1 :◆6QdCQg5S.DlH :2016/05/15(日) 00:37:51.48 :wahficNG0
乃々(私は今、第5回シンデレラガールズ総選挙発表の場にいます)
乃々(……10位から、一人ひとりが舞台袖から行き、話す、というものです)
乃々(つい先ほど、10位の人……肇さんが出て行きました)
乃々(もりくぼの出番はもう少し後です)
乃々(……)
乃々(……もりくぼは、今、ここにいます)
乃々(10位から1位までの10人のうちの一人としてここにいます)
乃々(おそれおおくも、そんなすごい立場にいます)
乃々(む、むーりぃ……)
乃々(……)
乃々(……もりくぼは)
乃々(いえ、私は)
乃々(私はアイドル、したくなかったはずなのに)
乃々(この立場にいます)
乃々(……)
乃々(……こんな私でも、少しは感慨深いものを感じています)
乃々(だからでしょうか)
乃々(……昔のことを思い出しました)
2 :◆6QdCQg5S.DlH :2016/05/15(日) 00:38:50.49 :wahficNG0
乃々(昔)
乃々(私が始めてアイドルの仕事をした時のこと)
乃々(……その日もりくぼは、叔父に頼まれて撮影の代役をしました)
乃々(少しポーズを取るだけで終わる、お礼もする、と言われたので)
乃々(何度も何度も頼まれたので……断れなくて)
乃々(……あと、少し興味はあったので……ほんの少しだけでしたけど)
乃々(なので、引き受けました)
乃々(カメラに目線を向けて……なんてたくさん言われて)
乃々(ああ、やっぱりもりくぼにはアイドルは無理だと思いました)
乃々(……それでも、約束した手前、がんばって……本当にがんばって目線を合わせて撮影を終わらせました)
乃々(人生で1、2を争うくらい、つらい時間でした)
乃々(……それでも、少し時間がたてば楽しかった思い出として残るでしょう)
乃々(そんなことを考えながら帰ろうと思っていたときでした)
乃々(叔父から衝撃の言葉を聞かされました)
乃々(私を大手プロダクションのプロデューサーさんに紹介したと)
乃々(……もりくぼを、アイドルとして登録したと)
乃々(そう聞かされました)
乃々(……当時のもりくぼは、何がなんだかわからないといった心境でした)
乃々(そんな、困惑したもりくぼを、プロデューサーさんは事務室まで連れて行きました)
4 :◆6QdCQg5S.DlH :2016/05/15(日) 00:42:41.05 :wahficNG0
乃々(事務所について、もりくぼは、まずアイドルを辞めたいと告げました)
乃々(けれど、プロデューサーさんは、本当に駄目かと何度も聞いてきました)
乃々(君をアイドルにしたい、と何度ももりくぼに言いました)
乃々(……)
乃々(もりくぼは押しに弱いです)
乃々(強く押されると、断れません)
乃々(……)
乃々(もりくぼは、できることなら、アイドルをしないで逃げたかったです)
乃々(けれど、断り続けても逃げられないと思いました)
乃々(……それほどの熱意をプロデューサーさんから感じました)
乃々(もりくぼを必要としてる……って気持ちが痛いくらいに伝わってきました)
乃々(……)
乃々(結局もりくぼは根負けしてしまいまい、アイドルになります、と言ってしまいました)
乃々(こうしてもりくぼは、アイドルをすることになってしまいました)
5 :◆6QdCQg5S.DlH :2016/05/15(日) 00:43:16.06 :wahficNG0
乃々(……それからの毎日はとてもつらいものでした)
乃々(始めのほうは、レッスンすらやりたくなくて……というか、やっぱりアイドルはやりたくなくて)
乃々(隠れて、逃げて、一般人に戻ろうとしてました)
乃々(それでも、プロデューサーさんは私を見つけました)
乃々(……いっそ、失望してくれたら楽だったのに)
乃々(プロデューサーさんはもりくぼを信じました)
乃々(何度逃げても、そのたびに見つけてくれました)
乃々(……プロデューサーさんは、もりくぼをどこにいても見つけるよといいました)
乃々(本当にその通りでした)
乃々(ロッカーの中とか、植木の中とか……いろいろなところに隠れましたけど)
乃々(プロデューサーさんは私を見つけました)
乃々(……)
6 :◆6QdCQg5S.DlH :2016/05/15(日) 00:47:09.72 :wahficNG0
乃々(何度かアイドルの仕事もこなした後)
乃々(……プロデューサーさんに、アイドルを辞められないか相談しました)
乃々(いえ、何度もしてるんですけど……その日だけは特別でした)
乃々(いつも、プロデューサーさんに、押されて、根負けしてしまうので)
乃々(その日だけは勇気を出して、強くいいました)
乃々(辞めたい、と)
乃々(……本当に駄目か、といつものように聞かれて)
乃々(本当に駄目です、と強く言いました)
乃々(……そうしたら、プロデューサーさんは考える素振りを見せました)
乃々(……そして)
乃々(乃々がアイドルを本当に辞めたいなら、もう止めないよ)
乃々(プロデューサーはそう言いました)
乃々(そして、本当に駄目か、ともう一度聞かれました)
乃々(もりくぼは、それに対して……)
乃々(……)
乃々(……返答ができませんでした)
乃々(ちょっと考えてみます、と言って、その場から逃げました)
乃々(……その後、答えは出ないままです)
乃々(もりくぼも、プロデューサーさんもいつものように振舞っています)
乃々(もりくぼが逃げて、プロデューサーさんに見つかって、やっぱり無理だって言って、それでも頼むと押されて、アイドルをしています)
乃々(一人でのお仕事も、ユニットでのお仕事も……)
乃々(無理、無理と言い続けて、それでも、何度もこなしてきました)
乃々(辞めたいと言ってるのに)
乃々(無理だって言ってるのに)
乃々(それでも、もりくぼはアイドルを続けています)
乃々(……)
乃々(……もりくぼは)
乃々(私は)
乃々(私は、アイドルをしたいのでしょうか?)
