されて。

一旦荷物を置いてから、打ち合わせに出るようです。

「そういえば……式典のリストだが、見ておくか?」

今日のお仕事は、式典でのステージ。

主催の方が出身とのことで、岡山に所縁のある方々が呼ばれていて。

それで、私にもお話が来たそうです。

「……本当に、凄い方々なんですね」

「ああ……実業家、芸術家、とにかく一流と呼ばれる面々だそうだ」

確かに、私でも知っている有名な名前がちらほら。

こんな中での、私のステージ。

「……不安か」

すぐに、心の中を見抜かれてしまって。

やっぱり筒抜けなんですね。

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:23:27.70 ID:fdHSr9T30

「……大丈夫です」

私は、私ですから。

どんな場所でも、私らしく。

「足は……すくんでませんよ」

「そうか」

ならいいんだ、と笑ってくれて。

ぽふん。

「あ、あの」

大丈夫だぞ、と笑ってくれるけれど。

頭を撫でられるのは、やっぱり恥ずかしいな。

「駄目だったか?」

「……いえ。もう少しだけ」

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:24:26.57 ID:fdHSr9T30

打ち合わせもリハも終えて、衣装を身に纏って。

「いつでも、大丈夫です」

そうか、もうすぐだぞ、と言う彼自身も、震えているのが分かりました。

少しだけ深呼吸をして、彼の手を握ります。

「あなたが緊張してどうするんですか、――さん」

だから、笑ってください。

頑張れって、私の背中を押してください。

「私を……星にしてください」

夜空に、鮮明に浮かぶ星に。

いつだって私を輝かせるのは、他の誰でもない。

あなたなんですから。

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:26:09.56 ID:fdHSr9T30

照明が落ちて、私の出番。

舞台に立ってスポットを浴びると、いつものライブとはやはり違うけれど。

皆が見ているんだな、と感じます。

ステージからの三方は、ガラス張りになっていて。

まるで、夜空に包まれているかのよう。

「皆さんこんばんは。藤原肇です。本日はこのような式典にお呼び頂き……」

夜の闇の中で、ただ一人。

光を浴びて、光を放つ。

「……それでは短い舞台ではありますが、最後までお付き合いください」

しっとりと流れだす、ピアノの旋律。

緊張を振り払うように、少しだけ胸を張って、言葉を紡ぎます。

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:28:10.33 ID:fdHSr9T30

遠い夜空に、ぼんやりと浮かぶいくつもの光。

今までに感じたことのないような冷たさがあるような気がして。

最初は、怖いなと思っていました。

けれど、それもまた。

ひとつの自然と捉えてみると、不思議と悪くないような気がします。

分からないからこそ、恐怖が生まれる。

あの頃の私のように。

だからこそ、私は。

もっともっと、知りたい。

都会の夜空も、アイドルの事も、あなたの気持ちも、何もかもを。

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:31:01.93 ID:fdHSr9T30

「ありがとうございました。次の曲が最後の曲となります」

イントロのメロディが、静かに、けれど力強く響きます。

「……遥か高くからの東京の景色は、どこまでも街並みが広がっていて」

思わず飛び出した声は、そのままマイクを伝って。

「あまりの広さに、なんだか飲み込まれてしまいそうな気さえします……っ」

気付けば、歌うタイミングを逃してしまいました。

それまでじっと聞いてくれていた皆さんが、どうしたのかな、とどよめきだして。

端の席に座っていた彼は、何をしているんだ、といった顔を少しだけ浮かべたけれど。

何かを閃いたように、裏方へと走って行くのが見えました。

それに答えるべく、しっかりと前を向いて。

「……この広い街の中で、私は迷子なんじゃないかって。時々、そう思うことがあります」

言葉を、続けます。

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:32:18.34 ID:fdHSr9T30

「けれどもこうやって、私が歩き続けていられるのは」

誰かの照らしてくれる光のおかげです。

それは友人や、家族や、ファンの皆さん……私を支えてくれる、皆さんの気持ちなのかなと思います。

私の進む道を、目の前のものを、心の中に渦巻く影を照らす、誰かの光。

だから……私は、どんなに広い場所でも、目指すべきものを見失わずに。

追い求めるものを見失わずに、歩いてゆけるのだと、思っています。

「……私も誰かを照らす、星になれたら」

夜空に、鮮明に浮かぶ星になれたなら。

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:35:45.77 ID:fdHSr9T30

