4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:02:21.72 ID:WQ+Xkj0i0
雪歩「うぅ…」
がたがたと震える体を必死に押さえつけようと必死に自分の体を抱きしめる。
雪歩「やっぱり、無理だよぅ…」
その日、私はとある芸能事務所、「765プロダクション」近くの公園のベンチにひとり座っていた。
こんなダメダメな私がどうしてこんなところにいるのかというと、私が765プロのアイドル候補生だからなんですぅ。
でも、この間決まったばかりで実はまだ他のアイドル候補生さんたちにも会ったことはありません。
絶対に私なんかよりも可愛い子がいっぱいいるんです。
きっと私なんてすぐにクビになっちゃいますぅ…。
雪歩「やっぱり穴を掘って埋まるしか…」
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:07:04.16 ID:WQ+Xkj0i0
?「ちょっと待ったぁー!」
私がいつもの要領でスコップを取り出して穴を掘ろうとすると、どこからか声が聞こえてきました。
雪歩「はぅぅ…」
キョロキョロとあたりを見渡して声の主を探します。
すると、公園の入口に誰かが立っているのが見えました。
?「君、何をしてるんだ!」
雪歩「ひぃ!」
男の人っ!?
その人はものすごい速さで私の方に走ってきます。
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:09:20.34 ID:WQ+Xkj0i0
?「公園に穴を掘っちゃダメじゃないか。まったくもう」
見た目は私と同じ年齢位の男の子が、私からスコップをひったくりました。
雪歩「ぅぅ、ごめんなさい」
私は男の人が苦手なので、俯いてようやく出た声で謝ります。
?「何か理由があったのかな?ほら、顔を上げて」
雪歩「…きゃ!」
不意に肩に手を置かれました。
慌ててそれを振り払い、立ち上がろうとします。
ですが、慌てていたのがいけないのかバランスを崩してしまいました。
?「…危ないっ」
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:12:40.05 ID:6hQLDdUz0
雪歩は天使
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:13:31.80 ID:WQ+Xkj0i0
雪歩「ひゃう…」
肩を抱きかえる形で男の子が私の体を支えます。
ひぃ…私、もう…。
あまりの恐怖に意識がなくなりそうになった時、男の子が顔を覗き込んで聞いてきます。
?「ごめん、大丈夫だった?」
はっきりとした顔立ちに、凛々しい瞳。
その男の子の顔はとても綺麗でかっこよくて、私は一瞬見とれてしまいました。
?「へへ…そんなに見つめないでくれるかな?」
はっ!
そう言って照れ笑いをする男の子の顔を見て、私は現実に戻ります。
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:18:04.10 ID:WQ+Xkj0i0
雪歩「えっと…」
必死に言葉を探しながら、男の子から離れます。
そして男の子の顔を見ながら、とんでもないことを口走ってしまいました。
雪歩「…男…の人…ですか?」
何故だかはわかりませんが、照れ笑いを浮かべるその子の顔を見ているとそういう風に聞きたくなりました。
?「……っ!?」
その子は驚いた顔をして私を見ます。
当たり前ですよね、私がおかしなことを言ったんですから。
雪歩「ご、ごめんなさいぃ!」
とりあえず大きな声で謝り、全力でその場から立ち去ります。
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:22:19.83 ID:WQ+Xkj0i0
?「待って!」
でも、すごい力で腕をつかまれて動けませんでしたぁ…。
?「ボクが女の子だってわかるの?」
必死な顔をして聞いてくる質問がこれです。
今、思い返せばおかしな質問ですよね。
でもその時の私は泣きそうな顔で頷くことしか出来ませんでした。
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:25:22.27 ID:WQ+Xkj0i0
>>13 かわええ
私はまたベンチに座らされ、その子が隣に座りました。
そして名前を教えてもらいました。
彼女の名前は菊地真さん。
私と同い年の女の子だそうなんです。
真「いやー、まさか初めて会った人に女の子扱いしてもらえるなんて思わなかったよ」
そういって私を見て笑う菊地さんは、やっぱりかっこいい男の子に見えました。
雪歩「菊地さんは、どうしてこんなところに?」
私が言えることではないかもですけど、こんな平日の昼間から公園にいるのはおかしいです。
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:27:49.28 ID:WQ+Xkj0i0
真「へへ、ボク、こう見えてもアイドルなんだ」
菊地さんは白い歯を見せてまた笑いました。
うう、かっこいいよう、王子さまみたい。
あまりのかっこよさに見とれていて、菊地さんの言ったことを理解するのを忘れていました。
真「この近くに765プロってあるよね。ボクはそこのアイドル候補生」
雪歩「ええっ!?」
驚きました。
まさか私と同じアイドル候補生の子がこんなにもかっこいい子だなんて。
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:30:40.97 ID:WQ+Xkj0i0
自分も同じアイドル候補生であるとは言えませんでした。
雪歩「羨ましいです。私なんて菊地さんみたいになれないから…」
真「そんなことないよ。えっと…」
そういえばまだ私の名前を教えていませんでした。
雪歩「萩原雪歩、ですぅ」
真「そっか。じゃあ、雪歩」
菊地さんは私の手を握り、言いました。
真「ボクは、雪歩を見たときに可愛い子だなって思ったよ」
なんだか…告白されてるみたいですぅ。
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:34:56.56 ID:WQ+Xkj0i0
真「だから少し遠くから見てたんだけど、そしたら急にスコップを取り出すんだから」
びっくりしたよ、と菊地さんは笑う。
雪歩「そ、それは…」
仕方ないんですぅ。今だって穴を掘って埋まりたい位なんですから。
雪歩「き、菊地さんは、どうしてアイドルになったんですか?」
私なんかの話は終わりにして、早く別の話に切り替えなきゃ。
真「うーん…」
すると菊地さんは難しい顔をしました。
あ、聞いちゃダメだったのかな?
