1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:29:21.03 ID:9LZV8I/x0
初めて千早さんに出会ったとき
最初に僕が抱いた感想は
『笑顔がとても綺麗な人だ』
だった
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1410780551
2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:30:34.15 ID:9LZV8I/x0
そのことを真さんに話したら
「そっか」
と、ニコリと微笑み
やよいさんは
「とーっても素敵だよね!」
と、とびきりの笑顔で同意してくださり
あずささんは
「うふふ、そうね」
と、いつものように優しく微笑んでくださった
3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:31:53.57 ID:9LZV8I/x0
律子姉ちゃんは
「そう」
と、遠くを見るような目をして、少し素気なく感じる返答だった
でも
口元が少しだけ緩んでいるのを僕は見逃さなかった
そしてすぐにイタズラっぽい笑顔に変わり、
僕の頭をガシガシと乱雑になでまわしながら、
「それは、あんたもお年頃って話~?」
と、僕をからかい始めた
4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:32:56.94 ID:9LZV8I/x0
どの反応も、なにか含みがあるように感じていた
でもそれと同時に
共通しているのは皆、優しい目をしていることだった
765プロのみなさんにしかわからない、なにかがあるのかもしれない
僕には少しだけ、それに心当たりがあった
でも確信にいたるには、僕の主観が入りすぎていたために信じきれずにもいた
5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:34:33.43 ID:9LZV8I/x0
それは
千早さんの
笑顔に
歌に
ほんの少しだけ混じる
悲しみの色
6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:35:37.41 ID:9LZV8I/x0
千早さんの歌は本当にすばらしい
人の心を大きく揺さぶり
同時に
つかんで離さない
それは彼女のライブで埋め尽くされるドームの集客人数が証明していたし
アイドルはもちろん、数多の歌手や音楽家たちさえ彼女の歌を絶賛した
でも、僕はこうも感じていた
7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:36:44.57 ID:9LZV8I/x0
どうして
この人は
こんなにも
消え入りそうなんだろう
8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:38:07.84 ID:9LZV8I/x0
いつか
彼女の細胞すべてが
音符になって
風にのって
消えていきそうな
そんな気がする
そんなこと、ありえないのに
9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:39:32.91 ID:9LZV8I/x0
「千早さん?どうかしましたか?」
「秋月さん」
ある日、仕事の移動途中にある、河原で
千早さんに出会った
手や服に砂や泥がつきながら、彼女は何かを懸命に探しているようだった
10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:41:48.53 ID:9LZV8I/x0
「なにか探しているんですか?手伝いますよ」
「そんな、悪いわ。どこかへ行く予定があるのでしょう?」
「大丈夫ですよ。仕事にはまだ時間がありますし、いつも仕事でお世話になってるお礼です」
「ありがとう……お願いできるかしら」
「はい!」
「これくらいの、小さい、ビーズのミサンガなのだけど・・・・・・」
「わかりました」
11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:44:22.29 ID:9LZV8I/x0
「・・・・・・」
「女の子が……くれたの」
「そうなんですか?」
「……」
「私の歌が好きだって」
「私のファンだって」
「私のために、一生懸命作ったって」
「だから……」
「……」
12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:45:11.08 ID:9LZV8I/x0
「……」
……絶対、見つけなくちゃって
そう思ったんだ
これだけは絶対に見つけなくちゃって
13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:47:29.16 ID:9LZV8I/x0
僕は千早さんがわからなかった
初めて出会ったとき、すでに彼女はトップアイドルだった
歌への姿勢、想い、情熱、人としての考え方、夢―――
すべてが、千早さんは紛れもないトップアイドルだと確信させてくれた
でも、同時に
彼女がとても遠い人のように思えたから
14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:49:01.50 ID:9LZV8I/x0
だから
ファンを想って、行動し
いつもの歌姫である千早さんの姿からは想像できない
土や泥で汚れた姿を見て
少し可笑しくて
少しだけ近くなったような気がして
少し
うれしかった
15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:50:40.81 ID:9LZV8I/x0
でも
いくら探しても見つからなかった
もう少しで夕日も沈み切ってしまう
千早さんの顔が、それにあわせるように暗くなっていくのを
どうにもできない自分が
たまらなく悔しかった
16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:53:30.24 ID:9LZV8I/x0
「千早?と、秋月さんか?なにやってるんだ」
「プロデューサー」
「遅いから心配したぞ」
「すみません……」
そこにいたのは765プロの千早さんの担当のプロデューサーさんだった
千早さんを導いたことで、業界でも名の知れている人だ
17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/15(月) 20:55:03.15 ID:9LZV8I/x0
「千早さん、落し物をしてしまったみたいで、探していたんです」
「なに?そうだったのか?わかった。オレも一緒に探そう・・・・・・ん?」
「お、もしかして、これじゃないか?」
「あ……!そ、そうです!それです!」
18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 20:57:03.04 ID:9LZV8I/x0
「ああ、ああ。ありがとうございます、プロデューサー!」
「見つかってよかったな」
「はい!」
そのとき
千早さんは
いつもの彼女からは想像できない
無邪気な子どものようなとびきりの笑顔を
プロデューサーさんに見せた
19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/15(月) 20:59:11.50 ID:9LZV8I/x0
それを見て僕は
ああ……よかった
そう、思ったんだ
20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 21:00:22.17 ID:9LZV8I/x0
落し物が見つかったこともそう
でも、それ以上に
千早さんは
見つけることができたんだ
笑顔でいられる場所を
21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 21:01:46.64 ID:9LZV8I/x0
この居場所があるかぎり
千早さんは、大丈夫なんだ
それがわかったから
22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 21:02:48.99 ID:9LZV8I/x0
その後、千早さんに何度もお礼を言われながら
プロデューサーさんが車で仕事場まで乗せて行ってくださったおかげで
仕事に遅刻せずにすんだ
でも
23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/15(月) 21:06:58.88 ID:9LZV8I/x0
「遅―い!」
「夢子ちゃん」
「何してたのよ」
「ちょっと、ね」
「早めにきてチェックしようと思ったのに!」
「ごめん。でも、夢子ちゃんなら合わせられるでしょ?」
「ふーん、言ってくれるじゃない。自信あるんだ?」
「今日は、いつも以上に気合入ってるんだ、なんかね」
「なら、今日は初めから飛ばしていくわよ!」
「うん!」
24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/15(月) 21:08:43.08 ID:9LZV8I/x0
僕にもいつか、見つけられるだろうか
ありのままの僕の、笑顔でいられる場所を
25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/15(月) 21:09:21.00 ID:9LZV8I/x0
終わり