【塩見周子SS】周子「ただ風が騒いでじっとしてらんない」

1 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:01:31.33 ID:eMyWjX9N0

「――――お疲れ様でしたー!」

「――お疲れさま――――」

「お疲れ―――」

―――――――――――――――
――――――――――
―――――

「……もう一度、言っておくわね……ふふっ、おめでとう」

「おめでとうさん……ほんまに、ほんまに、おめでとうさん。……ぐす」

未だその活気と熱気が収まらぬ、春の夜空の下
私は仲間からの賛美の声をひたすらに聴き入れる
中には泣いてしまう者もいて、私が成し遂げたことの重みをひしひしと感じさせる

この夜空の中、輝く一番星に見守れらてたくさんの仲間から浴びるその声は
誰も訪れたことの無い様な深緑の水面に、雨水のように身を堕とし、連なる波紋を生み出す
それはとても心地いいもので、頭の中で燦燦と輝き、胸の奥の奥を熱く燃やす

2 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:04:39.33 ID:eMyWjX9N0

第四回総選挙、私は1位だった

私は、シンデレラガールになった

幾日、幾月、幾年、掛かっただろう

どれだけの時間が、過ぎたのだろう

辛くて大変で楽しかったあの日々、その全てが一時の出来事に思える

「……もー、ほら。紗枝ちゃん泣かんといてー」

「そ、そないな、こと、いっいったっ、て…………ふえぇぇぇ……」

涙で濡れた彼女の真白は頬を、優しく指で拭う
冷たく暖かい、止まる気配を見せないこの涙が指を触れる
私の為に泣いてくれるこの娘の優しさを、愛を、指先から全身に伝わらせる
そしてまた、私は笑う