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:38:31.60 ID:WQ+Xkj0i0
真「真、だよ」
え?
真「菊地さんって呼ばれるの、なんかくすぐったくて」
そういうことだったんですか。
いろいろと心配して大変でしたぁ。
雪歩「あ、あの、真…さん?」
勇気をだして声にしてみる。
真「……」
すると拗ねたような顔をする。
かわいいなあ、なんて思っちゃいました。
こうなったらこれしかありません!
雪歩「ま、真ちゃん?」
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:42:52.03 ID:WQ+Xkj0i0
真「それだっ!」
雪歩「ひっ」
突然の大声に少し驚きました。
真「真『ちゃん』かあ」
少し嬉しそうな顔をして、真ちゃんは空を見上げました。
そうだよね。
こんなにかっこいいんだもん。きっと真クンとか呼ばれてるんだよね。
勝手な想像ですが、あながち間違っていない気もしました。
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:45:05.33 ID:WQ+Xkj0i0
真「それで、ボクがアイドルになった理由だったよね?」
まだ少し顔を赤くした真ちゃんは楽しそうに話し始めました。
かっこいい真ちゃんはたくさんの女の子からモテモテなんだそうで、
そんな自分が嫌だからもっと女の子らしく、お姫様みたいになりたい。
それがアイドルになった理由だそうです。
どっちかって聞かれたら、王子さまの方だと思うんだけど…
ただ、自分を変えるということ。
雪歩「私も…」
こんなダメダメな自分が嫌で、それを変えようとアイドルになろうって決めたんでした。
でも、結局何も変わっていないんですけどね。
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:48:17.67 ID:WQ+Xkj0i0
真「なーんだ、雪歩もアイドルになろうってしてたんだね」
雪歩「で、でも、私なんかじゃ無理なんです」
真「そんなことないよ」
真ちゃんは立ち上がり、私の前に立ちました。
真「雪歩はこんなにも可愛いじゃない。諦めることなんてない」
真「さっき雪歩を見たときに感じたんだ。今にも消えそうな子だって。
きっと誰かが守ってあげなきゃいけないんだって」
真「そういう雰囲気を持った女の子なんてなかなかいるものじゃないよ」
あうう、そんなこと言われたの初めてです。
真「雪歩はボクにはない女の子らしさを持ってるじゃないか。
ボクにもできるんだから、雪歩ができないわけがないよ」
そう言うと、真ちゃんは私の顔をじっと見つめてきました。
うう、恥ずかしいです。
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:52:22.41 ID:WQ+Xkj0i0
真「勇気が出ないならボクが協力するからさ。ボクと同じ事務所に来ない?」
そういえば私も候補生だってこと、知らないんでした。
雪歩「あ、あの」
雪歩「私を…」
真「うん、ゆっくりでいいよ」
事務所に向かう勇気すらない私ですが、今なら頑張れる気がします。
似たような夢を持っている彼女に出会えたのは何かの縁だと思いました。
だから、これは神様がくれたチャンスなんだって自分を奮い立たせます。
雪歩「私を、連れて…」
私がそう言かける、真ちゃんは何か思いついたように手を差し出してきました。
真「姫、ボクと一緒に来てはいただけませんか?」
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:56:00.71 ID:WQ+Xkj0i0
真剣な表情でそういう真ちゃんは本物の王子さまみたいでした。
真「へへ、ボクがこうするとみんなすっごい嬉しそうな顔をするんだ」
さすがは女の子にモテモテの真ちゃんです。
私がすんなり手を取れるように気を使ってくれたんでしょう。
雪歩「はい、喜んで。お願いしますぅ」
だから私も勢いに乗って真ちゃんの手を握り締めました。
真「あなたのことは、ボクがしっかりとお守りしますよ」
そう言って私を立たせてくれる真ちゃん。
今の私の心臓はうるさいくらいにドキドキしてます。
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 21:59:45.14 ID:WQ+Xkj0i0
真「実はボクもひとりだと心細くてさ、このあたりを散歩してたんだ」
手を繋いだまま歩いていると、真ちゃんが言います。
真「だから雪歩がいてくれてよかったよ」
真ちゃんの笑顔は反則ですぅ。
きっと無意識の内に女の子を惚れさせる才能があるんだと思います。
私も、もう遅いのかもしれません。
真「雪歩なら立派なアイドルになれるよ。一緒に頑張ろうね」
