1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:08:42.82 ID:PEJvJsti0
モバマス・東郷あいのSSです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434467312
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:09:25.40 ID:PEJvJsti0
愛してるって 最近言わなくなったのは
本当にあなたを 愛し始めたから
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:10:33.32 ID:PEJvJsti0
あい「…」
軽く壁にもたれながら、ぼんやりと空を見上げる。
今夜も視界に入るのは、星じゃなく、眩しすぎるイルミネーションの数々。
週末の駅前。
雑踏の賑やかさは、それはもう。
周囲を顧みず騒ぐ若者たちと、
スマートフォンを凝視して足早に行き交う人々。
都会の喧騒、そんな言葉が似合う風景だ。
イヤホンから流れる曲は、
今の情景を見透かしたような、
少し口ずさみたくなる曲。
トーキョーは、夜の七時♪
お腹が空いて 死にそうなの♪
「…早く、あなたに逢いたい♪」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:11:42.41 ID:PEJvJsti0
P「お待たせしました!」
あい「やあ、お疲れ様」
P「すみません、遅くなっちゃって」
あい「構わないさ。ほんの少しの時間だ。それに」
駆けつけてくれた彼の、少し乱れたスーツの襟を直す。
あい「待つのも醍醐味ってね。さあエスコート、よろしく頼む」ポンポン
P「は、はい」
カラン
あい「軽食だけ済ませて、早々にこんな洒落たお店に案内とは、キミにしては珍しいね」
P「…たまには、どうかなと」
あい「素敵だと思うよ。まあ、あまり飲めない私が言うのも変な話だが」
P「それは僕もですし、あまり飲めなくとも、雰囲気は楽しんで頂けるかなと」
あい「ふむ」
P「それに、あまり飲まないからこそ、話もできるのかもしれませんし」
あい「…おや。何かあったのかい?」
P「いえ、あいさんがですよ。最近ちょっと冴えない顔をしている気がしたので」
あい「…フフッ、そうだったのか。てっきりキミから情熱的な言葉でも頂けるのかと思って、少し身構えていたんだがね」
P「何言ってんですか、あいさんみたいな美人が」
あい「フフッ、気持ちだけでも嬉しいよ」
P「最近仕事もいろいろ忙しかったですしね。今日は久しぶりにゆっくり話でもしましょう」
あい「ありがとう」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:13:02.39 ID:PEJvJsti0
あい「…そういえば、他の子たちのプロデュースは最近どうだい?」
P「まあ、なんとか。いろいろ大変な子もいますけど、みんないい子ですし、楽しいですよ」
あい「乃々くんとか、飛鳥くんとか、最近かなり頑張ってフォローしている子もいるみたいだね」
P「ええ、少しずつですけど彼女たちも頑張っていますよ。二人ともかわいいし、いい子ですしね。ちょっと向上心が出てきたみたいで、この間もー」
フフッ、楽しそうで何よりだ。
キミこそ相変わらずだな。
前向きで、明るくて、タフな男性だ。
担当アイドルたちがキミに惹かれるというのも無理はない。
それと、この場で嬉々としてその話をするキミの純朴さと、タチの悪さもね。
アルコールをほんの少し、口にする。
飲み口の軽いものをお願いしたハズなんだけどね。
苦いのは、お酒のせいなんだろうか?
P「それで乃々が………あ、どうかしましたか?」
あい「いや、キミらしくていいなと思ってね」
P「そう…ですか?」
あい「フフッ、まあそろそろお世辞でも、私の話を出してほしいものだけどね」
P「あ…すみません、せっかくのこんな場で」
あい「いや、いいさ。楽しいよ」
P「話題変えますね」
あい「あまり気にしすぎないでくれ。キミの真面目さはよく知っているし、それもキミらしさだしね」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:14:35.07 ID:PEJvJsti0
あい「それに、私はキミのそのまっすぐな所に惹かれてここまで来たんだからね」
P「あはは、またそんなこと言って…」
あい「フフッ、まあ感謝の気持ちは本当さ」
P「…嬉しいです」
小粋な会話は楽しいけれど、
少し、自己嫌悪もある。
年長者として、10代の子たちから多少なりとも慕われている自覚はある。
ありがたいことだ。
だが、私の本性なんてこんなものだ。
乃々くんよりも臆病で。
飛鳥くんよりも不器用で。
言いたいことは言うけれど、
いつも茶化してしまう、
本音をごまかしてばかりの大人だ。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:15:34.24 ID:PEJvJsti0
彼を見遣る。
いつも優しい笑顔で、私を見てくれるね。
きっと、これからもそうなんだろう。
あい「キミへの感謝はいくらあっても足りないくらいだよ」
その笑顔に支えられて、私はここまで来たんだよ。
あい「もう少しだけ、飲もうか」
P「無理はしないでくださいね」
言葉はこんなにたくさんあるのに、
私たちはこんなに自由なのに、
どうしてこんなにもどかしいのだろうね。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:17:38.27 ID:PEJvJsti0
しばらく雑談と沈黙を繰り返した。
積極的に話を振ってくれるのは嬉しいが、
…キミは本当に仕事以外に、話のネタはないんだね。
少し笑ってしまいそうになる。
そんなところが、大好きだったりするんだけど。
あい「…まあキミはもう少し、担当の子たちからの、キミへの好意を大切にした方がいいね」
P「僕はプロデューサーですよ」
あい「プロデューサーだからだよ」
P「…乃々が慕ってくれていることとか、ですか?」
…多少の自覚は、あるんだね。少し安心したよ。
P「でもあの子はまだ14歳の女の子ですよ。恋に恋するお年頃ですよ」
あい「………なんというか、まったく」
前言撤回、かな?
