【四条貴音SS】貴音「昔より、もっと」

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:01:16.18 ID:Tq+2Apq+O
――貴音の部屋
――23:40

貴音「…」チラッ、

窓の外を見上げれば、そこには月が浮かんでおりました。

貴音「…」

あなた様は、憶えていらっしゃいますでしょうか。…ふふっ。愚問でした。憶えている筈、ありませんでしたね。

貴音「それは、呪いにも似たひとつの感情」

恋することは、なんと罪深き事なのでしょうか。

貴音「しかしそれでもわたくしは」

あなた様を、お慕い申しているのです。

今も。昔も。

―――
――

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:03:18.96 ID:Tq+2Apq+O
『なぁ…お願いがあるんだ…』

夢?

『お願い、ですか?』

誰の夢?

『あぁ…』

これは…俺?

『わたくしに…出来る事でしたら』

誰だ?

『月を見たら…俺を思い出してくれないか?』

『それは、わたくしを呪っているのでしょうか』

どこかで見た事あるような…。

『なんで?』

『わたくしは…×××…なのですよ?』

うまく聞き取れない。聞こえない。

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:06:16.37 ID:Tq+2Apq+O
『知っているさ。他の誰よりも、俺がね』

何を?

『それでもあなた様は、わたくしにそれを望むのですか?』

悲しそうな顔。何故だか、苦しい。

『望むよ。だって、お前だけには忘れられたくないからね…』

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:07:36.25 ID:Tq+2Apq+O
誰に?

『…』

悲しそうな顔。

『ふふっ…あなた様のそういうところは…改心せずに、いけずなのですから』

うん。笑った顔のがいい。けど、誰なんだろう。

『じゃあ、いつかまた会えたら』

誰と?

『はい。いつかまた会えたら、その時は』

その時は?

『あなた様の、御側に』

―――
――

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:09:11.21 ID:Tq+2Apq+O
――Pの部屋
――03:40

P「っ!」ガバッ、

P「…夢?」

何だか、息が苦しかった。何だか…嫌な様な懐かしい様な夢を見ていた気がする。

P「はぁ…喉が乾いた…」

冷蔵庫を開け、水を取り出し、喉を潤す。

P「…」チラッ、

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:10:36.91 ID:Tq+2Apq+O
カーテンの向こうでは、月が輝いているのだろうか。淡く、光が揺れていた。

P「…」スタスタスタ、

――シャッ、

やっぱり…月が出ていた。

何故だろう。
昔から、月を見ると悲しくなる。
悲しいというか、何かが足りないというか、

P「…寝るか」

カーテンを閉め、水を仕舞い、ベッドに横たわる。

そこから眠りに落ちるのは…早かった。

―――
――

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:12:08.03 ID:Tq+2Apq+O
――765プロ事務所
――10:00

――ガチャッ、

P「おはようございまーす」

小鳥「おはようございます。プロデューサーさん」

P「おはようございます。貴音、来てますか?」

小鳥「貴音ちゃんならまだですよ?」

P「そうですか」

小鳥「あら?今日は貴音ちゃんに同行するんですか?」

P「えぇ。今日は、今度の写真集を撮影する場所へ、下見に行くんです」

小鳥「あら、アイドルも一緒になんて珍しいですね」

P「今回は貴音が乗り気なんですよ。あいつ、普段は俺に任せてくれているのに」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:13:36.19 ID:Tq+2Apq+O
小鳥「何か、特別な理由があるんでしょうか。
誰かとの…思い入れのある場所、とかだったりして」クスクス、

P「どうなんでしょうね。撮影地を教えたら、何故かビックリしてましたけど」

小鳥「どこなんですか?撮影地」

P「鎌倉周辺ですね」

小鳥「あら、古都 鎌倉なんてロマンチックじゃないですか」クスクス、

P「そうですか?」

小鳥「ふふっ。プロデューサーさん?」チラッ、

P「なんです?」

小鳥「鎌倉…鎌倉というか、江ノ島ですね。その江ノ島に、こんな伝説があるのはご存知ですか?」

P「伝説?」

小鳥「ふふっ。はい」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:15:19.47 ID:Tq+2Apq+O
小鳥「『天女と五頭竜』という、民話です」