乃々(私は……)
乃々(……)
7 :◆6QdCQg5S.DlH :2016/05/15(日) 00:48:41.93 :wahficNG0
乃々(……)
乃々(……きっと)
乃々(……きっと私は――)
まゆ「――乃々ちゃん」
乃々「!」
乃々「は、はいっ、何ですか……!?」
輝子「いや……そろそろ出番だぞ……フヒ」
乃々(お二人は、もりくぼの応援のためにここにいてくれたそうです)
乃々(……本当にうれしいです)
乃々「……まゆさんも、キノコさんもありがとうございます」
まゆ「いえいえ」
輝子「お隣さんのよしみ……フヒ」
乃々「……」
乃々(……輝く舞台に一歩、一歩近づいていきます)
乃々(そのたび、もりくぼの心がきゅっと小さくなります)
乃々(……)
乃々(もりくぼは、あの場まで無事にたどり着けるでしょうか?)
乃々(……)
乃々(5位の芳乃さんが話し終わりました)
乃々(次はもりくぼです)
8 :◆6QdCQg5S.DlH :2016/05/15(日) 00:51:52.61 :wahficNG0
乃々「……」
乃々「……ぁ」
乃々「うぅ……」
乃々(時間がたつにつれ、きゅっ、きゅっと心が握られていく感覚がします)
乃々(もう、後少しすれば、プチッと握りつぶされてしまいそうです)
まゆ「乃々ちゃん」スッ
輝子「ボノノさん」スッ
乃々「!」
乃々(そんな私をみてか、二人が背中に手を当ててくれました……)
輝子「がんばれ……応援してる」
まゆ「ここで見守ってますよ……うふ」
乃々「……ありがとうございます」
乃々(……緊張はなくなりません)
乃々(でも和らぎはしました)
乃々(……いつか、二人が言ってくれました)
乃々(もりくぼが進めなくなったら、背中を押してくれると)
乃々(……まさか、物理的にも押してくれるとは思いませんでしたけど、ふふ)
乃々(……)
まゆ「あ、出番ですね」
輝子「それじゃあ、ボノノさん」
まゆ「いってらっしゃい」トン
輝子「いってこい……フヒ」トン
乃々「あうっ」
乃々「い、いってきます……!」
乃々(……押す力はとても弱いものでした)
乃々(だけど……うん)
乃々(たくさんのパワーをもらった気がします)
乃々(あの舞台の上に立つまで、心が潰れることはなくなりました)
乃々(……もりくぼは、二人からの力を背に、舞台の真ん中まで歩いて)
乃々(正面を向きます)
乃々(……すごい視線に晒されました)
乃々(……)
乃々(やっぱり、もりくぼは弱いので、すぐ目を背けました)
乃々(……)
乃々(背けた先に、まゆさんと輝子さんがいました)
乃々(……目が合ってしまって……ニコリと微笑まれてしまいました)
乃々(……そして、少しだけ二人の口が動きました)
乃々(声は届きません……ですが、がんばって、と聞こえた気がしました)
乃々(……)
乃々(もりくぼは、もう一度正面を向きます)
乃々(なるべく、誰の目が合うこともないように……だけど、正面に)
9 :◆6QdCQg5S.DlH :2016/05/15(日) 00:53:50.46 :wahficNG0
乃々「どうも、もりくぼです」
乃々「……まさか、こんな目にあうなんて……」
乃々「正直、ここは、もりくぼには荷が重すぎなんですけど……」
乃々「むりくぼです」
乃々「本当にむーりぃ……」
乃々「そう思ってます」
乃々「……」
乃々「……でも」
乃々「こんな、私でも、応援してくれた人がいっぱいいるんですよね」
乃々「……もりくぼは、期待に応えられるような人間ではないんですけど」
乃々「それでも、応援してくれた人が、いっぱいいて、もりくぼに……もりくぼにこんなに……」
乃々「あうぅ……や、やっぱり荷が重すぎなんですけど……」
乃々「……」
乃々「……でも」
乃々「えっと」
乃々「……その」
乃々「……もりくぼ、こんな人間ですけど」
乃々「あの」
乃々「……アイドル、楽しいかもしれなくて」
乃々「いや、でも、あの、やっぱり、一人じゃ無理だとは思ってて……」
乃々「いろんな人に助けられて、もりくぼは、まだアイドルができてて」
乃々「アイドル、楽しいかもって思ってて」
乃々「だから……えっと」
乃々「あの……えっと、もりくぼ、あの……」
乃々「……」
乃々「お……」
乃々「応援してくれた人……」
乃々「もりくぼを助けてくれた、みなさん」
乃々「……」
乃々「……あ」
乃々「あ、あ……」
乃々「……」
乃々「ありがとうございます……」
乃々「……」
乃々「あう……あの、今でも、もうどうにでもなれって感じで……頑張ってて」
乃々「それでも、あの……も、もう限界で……」
乃々「こ、これ以上はもりくぼの心がプチッとつぶれちゃうので」
乃々「あの、これで終わりです……はい」
おわり