言葉の意味を、
いや、年頃の女子ってものを、もっと…ねぇ。
P「…なんですか」
あい「まあいいさ。でもね、案外女の子は、いつでも目の前が全てなんだよ。忘れないようにね」
もちろん私も、ね。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:21:51.95 ID:PEJvJsti0
店を出る。
夜風が少し、気持ちいい。
あい「今日も楽しかったよ。誘ってくれてありがとう」
P「いえ、こちらこそ」
並んで歩く。
駅前の人通りはもう、まばらになっていた。
P「あいさん」
あい「うん?」
P「あいさんは今、何を目標にアイドルをやっていますか?」
あい「フフッ、急にどうしたんだい」
P「あ、いえ。月並みですけど、こういうことは時々聞いておきたいんです。確認です」
あい「………そうだな」
P「………」
後々振り返ってみても、
この時の自分の勇気がどこから湧いたものなのかは、
よくわからない。
お酒のせいではないと思いたい。
少し自分に酔っていた可能性は、否定しないが。
あい「ふむ」チラッ
P「?」
あい「………今は、キミのような…」
あい「キミのようなまっすぐな人を、ちゃんと振り向かせられるようになること、かな」
P「………それは、つまりその」
あい「ここでいい。今日はありがとう」
P「ちょっと待ってください、あいさん待って」
ガシッ
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:23:36.06 ID:PEJvJsti0
あい「………」
P「………」
不覚にも、言い逃げに失敗した。
あい「………」
P「………」
沈黙が続く。
何と言っていいものか。
あい「………とりあえず、手を離してくれないか」
P「落ち着いてください」
あい「………や、その、ドキドキするから」
P「えっ、あ、すみません。でも逃げないでくださいね」
スッ
あい「………」
P「………あの」
あい「ここから先は、乙女心の向こう側だぞ」
P「…えっ」
あい「恋より先の、その先だ。これ以上聞くなら、私たちの間柄も変わってしまう覚悟をするんだよ?」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:31:31.66 ID:PEJvJsti0
P「………」
あい「………」
P「……………あいさんは、周囲も、僕も、魅了してやまない人ですけど、今は恋愛よりもアイドルとしての自分を…って、以前言ってましたよね」
あい「…そうだね」
P「僕も、今は仕事が全てで、って言ったことがありましたよね」
あい「…そうだね」
P「でも人間だし、そういう気持ちも…変わります…よね」
あい「………そうだね」
鼓動の異常な早さが耳につく。
彼に気づかれていないだろうか。
彼がこちらに向き直る。
P「僕はあいさんを素敵な人だと思います。大切な仲間だとも。最も慕う人の一人だとも思います。でも今、あなたはアイドルで、僕はプロデューサーで。だから、今はまだ、その」
あい「今はまだ…ね」
P「あ、えと、はい」
あい「フフッ」
グイッ
P「!」
あい「んっ…」
P「………あ、あいさん」
あい「頬で勘弁しておいてあげよう。今は、まだ、ということでね」
P「………そんな顔真っ赤でクールを装われても」
あい「う、うるさい」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:33:22.62 ID:PEJvJsti0
結局、逃走に失敗した私は、
彼にもうしばらく送ってもらうことになった。
P「あの、これ」
あい「ん、何だい」
P「先日もライブお疲れ様でした。ちょっとした労いというか、その、プレゼントです」
あい「………?」
P「プレゼントです。個人的な。あ、ただの髪飾りです。もしよければ」
あい「キミはなんというか…本当にタイミングというか間というか、しっちゃかめっちゃかな人だな」
……………指輪でも渡されるのかと、ほんの一瞬浮かれた自分が恥ずかしい。
P「…今タイミング違いましたか?」
あい「どうして合ってると思ったんだい」
フフッ。
嬉しいのに文句しか出ないのは、変な気分だね。
あい「キミは10代の子たち相手ならあれだけクールな感じなのに、私たちに大人組に対してはどうしてこう…」
P「頼りなくてすみません、でもあいさん」
あい「うん?」
P「僕もあいさんに魅了されている人の一人なんですよ」
あい「……………」
それは、ズルい。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:37:33.40 ID:PEJvJsti0