――ガチャッ、

貴音「おはようございます」トテトテトテ、

P「おっ?貴音、おはよう」

貴音「おはようございます。あなた様、小鳥嬢。それで、二人して何を話されていたのです?」

P「あ…あぁ今日、鎌倉へ下見に行くだろ?今度の写真集の」

貴音「…っ。えっ、えぇ」

P「?」

P「それでな?小鳥さんが、鎌倉に天女伝説があるって言うんだよ」

貴音「…」ジッ

小鳥「…」ビクッ

小鳥「いっ、いえ…昔話というかなんというか…」

貴音「…それは」

小鳥「えっ?」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:16:48.17 ID:Tq+2Apq+O
貴音「…小鳥嬢。それは、天女と竜の…」

貴音「…いえ、よしましょう。それは過去の事ですから」

P「…貴音?」

貴音「…では、参りましょうか。あなた様」スッ、

P「あ、あぁ…」スッ、

小鳥「…」

貴音「…小鳥嬢」チラッ、

小鳥「あっ!はっ、はい?なんですか?」

貴音「…その話。プロデューサーの前では二度と話さぬ様、よろしくお願い致します」ボソッ、

小鳥「?」キョトン、

貴音「…よろしいですか?」

小鳥「え、えぇ。わかりました」

貴音「…ふふっ。ならば、良いのです」

P「おーい、置いてくぞー?たかねー」

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:17:50.36 ID:Tq+2Apq+O
貴音「お待ちになってください、あなた様。
あなた様がいなければ、わたくしは『また』一人になってしまいます」トテトテトテ、

――ガチャッ、バタン、

小鳥「何だったのかしら…」フゥ…

―――
――

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:18:57.34 ID:Tq+2Apq+O
むかし…というても、千四百年も遠い遠いむかしになろうか。

そのころ鎌倉の深沢に、まわりが四十里(17.4㎞)という湖があり、主の五頭竜がすんでいた。

それが悪い龍でなぁ。
山くずれや洪水を起こし、田畑を埋めたり、押し流したりして、村人をくるしめておった。

ときには火の雨をふらすこともあり、村人は山のほら穴に隠れ、まわりを石でかこんでいたと。

―――
――

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:20:03.55 ID:Tq+2Apq+O
――Pの車内

P「なぁ、貴音?」

貴音「なんでしょう。あなた様」

P「貴音が下見に同行するなんて珍しいじゃないか」

貴音「…」

貴音「…ふふっ。そうでしょうか。
わたくしの写真集なのです。今日はそれの撮影地の下見、わたくしが同行してもおかしくは無いと思いますが」クスクス、

P「まっ、そうなんだけどな」

貴音「…」

P「なぁ、貴音?」

貴音「ふふっ。今日はあなた様からのお話が多いですね。なんでしょう?」クスクス、

P「…」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:21:10.50 ID:Tq+2Apq+O
P「さっき、小鳥さんと何を話してたんだ?
貴音にしちゃ珍しく、けっこう怖い顔してたけど」チラッ、

貴音「…」チラッ、

貴音「…ふふっ。他愛も無いお話ですよ。
ただひとつ、あなた様に言っておかねばならないことがあります」

P「…?」

貴音「…良いですか?小鳥嬢の言う、天女伝説。あれは聞いてはなりません」

P「何で?」

貴音「…」クスッ、

貴音「それは…」

P「それは?」

貴音「とっぷしーくれっと、です」クスクス、

―――
――

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:22:29.59 ID:Tq+2Apq+O
ある日、五頭竜は津村の水門のところにあらわれて、はじめて村の子を食ったそうな。

それから村人は、ここを「初くらい沢」と名づけて、近よらなかったそうな。

津村の長者には、16人の子がいたが、一人残らず五頭竜にくわれてしまったと。

おそれおののいた長者は、死んだ子を恋慕いながら、西の里に屋敷をうつしていった。

それで、深沢から西の里へ行く道を子死恋(こしごい)とよぶようになり、それが今の腰越(こしごえ)になったのだと。

―――
――

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:23:40.04 ID:Tq+2Apq+O
――鎌倉
――11:50

