1 : ◆m03zzdT6fs – 2013/05/24 23:21:04.67 ib+tLkhwo 1/11
大和亜季さんのSSです。注意点として、作中にPCゲーム”Hearts of Iron 2″が出てきます。
あとは、SS初心者なので、乱文雑文はご容赦を頂ければ。ゆったり書いていきます。
調べた程度のにわか知識しかないので、間違いなどあるかと思いますが、こちらもご容赦ください。
参考までに、作中内に出てくるPCゲームの公式サイトです。
Hearts of Iron 2
http://www.cyberfront.co.jp/title/heartsofiron2/
元スレ
モバP「亜季とハーツでアイアンなオタク話」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1369405264/
2 : VIPに… – 2013/05/24 23:24:43.02 ib+tLkhwo 2/11
「むむむ……」
ある昼下がりのこと。俺が営業から戻ると、担当アイドルが珍しくもノートパソコンとにらめっこしていた。
『ただいま、亜季』
「あっ、プロデューサー殿! 無事のご帰還、お疲れ様であります!」
『はは、大げさだな。ちひろさん、今日は風邪でお休みだって?』
「そうであります、先ほど電信回線に、緊急通達がありましたっ」
『分かった、ありがとう』
俺はそういうと、自分のデスクに座り、デスクトップパソコンの電源をつける。外回りの後だから、空調の効いた部屋の空気が心地よかった。
3 : ◆m03zzdT6fs – 2013/05/24 23:25:58.20 ib+tLkhwo 3/11
ちひろさんがいないので、仕事が結構溜まっている。早く終わらせないと、今日は残業になりそうだ。
と、立ち上げを待っている間、ふと気になったので訪ねてみる。
『それで、亜季は何をやっているんだ?』
「これでありますか? 大石殿からノートパソコンを譲り受けたので、前々から興味のあったゲームをしてみようかと思った次第であります!」
『へえ、珍しい。なんて名前のゲームだ?』
「”Hearts of Iron Ⅱ”という、RTS(リアルタイム戦略)でありますね」
『HoIⅡか、懐かしいな。昔は良くやったよ』
「そうなのでありますか?」
『ああ。その年の大学の単位が3しか取れなかったぐらいには、ね』
少し苦笑した。時間泥棒とは、よく言ったものである。気が付けば朝になっていることが、ざらにあったのを記憶していた。
4 : ◆m03zzdT6fs – 2013/05/24 23:27:46.38 ib+tLkhwo 4/11
『亜季はどの国で始めたんだ?』
「私はドイツであります! 初心者が慣れるのにちょうど良い、とWikiに書いてありましたので」
『おっ、ドイツか。俺もドイツは好きだぞ』
「プロデューサー殿もでありますか! やはり、武装親衛隊派でありますか?」
『いや、俺は国防軍派だな。エーリヒ・マンシュタインやハインツ・グデーリアンみたいな、実直なドイツ軍人が好みでね』
「”電撃戦”の生みの親たちですな!」
『ああ。ちなみに、”電撃戦”の定義については諸説あるそうだね』
「”電撃的に進撃し、機動力をもって敵を翻弄する”ではないのですか?」
亜季が少し小首を傾げ、そう聞いてくる。俺はちっちっち、と言った風に指を揺らす。
5 : ◆m03zzdT6fs – 2013/05/24 23:29:24.80 ib+tLkhwo 5/11
『そもそも、”電撃戦”という単語自体が、ドイツではなくイギリスで生まれたものだと言う説が濃厚だからな。大衆機関紙が大見出しで使ったのが初出とも、サー・バジル・リデル=ハートが提唱したのが初出とも言うね』
「あの”戦略論”を著した方ですね! カール・フォン・クラウゼヴィッツの”戦争論”と双璧を為す、西洋の軍学書と聞いています」