P「なんというか、その、さっきの話、えと」
あい「いや、いいさ」
彼の方を向きなおす。
これでも私は、巷じゃ麗人と呼ばれる女だ。
キメるときはキメる。
大きく一息。
よし、落ち着いた。
あい「昔から冗談半分に言っていたことが、ちゃんと伝わったなら嬉しい。私はキミが好きなんだ。それはまごうことなき私の気持ちだ」
笑みとともに、少しだけ、歩み寄る。
あい「だけどね」
そっと、彼の胸に手を当てる。
あい「私もキミと同じで、今どうこうというつもりはないんだ。今私はアイドル、キミはプロデューサーだ。それでいい」
P「あい、さん…」
あい「…だけど、私が想っているんだってことと、キミが想われているんだってことは、少し心に留めておいてくれるなら、嬉しい」
P「…は、はい」
あい「ありがとう」ニコッ
今の立ち振る舞いは、どうだっただろうか。
私なりに、今できる最高の「東郷あい」だったと思っているよ。
だけど、もう限界だ。
P「僕も、その…」
あい「ストップ。今日はここまで」
P「え、あの」
ダッ
P「あっ、ちょっと、あいさん!」
あい「今日はありがとう。おやすみ!」
P「ちょっとあいさん! 僕もs…」
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:38:57.41 ID:PEJvJsti0
あい「ハーッ、ハーッ」
路地を曲がったところで、少し壁にもたれる。
お酒の後に走るのは、今後勘弁願いたいものだな。
まだ息が荒い。
鼓動の高鳴りは驚くほどだ。
急に走ったりするからだ。まったく。
………
急に走ったせいだね。うん。まったくそうだ。
何というか、
今日は酷く疲れたよ。
でも…
ま、いいか。
あい「フフッ」
夜風よ、もっと吹いてくれ。
高鳴る鼓動と火照った顔は、
私自身じゃどうにもならない。
月がとても綺麗な夜だ。
今日はもう少し、回り道をして帰ろう。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:44:18.45 ID:PEJvJsti0
翌日。
あい「おはようございます」ガチャ
比奈「あ、おはようございまーす…」ダルーン
杏「うぁ〜…あ、おはようあいさん」グデー
あい「相変わらず朝から酷いテンションだね。今からレッスンかい?」
比奈「はい、そうっス…すんません、ちょっとマンガが立て込んでいたもので…」
杏「杏もオンラインがね、ちょっとね…」
あい「やれやれ…」
まあ、これも事務所のよくある光景だ。
案外好きだよ、杏たちのこのゆるい雰囲気もね。
なんだかんだ言いつつ、彼女たちも練習はサボらないからね。
杏「…ん、あいさんは何かいいことあったの?」
あい「え」
杏「そんな髪飾りしてるの初めて見た。今日はオシャレする気分なの?」
比奈「あ、ホントだ。かわいいっスね」
あい「あ、いや、ちょっと気分でね。ありがとう比奈くん」
杏「ふーん。…比奈、今日Coのプロデューサーと会う予定あったっけ?」
比奈「え、あーっと昼から会うっスよ」
杏「そっか、とりあえずヘラヘラしてたら蹴ってやんなよ」
あい「えっ、ちょっと、杏くん!?」
杏「杏は別に何も知らないよ? なんとなく、あいさんとCoのプロデューサーさん仲いいしなーそのアレかなと思っただけで」
比奈「えっ、あいさんプロデューサーと何かあったんスか!?」キラーン
おかしな空気になってきた。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:45:02.78 ID:PEJvJsti0
あい「えっと…」
杏「…」
比奈「…」
あい「………いや、ないない。真面目な話、何もないよ」
杏「あれっ」
比奈「えっ、あ、そっスか。すみません」
あい「あっ、いや、気にしないでくれ。フフッ、それじゃ」
スタスタ
比奈「(…どう思うっスか?)」
杏「(いい感じのトコでCoのプロデューサーがヘタレたとか、まあそんな感じなんじゃないの)」
比奈「(しっかし…)」
杏「(うん…)」
あい「…♪」
比奈「(割とゴキゲンっスね)」
杏「(うん…まあアレだよ、乙女なんだよ)」
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/17(水) 00:46:01.23 ID:PEJvJsti0
この業界の常套句、目指せトップアイドル。
果たしてそれは、一体、何処を目指しているんだろう。
シンデレラガール?
ドーム公演?
それとも世界レベルかな?
私は…そうだな。
たくさんの人を魅了し続けられる存在であることかな。
熱心なアイドルファンも、そうでない人も、
いつもそばにいるキミも、ね。