【城ヶ崎美嘉SS】城ヶ崎美嘉「シルエット」

1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:40:50.14 ID:+YDspJHr0
【閲覧注意】
・モバマス
・美嘉メイン
・悲恋(死ネタあり)

OKならどうぞ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399966840

2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:42:18.01 ID:+YDspJHr0

テレビの上に飾られている、一台のフォトフレーム。
その中にいる、笑顔のアイドル。

それは、まだ駆け出しのころの城ヶ崎美嘉だった。

3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:43:15.11 ID:+YDspJHr0

モバP「あれ…美嘉、この写真って」

美嘉「ああ、懐かしいねその写真」

モバP「これって二年前のライヴの写真だよな? まだ俺がいなかった頃の」

美嘉「そーだね…あの頃はとにかく必死だったね」

モバP「少し話してくれないか? 当時の事とか」

美嘉「いいよ★ ちょっと長くなるけどね」

それは、失くした物語。
アイドル・城ヶ崎美嘉の原点だった。

4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:44:53.78 ID:+YDspJHr0

 カタカタと無機質な音が響く孤独な空間。時刻は午後九時を回った。
 アシスタントの千川ちひろは現在出張に出かけている。何の出張なのかは同僚のPも把握はしていない。
 だが信頼できる仲だ。きっといい土産を持って帰ってくるだろうとPは考えていた。

P「ふぅ…一区切りついたか」

 今日の分の仕事を終え、一つ大きな背伸びをする。

 次の瞬間―

5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:46:35.33 ID:+YDspJHr0

P「……ごふっ、げほっ、げほっ!」

 ぴちゃっ、ぴちゃっと滴り落ちる液体。
 それは紅い色を帯びていた。

 その時、事務所のドアを誰かが開けた。

美嘉「忘れ物しちゃったよ…って、プロデューサー!? 大丈夫?」

 美嘉が駆け寄ってきた。
 傍から見ればPが血を吐いているようにしか見えない。
 しかしアイドルを心配させるわけにはいかない。

6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:47:30.84 ID:+YDspJHr0

P「いやー参った参った。気管支にトマトジュースが入っちゃってさー」

美嘉「………へっ?」

P「思わず吹き出しちゃったよ。美嘉、ビックリしたろ?」

美嘉「もー! 小梅ちゃんみたいなことしないでよプロデューサー!」

P「たまには俺もイタズラしたくなるんだよ」ヘラヘラ

美嘉「まったく…アタシは忘れ物取りに来ただけだから帰るね?」

P「送っていくか?」

美嘉「大丈夫★ プロデューサーも早く帰りなよ?」

7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:48:49.76 ID:+YDspJHr0

 そうやって言い残し、アタシは事務所を出た。

 今でも思う。なぜ気づけなかったのか。プロデューサーの背中が小さく震えていたことに。いつもは大きく感じる背中が小さく見えていたことに。

 なぜ、止めることができなかったのだろうか。

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:50:06.88 ID:+YDspJHr0

 ここは診察室の一室。カチッ、カチッ、と時計の針の音が鮮明に聞える。
 気分はさながら、死刑宣告を待つ犯罪者の気分だ。

 やがて重苦しい空気を断ち切るように、医師が口を開いた。

医師「…状態は思わしくありませんな」

P「…何とかなりませんか?」

医師「ここまで病状が悪化してしまった以上、手術でも難しい。私どもでは手の施しようがありません」

P「…半年」

医師「ん?」

P「せめて半年あれば、アイツに残せるものがあるんです。何とか、生き延びられませんか?」

医師「…薬を投与しましょう。本来なら推奨されませんが、あなたは止めようとしても止まらない人だ」

9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:51:35.79 ID:+YDspJHr0

 今日は久々のオフ。
 アタシは買い物をするため郊外まで来ていた。
 莉嘉もついていきたいと言っていたが、あいにくレッスンが入っていたため無念のドロップアウト。アタシ一人で過ごすオフになる、はずだった。