P「あぁ…やっと着いたぁ…」

貴音「…ふふっ。運転、ご苦労様でし…」グゥー

P「くっ…くくっ…」

貴音「…///」カァァァァ

P「そっ…それじゃあお昼にしようか」

貴音「…あなた様はいけずです…」

P「この近くに美味い蕎麦やがあるんだ。
ラーメンじゃないけど、いいだろ?そこに入ろう」

貴音「…そば、ですか。ふふっ。楽しみです」

―――
――

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:25:35.22 ID:Tq+2Apq+O
――蕎麦や

P「やっぱり、鎌倉に来たら鴨南蛮だな!」ズルズル、ズルズル、

貴音「…面妖な…これは面妖な…」ズルズル、

P「美味いか?鴨南蛮」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:26:22.54 ID:Tq+2Apq+O
貴音「…まこと…まこと美味です!あなた様」ズルズル、

P「ははっ。それなら良かった。じゃあ昼メシ食ったら、まずは江ノ島に行こうか」

貴音「…江ノ島…ですか」

P「何か問題あるか?あるなら変えるけど」

貴音「…いえ、大丈夫です。それよりもあなた様…?」チラッ、

P「なんだ?」

貴音「…是非、おかわりを…」ズルズル、ズルズル、

P「ははっ。まったく…お前らしいよ」

貴音「…ふふっ」クスクス、

貴音「…」

―――
――

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:27:43.20 ID:Tq+2Apq+O
そうしたとき、天地をゆるがすたいへんなことが起こったそうな。

それは、欽明天皇の時代(6世紀)13年04月12日だったと。

まっ黒い雲が天をおおい、深い霧がたちこめ、大地震が起こった。

山はさけ、沖合からは高波が村をねらっておそいかかってきた。

おどろおどろと地鳴りがし、地震は十日のあいだつづいたが、23日の辰の刻に、うそのようにとまったと。

村人がホッとしたとき、こんどは海底から大爆発が起こり、まっかな火柱とともに岩が天までふきあげられて、小さな島ができた。

これが、今の江ノ島なのだと。

―――
――

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:29:00.71 ID:Tq+2Apq+O
――江ノ島

P「んー!潮風が気持ちいいなぁ…こういうところで撮影するのもいいかもしれないな!」

貴音「…ふふっ。そうですね。江ノ島…まこと良き場所です」トテトテトテ、

P「…」チラッ、

貴音「…どうされました?あなた様」

P「いやぁ…今日の貴音は、いつもの貴音じゃないみたいな気がしてな?
ははっ。なんだろうな、これ…」

貴音「…あなた様」

P「…ん?なんだ?」

貴音「…上に、登りましょうか」

P「そうだな。青銅の鳥居、だっけ?そこから登れるんだろ?」

貴音「…」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:29:41.29 ID:Tq+2Apq+O
貴音「…ふふっ。では、参りましょうか」

―――
――

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:31:01.37 ID:Tq+2Apq+O
五頭竜は、このありさまを湖の中から目をむいて見まもっていた。

すると、天から美しい姫が紫の雲にのり、2人の童女をつれてしずしずと島におりてきた。

そのとき、どこからともなく美しい音楽が流れ、香ばしい香りが漂ったと。

「うぅむ、なんと美しい姫だ。よし、我が妻にむかえるぞ」

五頭竜は、波をかきわけて江島へ行くと、

「俺はこのあたりをおさめる五頭竜。美しき姫よ、汝を我が妻にむかえよう」

と、言ったそうな。

「なんと申す五頭竜。あなた様は田畑をおし流し、何の咎無き幼子まで飲み、あらんかぎりの罪を犯してきた。
天女は、そのような者の妻にはなりませぬ」

天女はそういうと、洞窟の中へはいってしまったと。
五頭竜は、すごすごと帰っていったが、つぎの日にまた江島へやってきた。

「天女よ、どうか許してほしい。これからは、心を改め村を護ろう。どうか信じてほしい」

天女は、五頭竜の固い心を信じて、静かにその手をさしのべたそうな。

―――
――

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:32:47.61 ID:Tq+2Apq+O
――青銅の鳥居

P「すげぇ…ここをくぐると、土産物やがたくさんあるんだよな」キョロキョロ、キョロキョロ、

貴音「…ふふっ。海産物の、まこと美味な匂いが漂ってきますね」クスクス、

P「貴音!焼きたての煎餅が売ってるぞ。食うか?」

貴音「…!」ピクンッ、

貴音「…よろしいのですか?」グゥー

P「当たり前だ。今日は写真集の撮影地の下見だからな!
こういうところから知っていこう!」

貴音「…ふふっ。焼きたてのせんべい…まこと楽しみです」

―――
――

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:35:12.56 ID:Tq+2Apq+O
貴音「…」パリッ、バリッ、モグモグ、