3 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:05:17.72 ID:eMyWjX9N0

「貴女、この後はどうするの?寮、帰る?」

「ん、そーだね。ちゃちゃっと……………あ、ごめん」

「?」

「私、事務所に忘れ物してたんだよねー。取ってから帰るん」

「あら、そう。分かったわ、先に寝てるかもしれないから……おやすみ」

「うん。おやすみ」

もう打ち上げの解散を始めていた、CGプロダクションの面々
その間を通り、あの人を探す

ささっ。と歩いていても、その間皆から掛かる声は止まらない
私はその声にきちんと返事をして、それを幾度となく繰り返しながら、その背中を探す

この軍勢の端の方、そこにあの人はいた

4 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:05:49.26 ID:eMyWjX9N0

「Pさん」

「周子。お疲れ様」

「うん」

「どうした?奏、帰っちゃうぞ」

「いーの。Pさん、これから事務所戻るでしょ?」

「あぁ」

「私……えー、と、忘れ物、しちゃったからさ」

「ん、そうか。なら一緒に行こうか?」

「うん」

「車は無いから徒歩だが」

「いーの」

「そうか」

「うん」

星達に見守られた私達は、皆に別れの挨拶をして、二人共に事務所を目指す

5 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:06:23.90 ID:eMyWjX9N0

「…」

「…」

沈黙

心地よい沈黙

私の自論だけど
沈黙が気まずくない関係って、素晴らしいと思う
友人でも、恋人でも、家族でも
心地よい、安心できる沈黙って言うのは、信頼の現れだと考えているんだ

けれどもその素敵な沈黙は、私が自ら破りにいくのです

「Pさん」

「ん」

「ありがとーね」

「あぁ」

「俺こそ」

「ありがとう」

分かっていたかの様な返事に、私の口角が上がる
それを見たPさんも、静かに笑う

6 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:06:58.17 ID:eMyWjX9N0

「見て」

「これが私の翼」

「まだマトモには飛べなかった、私の魅力だよ」

私はさ
私は、思ったんだ
周りの、魅力的なアイドルの皆に埋もれていた、私の姿をちゃんと見てくれていたのはPさんなんだって

「Pさんは、私の魅力を全て分かっていたの?」

「俺はそのつもりだが」

「ふふっ、だよね」

世間体や上辺だけを気にした、つまらない顔は見せないよ
今迄もそうだし、これからもそう
本当の顔でうたうよ

7 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:07:49.62 ID:eMyWjX9N0

「キレイな夢を見たんだ」

「アイドルとして輝く、皆の姿」

「どれもが満点の星のようで、私はいっつも見惚れていたよ」

その夢は、本当に夢だったのかもしれないけれど

私がその光景を忘れてしまうことはないだろう

例え世界が水で埋もれてしまっても、鉛の空に覆われても、紅の蛍に塗れたって

いつまでも、いつまでも、覚えているだろう

8 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:08:21.04 ID:eMyWjX9N0

「私はそれに混ざりたくって、一緒に輝きたくって」

「今もふんとーちゅー」

「でも」

「でもね」

「ふふっ、そうだよ」

「まだ、終わりじゃないから」

「皆の輝きの中に、私は混ざれたのかもしれないけど」

「これで終わりじゃないから」

「まだ、まだ、最高の輝きを放ち続けないと、ね」

9 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:09:18.73 ID:eMyWjX9N0

「Pさんは、私を愛してくれた?アイドル塩見周子を、愛してくれた?」

「当たり前だ」

「うん。知ってる」

「私は、私自身の努力と、Pさんのおかげで成長出来たんだ」

Pさんがこぼした愛は、私に全部染み込んで
穢れ無きその愛がアイドルとしての私を成長させる
そして、ついに
明日を迎えることが出来た

努力が報われる、とはこういうことなんだろう、って
空を見上げると眼前に飛び込んでくる満天の星空
いつの間にか仲間を増やしていた輝き、その一つ一つの光が、何となーくそう思わせる

10 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:10:08.54 ID:eMyWjX9N0

私は煙のような街で眠っていたんだ
皆のように輝くことが出来なかった、濁った水晶玉のようなあのとき
まだ、アイドルとして目覚めることが出来ていなかった、あのとき

でも、今は違うよね
あのときの私は、今の私でもあるけれど
それでも今の私は、人一倍強い輝きを纏っている
それは、驕りでも怠慢でもなくって
自分と力とPさんの力、皆との時間のおかげで鋭く研ぎ澄まされた、煌く輝きなんだって
自信を持って、そう言える

「喉が渇いてるだけじゃない、高みに上りたいだけじゃない」

「もっと、もっと、上に行きたいんだ」

「始めたからには、ずっと」

「ずーっと」

「だから、Pさん」

終りのない終わりに、前だけ向いて向かっていきたい

11 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:11:01.52 ID:eMyWjX9N0

“終りだよ”って

“あきらめな”って

そんな音、私には聞こえない

そんなつまんない音何か、両手で耳塞いでぜーんぶ無視しちゃう

「シンデレラになった私は、これから何処にいけるんだろーって」

「どんなものが待ってるんだろーって」

「どんなものが見えるんだろ、って」

「それが楽しみで、仕方ないんだ」

「ワクワクが止まらないんだ」

12 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:11:46.75 ID:eMyWjX9N0

「今日も探してるんだ」

「シンデレラになった今でも探してる」

私にもっと似合うシンプルスカイ

私が

「最高に輝いていられる、その場所」

アイドルとしての私が、ひたすらに輝いていられる、そのどこか
まだ見付けられていない、その素晴らしい素敵な場所

「雲が邪魔したって、怯まないよ。吹き飛ばして見せるんだ」

「だから」

「あぁ」

「これからも、よろしくね」

「分かってる」

「だよねー」

13 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:12:33.61 ID:eMyWjX9N0

―――――――――――――――
――――――――――
―――――

「所で周子、忘れ物ってのは何なんだ?」

「ん?あぁー……それ、勘違いかも!」

「えぇ……」

「へへ、いーじゃん別にー。ほら、さっさと事務所入ろ」

「あぁ、分かった。………押すなって」

「ふふっ……ね、Pさん」

「ん?」

「ちょっとさ、ちょっとだけ。少しだけ、振り向いて欲しいんだ――――

今なら、この真っ赤な顔も、最高の笑顔で見せられるかな
誰でも持ってる明日は、もう来ちゃったけど
色んな希望が混ざった虹は、もうずーっと後ろにあるけれど

これからは、どんな世界が待っているんだろう

あぁ

楽しみだなぁ

熱くて吐き出した愛も

いつかきっと、飲み干せるさ

14 : ◆5/VbB6KnKE :2015/04/21(火) 19:13:31.42 ID:eMyWjX9N0
おしり
おめでとう

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/04/21(火) 19:18:02.09 ID:gTY+2B4P0
乙、そして…
塩見周子、シンデレラガールおめでとう!

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429610491/

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