美嘉「ふんふんふふーん★」

 買い物を終えて午前の予定は終了。
 特によりたい場所もなく、アタシは家に帰るつもりだった。

 そう思っていたとき、目の前の病院からプロデューサーが出てきた。

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:53:33.14 ID:+YDspJHr0

美嘉「プロデューサー! どうしたの病院だなんて」

P「美嘉か。実は不整脈の検査で来ていたんだ」

美嘉「ふせい、みゃく?」

P「以前に社内検査で引っかかっちゃってな。念のために病院に行けって言われてたんだよ」

美嘉「で…どうだったの?」

P「異常なし。ただのはかり違いだったんだろうな」ハハハ

美嘉「そっか★ もう、心配させないでよプロデューサー」

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:55:49.41 ID:+YDspJHr0

 今、俺は嘘をついた。
 真実を伝えないことが優しさだとは思わない。だが、今伝えたら美嘉は立ち止まってしまう。
 美嘉の足手まといにはなりたくない。美嘉の追憶の中に生きたくなんてない。
 このプロデュースが終わったら、身をどこかへ隠そう。
 そうすればきっといつか俺のことを忘れてくれるだろう。

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:56:58.12 ID:+YDspJHr0

 あの診察から半年が過ぎた。あれから病状は快方に向かい、吐血などの症状も嘘のように消え去っていた。
 美嘉はBランクアイドルに昇格。わずか半年でこの成果は手放しに喜んでいいだろう。

 そんなある日、ちひろさんが一つ提案をしてきた。

P「花火大会、ですか?」

ちひろ「そうです。近々この近辺であるみたいですよ。美嘉ちゃんと一緒に行ってきたらどうですか?」

P「そうですね…美嘉も喜ぶかな?」

13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:58:22.41 ID:+YDspJHr0

P「美嘉、一緒に花火大会に行かないか?」

美嘉「いいね★ 浴衣着てこうか?」

P「そうだな。とびっきりカワイイ美嘉を見せてくれよ?」

美嘉「いいの? プロデューサーがメロメロになっても知らないよ?」フフッ

P「もしそうなったら本望だな」

 そうして迎えた花火大会、当日。
 普段は人気の少ないこの河原沿いも、大勢の人で混雑している。
 アタシはプロデューサーの手を握りながら、屋台を見て回る。

 少し顔が赤くなっていたのはヒミツ。

14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 16:59:30.36 ID:+YDspJHr0

P「む、もうすぐ打ち上げ花火の時間だな」

美嘉「ホント? じゃあよく見えるところへ行こうよ★」

P「そうだな。隠れた名所を知っているからそこへ行こう」

 そう言ってプロデューサーはアタシの一歩前を歩いた。

 次の瞬間、プロデューサーの身体が崩れ落ちた。

 ドサッ、という音だけが残り、アタシは何が起こったのか理解することができなかった。

15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:02:35.22 ID:+YDspJHr0

美嘉「ちょっ…プロデューサー! 大丈夫!?」

 あわてて駆け寄る。様態を確認する。
 
 ごふっ、という音とともに口から血が流れ出してきた。
 ただ事じゃない。アタシは一瞬で悟った。

美嘉「救急車! 誰か救急車を呼んで!」

 ぐるぐると最悪のシナリオが頭を駆け巡る。

 そんな、嫌だ。プロデューサー。死んじゃいやだよ。

 目の前が真っ暗になるような錯覚を覚える。

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:03:56.86 ID:+YDspJHr0

 コツン、コツンと足音だけが聞こえる静かな空間。
 ほんの少し薬品のにおいが漂ってくる。
 
 あの後、プロデューサーは病院に搬送され、アタシも同行した。
 そして着いたやいなや集中治療室へ運ばれた。

 口からこぼれた、血。
 きっとあの時のも、血だったんだ。

 アタシを心配させまいと、ウソをついたんだ。

 そんなウソいらないよ。本当のこと、教えてほしかったよ。

数時間後、治療室の重苦しい扉が開いた。

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:05:17.11 ID:+YDspJHr0

美嘉「先生! プロデューサーは!?」

医師「………」

 お医者さんは、首を横に振った。

 アタシは、足元から崩れ落ちた。

 うそだ、うそだうそだうそだ。

 あのプロデューサーが、そんなのうそだ!

 アタシはそんなウソ信じない!