P「美味いな…これは…」バリッ、バリッ、モグモグ、

貴音「えぇ…まこと…美味です」モグモグ、

貴音「…」キョロキョロ、キョロキョロ、

P「そんなキョロキョロして、どうした?目新しいモノでもあるか?」

貴音「…ふふっ。いいえ?ただ…」

P「…ただ?」

貴音「…」

貴音「いえ、何でもありませんよ。あなた様…」

P「そうか?」

貴音「…」キョロキョロ

貴音「…」ハァ…

―――
――

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:36:42.62 ID:Tq+2Apq+O
――江島神社

P「スゲェ…」

貴音「…」

P「けど…なんだろうな。物悲しいというか、なんというか…あっ、向こうに山があるみたいだぞ?」

P「貴音ー!ここの…貴音「…なりません!」

P「…」ビクッ、

P「えっ?」

貴音「…あっ…いえ…」

貴音「…あなた様?転ばれたら、どうなさるのですか?」クスクス、

P「あっ…あぁ…悪い。ちょっとはしゃぎ過ぎたな」

貴音「…ふふっ。あなた様のそういうところは、見ていてはらはらしてしまいます」クスクス、

P「…」

P「片瀬の竜口山だってさ」

貴音「…」

貴音「…えっ?」

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:38:01.56 ID:Tq+2Apq+O
P「さっき、煎餅やのおばちゃんが言ってた」

P「江ノ島の、天女伝説」

貴音「…」

貴音「そうですか」

P「なぁ、貴音?」

貴音「ふふっ。なんでしょう?」

P「行ってみないか?その…竜口山。登らないけど、見るだけ」

貴音「…」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:38:56.30 ID:Tq+2Apq+O
貴音「あなた様…今は、竜口山ではなく…片瀬山と呼ばれております」

P「そっか」

貴音「…」

貴音「えぇ…」

P「で、どうする?お前が嫌なら、俺は行かないけど」

貴音「…」

貴音「あなた様はいけずです」

P「えっ?」

貴音「わたくしが、あなた様に逆らえるはず…ありませんもの」クスッ

―――
――

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:40:13.26 ID:Tq+2Apq+O
―――
――

それからの五頭竜は、日照りの年には雨を降らせ、実りの秋には台風をはねかえし、津波がおそったときには波にぶち当たっておし返していたそうな。

しかしそのたびに、五頭竜のからだはおとろえていった。

ある日、五頭竜はなみだながらに、

「俺の命もやがては終わる。これからは、山となりて村を護ろう」

そう言い、海を渡って帰ると、一つの山になった。

これが片瀬の竜口山で、山の中腹には竜の形をした岩があり、それは江島の天女を慕う様に見つめていたと。

村では、ここに五頭竜を祀った社を建て、竜口明神と名づけたそうな。

―――
――

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:42:06.14 ID:Tq+2Apq+O
――片瀬山公園

貴音「…」ズキッ、

P「…」

貴音「…」フゥ…

貴音「あなた様…」ボソッ、

P「…なんだ?」

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:43:06.95 ID:Tq+2Apq+O
貴音「申し訳ございません。わたくし、先に車へと戻っております」

P「じゃあ、俺も一緒に戻るよ」

貴音「…」

貴音「あなた様は…お変わりになりませんね」ボソッ、

P「えっ?」

貴音「…ふふっ。何でも…何でも…」ツー、

貴音「…ありません、よ…」ポタッ…ポタッ…

P「…」

―――
――

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:44:03.99 ID:Tq+2Apq+O
――Pの部屋
――21:30

P「なぁ…貴音?」チラッ、

貴音「…なんでしょう」

P「見ろよ。月、今夜も綺麗だな」

貴音「…」チラッ、

貴音「えぇ…。まこと、美しいものです。今も、昔も、月だけは変わりません」

P「なぁ貴音」

貴音「…なんでしょう、あなた様」

P「俺な?最近、夢をよく見るんだよ」

貴音「…はて、夢…ですか?」

P「同じ夢なんだ」

貴音「…」

P「男と女がな?話してるんだ」

貴音「…」

P「で、男は女にこう言うんだよ」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:45:06.87 ID:Tq+2Apq+O
『なぁ…お願いがあるんだ…』