誰かを好きになったこともないけど、この気持ちが普通じゃないっていうのはすぐにわかりました。
だから私はなにも言わずに握った手を強く握り返しました。
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 22:03:16.89 ID:WQ+Xkj0i0
公園から少し歩けば、事務所にはすぐに着きました。
エレベーターが壊れていたので、階段で登りながらも私は真ちゃんを見ていました。
もっと色々な真ちゃんの顔を見てみたいな、なんて柄にもないことを考えていると…
真「もうすぐ着くよ。一緒に憧れの自分になろうね」
突然声をかけられてびっくりしちゃいました。
雪歩「は、はい!」
私を不安の中から出してくれた人。
男の子みたいな女の子。
女の子に人気のかっこいい女の子。
私のことをお姫様って呼んでくれたのは冗談でも嬉しかった。
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 22:15:40.94 ID:WQ+Xkj0i0
>>36
ハッピーエンドですよ
そして短めなのでもうすぐ終わります。
私たちは事務所のドアの前で一度深呼吸をします。
雪歩「わ、私も、真ちゃんみたいに…」
かっこよくなりたいです、と私は自分に言い聞かせるためにそう言いました。
真「ボクも、雪歩みたいに…」
か、可愛く…、と真ちゃんも呟いていました。
雪歩「…えへへ」
真「…へへっ」
二人はそれがおかしくて笑い合います。
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 22:21:13.86 ID:WQ+Xkj0i0
真「じゃあ、行くよ」
私は頷いて返事をします。
そして真ちゃんが勢い良くドアを開きました。
真「おはようございまーす!菊地真ですっ」
元気よく声を出して入ると、事務所の奥で作業をしていた事務員の人が驚いたみたいで
体が少し跳ね上がるのが見えました。
雪歩「おはようございますぅ」
私も真ちゃんの後ろについて中に入ります。
43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 22:26:59.35 ID:WQ+Xkj0i0
事務員の女の人、たしか名前は小鳥さんでした。
小鳥さんは真ちゃんと私を交互に見た後に、机の上にある書類を手に取りました。
小鳥「うん、社長の目はやっぱりすごいわ。可愛い子たちじゃない」
可愛い、その言葉に反応して真ちゃんは少し嬉しそうでした。
小鳥「真ちゃんと、えっと、雪歩ちゃんね」
書類を見ながら私たちの確認をしていたようです。
真「え?雪歩を知ってるんですか?」
真ちゃんは目を丸くして驚いていました。
46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 22:35:18.96 ID:WQ+Xkj0i0
小鳥「あら、二人は知り合いじゃなかったの?」
てっきり一緒に候補生になったと思っていたわ、と小鳥さんは首をかしげる。
雪歩「ごめんね、真ちゃん。私、嘘をついてたんだ」
自体が飲み込めていない真ちゃんに私はすべてを話しました。
真「つまり、雪歩とボクはもともと一緒だったってこと?」
雪歩「うん、ここに来れなかった理由も一緒だよ」
驚く真ちゃんは、とても女の子らしく可愛いと思います。
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 22:38:45.31 ID:WQ+Xkj0i0
小鳥「うーん、事情はよくわからないけど、これからよろしくね」
小鳥さんがそう言ってお辞儀をする。
雪歩「はい、こちらこそよろしくお願いしますぅ」
真「あ、はい。よろしくお願いします」
自体が飲み込めていない真ちゃんに、私はそっとこう言いました。
雪歩「これから一緒に、憧れの自分になろうね?」
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/05(日) 22:40:28.47 ID:WQ+Xkj0i0
……
雪歩「これが私がアイドルになった時のお話ですぅ」
私は目の前のプロデューサーにお茶を渡した。
男の人だけど、この人はやさしくて怖くないです。
P「雪歩と真はずっと仲が良いんだな」
真「あったりまえですよ。ボクが見つけたお姫様なんですからね!」
真ちゃんは冗談で言っているんだろうけど、あの時からずっとそう言ってくれるのが嬉しいです。
私は真ちゃんと並んでソファに座ります。
P「ははは、雪歩はどうなんだ?」
プロデューサーは笑ってそう聞いてきました。
そんなこと、私の答えは決まっています。
雪歩「真ちゃんはずぅっと、私の王子さま、ですぅ」
私は真ちゃんの手を握り、そう答えました。
ぎゅっと握り返してくる真ちゃんに対して、私はニッコリと微笑みかけました。
終わる