 アタシは、その場から逃げるように走り去った。

18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:06:44.13 ID:+YDspJHr0

美嘉「ぐすっ…ひっぐ…」

 気が付いたら、事務所まで走ってきていた。
 自然とアタシの足は、プロデューサーの机の方へ向かっていった。

 たくさんの思い出が詰まった、この机。
 いろんな思い出に思いを馳せる。

 はじめてのライヴのお祝い、フェスの惨敗、そしてリベンジマッチ…

 この机に残ったぬくもりが、アタシの記憶を呼び起こす。

ちひろ「……美嘉ちゃん」

 その時、ちひろさんが事務所に入ってきた。

19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:08:33.94 ID:+YDspJHr0

ちひろ「ねぇ、美嘉ちゃん…あなたに渡すものがあるの」

美嘉「えっ?」

 ちひろさんが取り出した1つの鍵。
 それはプロデューサーの机の1番下の引き出しの鍵。
 カチャカチャ、と回し何かを取り出した。

美嘉「これは…」

 1枚の、手紙だった。

20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:09:54.81 ID:+YDspJHr0

 美嘉へ。

 これを読んでいるということは、俺は何らかの理由でもう事務所にいないだろう。

 俺と美嘉が初めて出会った時のこと、覚えているか?
 あの時の美嘉はすごく自信家だった。だから、慢心しているのかとてっきり思っていたよ。

 だけど美嘉は努力家だった。とても頑張り屋で、健気で、純情な女の子だった。

 そんな美嘉だからこそ、俺もプロデュースしたくなったんだ。

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:12:27.35 ID:+YDspJHr0
 一つ謝罪させてほしい。俺は、美嘉に嘘をついた。

 俺の病状は、手術しても治る可能性はあった。
 しかし、手術をすれば現場を離れることになる。その上、手術は絶対信用できるものでもなかった。
 
 もちろん美嘉を信用していなかったわけじゃない。だが、二人で協力しなければならなかったのは事実だ。
 美嘉が今一番大事な時期だとわかっていたから、俺は手術する道は選べなかった。

22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:13:42.37 ID:+YDspJHr0

 俺は愚か者だった。幾程の時間をすり減らしたと自覚している。過ちも繰り返した。

 だけど、美嘉をプロデュースしていた時間は、なによりも鮮やかな時間だった。俺の人生の中で一番輝いていた時間だった。

 城ヶ崎美嘉という最高のアイドルをプロデュースできたことは、俺の人生の最大の誇りだ。

 これからも、俺の誇りであってくれ。

 Pより。

23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:16:06.11 ID:+YDspJHr0

美嘉「………ずるいよ」

美嘉「こんなの………こんなのってないよ…」

美嘉「なんで………っ」

美嘉「うわああああああああああああああ!!!」

 その日、アタシはむせび泣いた。

 人生で一番泣いた。

 痛みを、悲しみを、ぬくもりを、優しさを。すべて絞り出すように、泣いた。

24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:17:26.77 ID:+YDspJHr0

 翌日、プロデューサーはこの世を去った。
 享年24歳。あまりにも早すぎる他界。

 事務所のアイドルたちはみんな泣いていた。ちひろさんも、社長も…

 悲しみにくれることなく、アタシはレッスンに励んだ。
 トレーナーさんは心配してくれたけど、アタシに立ち止まる時間はない。

 あの人の誇りであるために。
 城ヶ崎美嘉はアイドルとして輝かなければならない。

 あの悲劇のプロデューサーが生きていた証を残すために。

25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:18:37.28 ID:+YDspJHr0

美嘉「…という昔話でした」

モバP「俺の先輩は、そんなすごい人だったんだな…」

美嘉「そだよ★ モバPさんももっと頑張らないとね」

モバP「…俺は少しでも、その人に追い付けているか?」

美嘉「ぜんぜん★ だってモバPさんイケてないもん」ケラケラ

モバP「全否定!?」

26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/13(火) 17:19:46.40 ID:+YDspJHr0

 テレビの上に飾られている、一台のフォトフレーム。
 その中にいる、笑顔のアイドル。

 寄り添うように、一人の男が隣にいた。
 もう重なることのない二つのシルエットが、そこにあった。

終。

27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/13(火) 17:35:01.45 ID:+YDspJHr0
タイトル…GRANRODEOのシルエット
姉ヶ崎は二番目に好きなアイドル

お粗末さまでした。

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