1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 00:49:32.12 ID:yqd1jA8b0
P「まあ、なんだ。誰にでも調子の悪い日はある」
千早「はい……」
P「今日の結果を反省するより、明日に向けて気持ちを上に持っていく方が……」
千早「……」
P「……」
P「……もう11時だな。終電を逃すといけないし、送っていくよ」
千早「ありがとうございます……」
2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 00:50:14.15 ID:yqd1jA8b0
P「……」
千早「……」
P「……」
千早「プロデューサー、あの……」
P「なに?」
千早「……やっぱり私、帰りたくないです」
千早「プロデューサーの家、ここから近い所でしたよね?」
P「……そういう冗談、嫌いだって言ってなかった?」
千早「冗談のつもりで言ってませんから」
P「……」
千早「……お願いします。なんだか、1人で部屋にいるのが急に嫌になって」
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 00:51:24.04 ID:yqd1jA8b0
P「春香の家にでも行けばいいじゃないか」
千早「もう11時ですよ? 迷惑、かけたくないんです」
P「俺にだったらかけてもいいのか」
千早「なんでも力になるって言ったのはプロデューサーですよね」
P「ああ、言った。言ったし、その気持ちに変わりはない」
千早「なら……」
P「だから、ダメだ。俺の部屋は、そう、狭いし汚いんだ。やめて方がいい」
千早「……でしたら、プロデューサーが私の部屋に来ますか? それでも構いませんよ」
P「あのさ、千早」
千早「お願いします」
P「お願いします、お願いしますって言われてもな……」
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 00:52:33.26 ID:yqd1jA8b0
千早「……」
P「……」
P「……ああ、もう。今日だけだからな」
千早「ありがとうございます。……ふふっ」
P「どうかした?」
千早「いえ、本当なんですね、プロデューサーは押しに弱いって」
P「なあ、引き返してやってもいいんだぞ」
千早「ダメですよ。もう終電、出ちゃいましたから」
P「……」
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 00:53:40.50 ID:yqd1jA8b0
千早「……ごめんなさい。わがままで」
P「……いいよ。あいにくだけど、気持ちはよく分かるし」
千早「1人が嫌な夜?」
P「ああ。もっとも、今はもうそんな気持ちにもならないけどな」
P「今さら夜に物思いに耽るような歳でもないし」
千早「……悪かったですね。子どもっぽくて」
P「馬鹿にしたつもりはないけど」
千早「そう言う風に聞こえたんです」
P「そうか。なら、ごめん」
千早「……別に、いいですけど」
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 00:55:14.03 ID:yqd1jA8b0
千早「静かなアパートですね」
P「周りに何もないだけだよ」
千早「良い所じゃないですか。星だってよく見えますし」
P「……ありがとう。少しだけ好きになれた」
千早「私を?」
P「アパートをだ」
千早「……ふふっ、どういたしまして」
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 00:57:16.34 ID:yqd1jA8b0
P「部屋の鍵、郵便受けの中にあるんだ。開けてくれないか」
千早「無用心じゃないですか?」
P「別に、盗られて困るような物は持ち歩いてるし」
千早「撮られたら困りますけどね」
P「うん? なんだって?」
千早「いえ。……このドア、響きますね」
P「ああ、だからゆっくり閉めないと他の部屋の人に迷惑なんだよ」
千早「あ……、ごめんなさい」
P「いいよ。俺が言い忘れただけだし。それより、いらっしゃい」
千早「……はい。お邪魔します」
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 00:59:21.90 ID:yqd1jA8b0
P「飲み物取ってくるよ。テレビでも見ててくれ」
千早「あ、はい……」
P「……」
千早「言っていたより、ずっと綺麗な部屋ですね。……少し不思議な臭いがしますけど」
P「ああ、ごめん。きっと煙草の臭いだな」
千早「吸ってましたっけ?」
P「アイドルの前では控えてるんだ。ヤニ臭いアイドルなんて、イメージ最悪だろ?」
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:01:02.88 ID:yqd1jA8b0
千早「そうでしょうか? 私はこの匂い、好きですけど……」
P「変わってるな。どうして?」
千早「プロデューサーと同じ匂いですから」
P「……」
千早「プロデューサー?」
P「……そう言うこと、あまり言わない方がいいと思う」
千早「どうしてです?」
P「いや……」
千早「?」
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:04:04.21 ID:yqd1jA8b0
P「それより、ほら、どうぞ。少し熱いけど」
千早「あ、どうも……」
P「……嫌いだった?」
千早「……いえ、どうして私だけホットミルクなんでしょうか」
P「だって、コーヒーだと眠れなくなるだろ」
千早「じゃあ、プロデューサーは寝ないんですか?」
P「書類仕事を持って帰ってきてるからね」
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:05:20.56 ID:yqd1jA8b0
千早「じゃあ、私も起きてます」
P「ダメだよ。レコーディングは明日も続くんだ」
千早「明日も付き添っていただけるんですよね? なら、プロデューサーも起きちゃダメですよ?」
P「俺、千早より大人だ」
千早「口答えしないの」
P「……」
千早「あっ、……すいません」
P「えっと、俺風呂掃除してくるよ。そのまま先に入らせてもらうけど……」
千早「プロデューサーの部屋です。気にしないでください」
P「そうか。じゃあお先に。適当にくつろいでくれててくれ」