『そのリデル=ハートが言うには、”電撃戦とは、敵戦力の撃滅が目的ではなく、敵の指揮中枢を叩くことにより、あたかも電撃にあてられたかのように軍の指揮系統を麻痺させることが真髄である”そうだね』
「敵戦力の撃滅を主目的にするのではなく、その周囲の要素を排除して行くことで、目前の敵戦力の無力化を図る。いわゆる”間接アプローチ理論”でありますね!」
『戦時中の日本に対する、アメリカの石油禁輸政策が有名だね。それに対してクラウゼヴィッツは、戦争を政治目的を達する手段であるとして、その目的を達するためにはどうすればいいかを書いているから、”直接アプローチ理論”と呼ばれることもあるね』
俺はそういうと少し息を付き、ノートパソコンの画面を覗き込んだ。画面中央にはグレーの土地が広がっている。これがドイツだろう。
そこから画面の右へ目を向けると、隣には真っ赤な土地が続いている。国境線にはユニットのマークがずらりと並んでいた。
6 : ◆m03zzdT6fs – 2013/05/24 23:30:13.54 ib+tLkhwo 6/11
『これは今、戦争中? 国境線に兵力を集めてるけど』
「いえ、まだであります! ただ、近いうちにソヴィエトと戦うことになりそうでありますね……」
『ソヴィエトかー。俺も最初の頃にはソヴィエトに手を焼かされたなぁ』
「ともかく、歩兵が多いでありますね。先ほどスパイから報告が上がりましたが、歩兵師団が350個も存在するそうであります……」
『”ソヴィエトの兵士は畑から取れる”って揶揄されるぐらい、当時のソヴィエトの人的資源は潤沢だったからなぁ。ちなみに、二次大戦終結直後は500個師団ほど居たようだよ。あの国はおかしい』
「確か、1年で増加する人口の数が、隣国フィンランドの総人口と同じという話でありましたね」
『あとは、二次大戦で戦死した赤軍兵の数が1500万人以上にもかかわらず、大戦前に比べて微妙に人口が減った程度でしかなかった、とも聞くね』
「人海戦術とは恐ろしいものであります……」
『まあ、”まずは相手より多くの兵を用意せよ”は、兵法の常道だからね。それに、ソヴィエトはただの人海戦術じゃなくて、それをしっかりと戦闘教義化したのが大きいかな』
「ミハイル・トゥハチェフスキー元帥の”縦深戦術理論”でありますな!」
7 : ◆m03zzdT6fs – 2013/05/24 23:31:01.45 ib+tLkhwo 7/11
『全ての戦線で全軍を三つの悌団に分け、第一悌団は敵の防御陣地に穴を開け、第二悌団はすぐに突っ込むのではなくその穴を維持しつつ、他の戦線の穴が開くのを待ち、何箇所も穴が開けば第三悌団が、全ての戦線で同時にその穴に突入して崩壊させ、包囲する。聞くだけでも恐ろしいね。しかもその上、空挺部隊を敵の背後に降下させ、退路を断つとまで来た』
「ソヴィエトの国力と人的資源あってこその戦術でありますな……」
『20万人死んでも、30万人殺せばいい、って考えだからね。それどころか、人的資源の豊かさがあるから、多少被害が大きくても全体的に見れば大勝利。史実ドイツは本当によくやった方だと思う』
「どれほどの被害を受けても、ひたすらに進撃するところは、どこか電撃戦に通じるところを感じますね。電撃戦の場合は、敵の弱いところを縫うように衝くのでありますが」
『一次大戦後、再軍備と兵器開発が禁止されていたドイツは、ロシアの国内で秘密裏に戦車の開発や演習をする代わりに、プロイセン時代から受け継いでいる軍人としての知識を、赤軍将校に教育すると言う協定を結んでいたから、どこか似たところがあるのは当然かもしれないな。皮肉にも、それが後々自分たちを滅ぼすことになるけれどもね』
ひとしきり喋り終えると、ふと息をつく。気が付くと、少し眼を輝かせて亜季がこちらを見ている。
8 : ◆m03zzdT6fs – 2013/05/24 23:32:09.54 ib+tLkhwo 8/11
「それにしても、プロデューサー殿は良くご存知であります! お見それしたであります!」