貴音「…っ!」ビクッ、

『月を見たら…俺を思い出してくれないか?』

P「…男がな?俺に似てるんだ。女は…正直、誰かは分からない」

貴音「…」

P「…だけど」

貴音「…だけど、なんでしょう」

P「どこかで…見覚えがあるんだよ。
忘れちゃいけない…とても、とても大切な人だったと思う」

貴音「…」

P「って、ははっ。何を言ってるんだろうな。
俺…普通に考えたら、危ない人だよな」

貴音「…あなた様の、」

P「ん?」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:46:14.98 ID:Tq+2Apq+O
貴音「ふふっ…あなた様のそういうところは…改心せずに、いけずなのですから」

P「…」

P「…えっ?」

貴音「…なの、ですよね?次の言葉は」クスクス、

P「いやっ…そう、だけど…なんで貴音が?」

貴音「月というのは…何年…何百年…何千年経っても、その輝きは変わりません」

貴音「いつも空にあって、浮かび、輝いているのですから」

貴音「…あなた様は、憶えていらっしゃいますでしょうか」

P「…」

貴音「…ねぇ、」

貴音「五頭竜」クスッ、

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:47:27.45 ID:Tq+2Apq+O
P「…」

貴音「…ふふっ。とは言っても、今のわたくしは…ただの人間です」

P「それは、あなた様も同じ」

貴音「竜と天女…伝説になるほどの、熱い恋慕。それは、許されない恋慕。
わたくしとしましては、今のわたくしが、今のあなた様をお慕い申しておりますので、出来ればあなた様には思い出してほしくは無かったのですが…」クスクス、

貴音「…ふふっ。これも業なのでしょうか、あなた様は、思い出してしまわれたようで」クスッ、

P「なぁ…貴音」チラッ、

貴音「…なんでしょうか」

P「あの時の約束…覚えてるか?」

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:48:26.38 ID:Tq+2Apq+O
貴音「…さぁ?なんのことやら」クスクス、

P「…」

貴音「…」

貴音「んっ……ちゅっ…」

P「今なら、言えるかな」

貴音「…」

P「愛してる。竜ではなく、人として」

貴音「…ふふっ」

貴音「…わたくしも、」

貴音「お慕い申しております。天女ではなく、人として」

P「貴音…」

貴音「あなた様…」

―――
――

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:49:29.41 ID:Tq+2Apq+O
――夜中

P「なぁ、貴音?」

貴音「なんです?」

P「貴音は、いつから思い出していたんだ?昔のこと」

貴音「…」チラッ、

貴音「とっぷしーくれっと、」

貴音「と、言いたい所ですが…こればかりは説明させていただきましょう」

貴音「そうですね。わたくしが、まだ961プロにいた頃でしたか。
あなた様と初めて…ふふっ。違いましたね。あなた様と、再び出逢ったのは」

P「懐かしいな…もう何年も前か。俺がまだ新人だった頃だな」

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:50:57.19 ID:Tq+2Apq+O
貴音「ふふっ。あの時のあなた様は、『以前』と変わっておりませんでしたので、すぐに分かってしまいました。
あの時は、本当に驚いてしまいました」クスクス、

P「そこから、だったな。なにかと貴音との因縁が始まったのは」

貴音「…ふふっ。因縁とは…まこと酷いものです」クスクス、

P「あの頃は、俺も必死だったからな。
当時の担当…伊織と『IU優勝』を目標にして、がむしゃらだった」

貴音「えぇ。あの時のあなた様もまた、あなた様らしかったです」

P「俺らしいって?」

貴音「…ふふっ。それこそ、とっぷしーくれっと、」

貴音「で、ございます」クスッ、

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:52:32.54 ID:Tq+2Apq+O
P「…そっか」