「……?」

少しずつ、フェードアウトするラストソング。

この舞台の失敗を告げているのかな、と思いました。

ああ、やっぱりでしょうか。

どうして勝手なことをした、と怒られてしまうのかな。

でも、私は……。

曲が止まり、スポットが落ちて――

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:37:24.19 ID:fdHSr9T30

――突然かき鳴らされた爆音に、思わず飛び上がってしまいました。

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:39:03.11 ID:fdHSr9T30

駆け出しの頃から歌ってきた、アップテンポのナンバー。

肇ならきっとこういうのも歌えるだろう、と彼が薦めてくれた曲でした。

そうそう、いつかのライブのお仕事の時も、この曲を歌ったんだっけ。

昔からの憧れだった、アイドル。

彼女達からもらった熱意を、勇気を呼び覚ますような熱い気持ちが湧き上がるようでした。

もう一度、スポットライトが私を照らしてくれている。

迷うことは、ない。

「それでは、お聞きください――」

私の歌が。私の想いが。

誰かを照らす光になると願って。

私は、歌を歌うのでした。

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:41:18.34 ID:fdHSr9T30

鳴り止まない拍手は、やがてリズムを刻みます。

「ありがとうございます……それでは、もう一曲だけ」

スローテンポの、バラードに乗せて、歌詞をなぞります。

ゆるやかに、たゆたうように、夜の闇に身を委ねて。

不思議と、肩の力は抜けていました。

もしかしたら、これが私なんだと思えたからなのかも、しれません。

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:42:31.97 ID:fdHSr9T30

ステージから降りた私を待っていたのは、なんとも言えない顔をした彼でした。

「……お疲れ様」

「お疲れ様です、――さん」

あまり驚かせないでくれ、とだけ怒られました。

自分でもどうして、あんなことをしたのか不思議でたまりません。

けれど、そうしたかったから。

気付いた時には、もう後には戻れませんでしたし。

「あの曲、よく持ってきてましたね」

本当は、歌うはずのなかったナンバー。

今日のステージには合わないから、と真っ先に候補から外れたはずの曲でした。

「……こんなことがあるとも、分からないからな」

やっぱり、私の事を分かっているのかな、なんて。

頼もしいけれど、恥ずかしいような。

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:43:06.87 ID:fdHSr9T30

あれだけ高い空から見えていた小さな景色も、段々と大きくなって。

ガラスの箱は、二人を乗せて地上へ。

「……本当に、今日はどうなるかと思ったぞ」

「ふふ……ごめんなさい、――さん」

もっと言われるのかと思ったけれど、いいんだ、と笑ってくれました。

主催の方々からは、結果は良かったけれど、と苦笑い。

でも、私を呼んでよかった、と言ってもらえました。

結果オーライ……とは、あまり言えるような内容ではありませんけれど。

自分でも、胸を張っていいと思うことにします。

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:44:20.06 ID:fdHSr9T30

「だが……今までよりもずっと、肇らしいステージだった」

そうですか、そうだ、確認しあって。

「……だったらもっと褒めてください」

エレベーターを降りたらな、だなんて。

やっぱり、ロマンチックじゃないなぁ。

私、頑張ったんですからね。

「……そうだな」

あの舞台、怖かったんですよ。

「そうだな」

ちゃんと、聞いてますか?

「もちろん」

むぅ……。

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:46:10.34 ID:fdHSr9T30

だったら。

少しくらい、いいですよね。

「……褒めるだけじゃ、駄目ですからね」

私という星が、くすんだ夜空のなかでも鮮明に浮かんでいられるように。

もっと、もっと。

「もっと私を輝かせてください」

これからもずっと、一緒にいてください。

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/19(土) 03:47:59.17 ID:fdHSr9T30

以上で終わりです

ありがとうございました

転載元
藤原肇「夜空に浮かぶ、星のように」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1397844608/

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