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:06:49.89 ID:yqd1jA8b0
P「千早、風呂いいぞ」
千早「……」
P「千早、起きて。千早?」
千早「……ん」
P「風呂、もういいぞ」
千早「……ゆう?」
P「…・・?」
千早「え、あ……!」
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:08:14.95 ID:yqd1jA8b0
千早「あ、あの、私いま……」
P「……風呂、入れるよ。俺ので悪いけどTシャツあるから、それに着替えてくれ」
千早「え? あの、あ……、ありがとうございます」
P「これ、バスタオルな。おろしたてだから気にしないで使ってくれ」
P「……あと、赤くなるといけないから、目はあまりこすらないほうがいいと思う」
千早「……」
P「嫌な夢でも見た?」
千早「……」
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:10:12.45 ID:yqd1jA8b0
千早「あの、上がりました……」
P「ああ。湯冷めするといけないからこれでも羽織っててくれ」
千早「……もう日付、変わっちゃいましたね」
P「そうだな。千早はもう寝るといい」
千早「……1人が嫌で、お邪魔してるんですよ?」
P「寝るまで手をつなぐくらいなら、してあげてもいいかな」
千早「足りませんよ。そんなのじゃ……」
P「……千早。少し近すぎないか?」
千早「……いけませんか?」
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:12:05.70 ID:yqd1jA8b0
P「あのな、風呂上りの女の子っていうのはそれだけで魅力的なんだよ。言いたいこと、分かるか?」
千早「ええ、嬉しいです」
P「……勘違いから間違いが起こることもある。頼むからやめてくれ」
千早「きっと、勘違いじゃありませんよ」
P「勘違いしてるのは俺じゃなくて、千早の方だよ」
千早「……」
P「……何か、あったんだろ。今日の千早は少しおかしい」
千早「……」
P「話してくれ。きっと、そっちの方がずっと千早のためになる」
千早「個人的な話です……」
P「そうか、じゃあ個人的な話をしよう」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:14:20.44 ID:yqd1jA8b0
千早「……」
P「……」
千早「……今日は優の、弟の命日だったんです」
P「……ああ」
千早「毎年この日はお墓にお参りして、弟とよく行ったお店を回ったりしてたんです」
千早「でも今日は、レコーディングのお仕事が入って……」
P「……ごめんな。全然気が回らなかった」
千早「いえ、仕事に出たのは私が決めたことですから」
千早「いい機会だと思ったんです。その、弟のことを忘れると言うか……」
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:15:12.45 ID:yqd1jA8b0
P「吹っ切る?」
千早「そう、吹っ切る。吹っ切るのに良い機会だと思ったんです。歌の仕事なら、集中してできる。そう思ったんです」
P「悪くない考えだ」
千早「……」
P「でも、ダメだったんだ?」
千早「……はい」
P「……」
千早「レコーディングが始まる時、監督に聞かれたんです。歌を歌うようになったきっかけはなんだって」
P「そっか」
千早「私の歌う理由、弟のためなんですよ。それなのに、弟のことを忘れてしまったら。私、歌う理由がない……」
千早「そう思うと、もう何もかもダメになって……」
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:15:57.86 ID:yqd1jA8b0
P「それで、俺に甘えてみた?」
千早「ええ、ごめんなさい。私、プロデューサーで埋めようとしました……」
千早「……だから、優が怒ったんでしょうか? さっき、夢に出て来たんです」
P「俺が風呂に入ってる時か」
千早「はい。背も伸びて、私の知ってる優の姿じゃなかったけど……。あれは優でした」
P「……」
千早「何も言わないで、こっちをじっと見て。それでふらっと歩いていってしまいました」
P「……」
千早「私……」
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:17:19.11 ID:yqd1jA8b0
P「……幽霊はさ、歳をとると思う?」
千早「え?」
P「ちなみに、俺は思う」
P「それとほら、よく言うだろ? 男子三日……」
千早「男子三日会わざれば、刮目して見よ?」
P「そう。男の成長ってさ、お姉ちゃんとかお母さんが思うよりずっと早いんだよ」
千早「……優も?」
P「ああ。優くんだって、千早と一緒に歳をとってる。それで、千早の窺い知れぬ所で『千早の弟』じゃない誰かになるんだ。姉離れだってする」
千早「……」
P「……俺の勝手な推測だけどさ、優くんは怒ってなんかいないよ。きっと応援しに来たんだ。『優くんの姉』から他の誰かになろうとする千早を」
千早「……そう、でしょうか」
P「そうだよ」
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:19:41.59 ID:yqd1jA8b0
千早「……」
P「……」
千早「……」
P「千早?」
千早「……よく分かりません」
P「ごめんな。上手く言えない」
千早「プロデューサー?」
P「なに?」
千早「泣いてもいいですか? きっとみっともない泣き方になると思うんです」
P「ああ、うん。馬鹿にしたりなんかしないから、好きにすると良い」
千早「……」
P「……」
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/12/01(土) 01:23:47.11 ID:yqd1jA8b0
千早「……ん」
P「おはよう。千早」
千早「……」
千早「そっか、私、昨日……」
P「寝覚めの気分は?」
千早「……なんだか、大声で歌いたい気持ちです」
P「そっか。それは良い。けど、レコーディングまで我慢だな」
千早「はい」
P「さあ、こっちへおいで。ちょうどパンが焼けたところだ」
P「今朝は千早の分もコーヒーにしたからな」
千早「……」
P「……千早?」
千早「……あの。やっぱり私、ホットミルクをお願いできますか?」
おわり