『ああ、昔から歴史が好きだからね。古代中国から日本の戦国時代、近現代まで何でもござれ、だ』
「戦国時代もご存知となれば、丹羽殿が聞いたら喜んで飛んできそうでありますな」
『はは、違いない。機会があったら、あいつとも話してみるか。まあ……あいつの場合は深い話にはなりそうにもないけどね』
ははは、と少し笑うと時計を見る。そしてスケジュールと見比べる。
『おっ、亜季。そろそろレッスンの時間だぞ』
「あっ、もうそんな時間でありますか! では、この不肖大和亜季、レッスンへと出征するであります!」
『あはは、仰々しいな……。あ、そうだ。新しいセーブデータで少しやってもいいか?』
「大丈夫であります! ただ、レッスンの後は所用がありますので、そのままノートパソコンは事務所で預かっていただけると幸いでありますが……」
『ああ、わかった。俺のデスクにおいておくから、明日にでも取りにおいでよ』
「了解であります! では、行って参ります!」
『ああ、行ってらっしゃい』
少し苦笑しながら、敬礼をして事務所から出て行く彼女を見送る。そして、ノートパソコンを自分の前まで持ってくる。
そして、新しくゲームを選択すると、国旗を選ぶ。かちり、かちりというクリック音が響く。
『久しぶりにプレイするな、楽しみだ。ええと、1939年シナリオのベルギー、と……』
9 : ◆m03zzdT6fs – 2013/05/24 23:33:45.46 ib+tLkhwo 9/11
………………
…………
……
『やっぱり人的資源に泣かされるなぁ。まあ、連合軍の力を借りたとはいえ、東ヨーロッパを俺のものに出来たから十分か。そこまで腕が落ちてなくて良かったなぁ』
体を伸ばすと、ばきばき、と背骨がなった。ああ、俺も歳を取ったもんだ、と年寄り臭いことを考えると、ふと時計を見る。
時計の短針は、数字の11を指している。
『なんだ、まだ11時か。もう一回ぐらい出来るかな』
『……』
『……?』
『……ファッ!?』
もう一度見る。短針が11を指しているのは確定的に明らかだ。確認の為に携帯を取り出してみるが、非情なる”23:11”の表示。
『なんと言うことだ……。やべぇよ、やべぇよ……』
一切仕事に手を付けていないのに、もう11時だ。時間泥棒だと知っているはずなのに、なぜ俺はこのゲームをやろうと思ってしまったのだ。
完全に大学生時代の気分に戻っていたので、間もなく日付が変わろうとすることに、一瞬何の疑問も抱かなかった。
『ええい、ちょうどフェス用のエナドリチャージがあるんだ! 出来る出来る、俺なら出来る! どうしてそこで諦めるんだ! いいかァッ、俺は人間をやめるぞォォォォッ! Ураааа!!!』
共産主義の雄叫びをあげる。俺は立ち上がると、事務所の端にある小さな冷蔵庫へと突進した。
この際、何を言っても仕方がない。資本主義の豚にでも俺はなろう。同志書記長、お許しください。
俺は冷蔵庫の中から、エナドリチャージをひったくって、プルタブを開け、一気に飲み干す。
刹那、俺の中で何かが弾けた気がした。
10 : ◆m03zzdT6fs – 2013/05/24 23:34:30.39 ib+tLkhwo 10/11
………………
…………
……
翌朝、風邪が治ったちひろさんと、ノートパソコンを取りに来た亜季が事務所に出社したとき、俺は静かに燃え尽きていた。
ちひろさん曰く、デスクに突っ伏すようにして意識を失っていたらしい。何が起こったのか、自分でも何一つ記憶はない。
ただ、綺麗さっぱり終わった仕事と、空になったエナドリチャージの缶が数本。それと――。
なぜかルクセンブルクとアルバニアによって、世界が征服されている二つのHoIⅡのセーブデータが増えていたのは、ここだけの話。
11 : ◆m03zzdT6fs – 2013/05/24 23:36:21.26 ib+tLkhwo 11/11
以上で終わりです。
駄文のお目汚し失礼いたしました。
HTML化を依頼しておきます。
文章の腕を磨きたいですね。