貴音「…その後、あなた様は伊織と共にIU優勝。わたくしは、961を追放…」

P「…で、俺がお前を765プロにスカウトし、今に至る。
どこかのゲームにありそうな展開だな」

貴音「今思えば…あの時、あなた様に負けて良かったと思っております」クスッ

P「なんで?」

貴音「でなければ、わたくしはあなた様と共に歩み、心地好い時を過ごす事は無かったでしょうから」ギュッ、

P「…」

P「確かに、あのまま961にいたらこうまでに親しくはならなかっただろうな」ナデナデ、

貴音「ふふっ。でしょう?」

P「なぁ、貴音?」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:53:45.40 ID:Tq+2Apq+O
貴音「なんです?」

P「結果的に、こうやって俺は思い出した訳だけど…もし、思い出さなかったら、どうするつもりだった?」

貴音「…」

貴音「どうもしませんよ?わたくしは四条貴音であり、アイドルで…あなた様を魅了する事に変わりはありませんから」クスクス、

P「大した自信だなぁ…」

貴音「女は、したたかな生き物でもあるのです」クスッ、

P「そっか」

貴音「それともうひとつ…」

P「なんだ?」

貴音「わたくしは、明日の朝…やらなくてはならないことがありますので、早くに帰らねばなりません」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:55:26.44 ID:Tq+2Apq+O
貴音「なので、部屋の合鍵を頂けると有難いのですが…」

P「あぁ、合鍵な。ちょっと待ってな。よいしょっと」ストッ、スタスタスタ、

――ゴソゴソ、

P「ほれ」チャリン、

貴音「ふふっ。ありがとうございます」

P「それ、そのまま持ってていいからな?」

貴音「あらそれは…。ふふっ。わたくしに、通い妻をしろ、と?」クスクス、

P「それもアリだな」

貴音「わかりました。それが、あなた様の望みとあらば」

P「ん。ありがとう」ナデナデ、

貴音「…ふふっ///」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:56:12.08 ID:Tq+2Apq+O
貴音「でっ、ではわたくしはこのまま寝てしまいます。
あなた様の腕に抱かれていると、良き夢を見れそうなので…」ギュッ、

P「じゃあ…また明日な?」ナデナデ、

貴音「ふふっ。はい」

P「…おやすみ、貴音」

貴音「はい。おやすみなさいませ、あなた様」

―――
――

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 22:58:44.13 ID:Tq+2Apq+O
――765プロ事務所
――10:30

――ガチャッ、

P「おはようございまーす」

小鳥「…」ジー、

P「な…なんですか?小鳥さん…」ビクゥッ、

小鳥「プロデューサーさん…昨日…直帰しましたよね?貴音ちゃんと…」ジトー、

P「え…えぇ…貴音は朝早くに帰っていましたけど…」

小鳥「何が…何があったんですかぁっ!」ガタンッ

P「えっ?あっ!ちょっ!小鳥さん?」アセアセ、

小鳥「あれ!あれを見てくださいよっ!」ビシィッ

P「…ん?テレビ?」チラッ、

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 23:00:02.88 ID:Tq+2Apq+O
TV(レポーター)『えー、ただいまから765プロ所属の大人気アイドル:四条貴音さんによる緊急記者会見が始まろうとしています』

P「…」

P「…えっ?」

小鳥「社長が何故か朝、ニヤニヤしながら貴音ちゃんと事務所を出ていったと思ったら!」

P「」

TV(レポーター)『あっ!四条さんです!四条さん!今日の緊急記者会見は何故、開かれたんですか!?』

TV(貴音)『わたくし四条貴音は…』

TV(貴音)『本日をもちまして、引退させていただきます』

小鳥「」

P「」

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 23:01:03.01 ID:Tq+2Apq+O
TV(レポーター)『何故!何故ですか!四条さん!今が人気絶頂の貴女が何故!』

TV(貴音)『わたくしは…約束を果たさねばなりませんから』

TV(レポーター)『約束!約束とは!?男性関係ですか!?』

TV(貴音)『今度はわたくしが…芸能界という海を渡り終え、プロデューサー…あなた様と共に、今を過ごしていく番なのです』

TV(レポーター)『××××!』

小鳥「」

P「はっ…ははっ…貴音のヤツ…」ツー、ポタッ…

小鳥「…」

小鳥(この様子じゃあ…何を言っても無駄なんでしょうね)クスッ、

―――
――

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 23:02:29.07 ID:Tq+2Apq+O
数時間後
――社長室

社長「いやぁ!あっはっはっ!私もねぇ、最初に四条くんから記者会見を開いてほしいと言われた時はビックリしたよ」

貴音「わたくしのわがままを…ありがとうございます」

社長「うむうむ!君はしっかりとアイドル活動を行ってくれた!
ここでひとつ、家庭に入るのもいいじゃないか!」

貴音「…ぽっ///」ポッ…

P「いっ…いや、社長?」アセアセ、アセアセ、

社長「ムッ?なんだね、君ィ。まさか、四条くんと添い遂げないつもりかねぇ?」ジィッ…

P「まさかっ!貴音とは『もう』離れませんよ!」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 23:03:39.16 ID:Tq+2Apq+O
社長「はっはっはっ!ならばそれでいいじゃないか!
四条くんは引退し、我が765プロの新たな事務員として再雇用しよう!」

貴音「ふふっ。あなた様?これで『もう』、離ればなれになることはありませんね」クスッ、

P「…」

P「ははっ…まぁ、それもいいかぁ」スッ、

貴音「んっ……ちゅっ…あふっ…///」

社長「おぉっ!おぉっ!これはめでたいっ!
今夜は765プロ総力をあげて、二人の新たな門出を祝おうじゃないかっ!」

P・貴音「「///」」テレテレ、テレテレ、

―――
――

60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 23:06:29.93 ID:Tq+2Apq+O
――Pの部屋
――00:40

P「飲みすぎた…」フラフラ、

貴音「ふふっ…大丈夫ですか?あなた様」クスクス、

P「あんだけ飲んで、ぜんぜん酔わない貴音が羨ましいよ…」フラフラ、

貴音「ふふっ。わたくしはもう20歳を過ぎているのですよ?お酒も嗜みます。
さぁ、あなた様。ベッドです。横になってくださいませ」クスクス、

P「…」ゴロン

貴音「横、失礼致します」

P「…」チラッ、

貴音「…」チラッ、

P「なぁ、貴音?」

貴音「なんでしょうか」

P「『昔』もさ、お前の事を愛していたよ。でもな?」ナデナデ、

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 23:07:50.25 ID:Tq+2Apq+O
貴音「…」クスッ、

P「『今』のが、もっと愛してる」

貴音「あなた様…」ギュッ、

貴音「わたくしもです。『過去』は、所詮、過ぎ去った過去」

貴音「『今』の輝きには、勝てません」クスクス、

P「愛してるよ、貴音」ナデナデ、

貴音「わたくしもです。あなた様…」

貴音「んっ…ちゅっ…」

―――
――

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 23:08:54.39 ID:Tq+2Apq+O
『なぁ…お願いがあるんだ…』

『お願い、ですか?』

『あぁ…』

『わたくしに…出来る事でしたら』

『月を見たら…俺を思い出してくれないか?』

『ふふっ。それは、わたくしを呪っているのでしょうか』

『なんで?』

『わたくしは…天女…なのですよ?』

『知っているさ。他の誰よりも、俺がね』

『それでもあなた様は、わたくしにそれを望むのですか?』

『望むよ。だって、お前だけには忘れられたくないからね…』

『…』

『ふふっ…あなた様のそういうところは…改心せずに、いけずなのですから』

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 23:10:18.51 ID:Tq+2Apq+O
『じゃあ、いつかまた会えたら』

『はい。いつかまた会えたら、その時は』

『あなた様の、御側に』

貴音「あなた様…わたくしは、やっと…やっと立てる事が出来ました」

貴音「他の誰でもない、愛しいあなた様の御側に」ナデナデ、

P「…」zzz…

貴音「ふふっ。可愛い寝顔ですね」

わたくしは、彼を起こさないように、ゆっくりとベッドから降りた。

貴音「…」トテトテトテ

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/27(月) 23:12:02.35 ID:Tq+2Apq+O
――シャッ、

カーテンを開ける。
窓の外では、今夜も月が浮かんでおります。

貴音「ふふっ…」

あなた様は、憶えていらっしゃいますでしょうか。
…ふふっ。憶えて…いいえ、思い出して…いただけましたね。

貴音「それは、当たり前のひとつの感情」

恋する事とは、なんと素晴らしい事なのでしょうか。

貴音「だからこそわたくしは」

あなた様を、お慕い申しているのです。

昔よりも、もっと。

おわり

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