P「花売りの娘が来た」凛「来たよ」【渋谷凛SS】

1:2012/07/21(土) 19:53:53.19 :xddYoZBc0

P「よし、じゃあ行くか、凛」

凛「うん」

小鳥「行ってらっしゃ~い」

P「19時には戻りますんで」

小鳥「はーい」

凛「…」

\\\
車内、P運転中

凛「…ねぇ、プロデューサー」

P「ん?」

凛「プロデューサーって、音無さんと付き合っているの?」

P「ないない。
 って、何でそんなこと聞くんだ?」

2:2012/07/21(土) 19:54:45.12 :xddYoZBc0

凛(動揺はしてない…かな?)チラ

凛「事務所でいつもイチャイチャしてるし」

P「そう見えるのか。イチャついているつもりはないんだけどな。
 ちなみにそれは凛個人の感想? 他の娘もそう言ってる?」

凛「他の人には聞いたことないから、わかんない」

P「そうか。まあ付き合う云々は別として、音無さんとは765プロでずっと一緒にやってきた仲だからな。
 それなりに親しいと思うぞ」

凛「そっか」

凛(他人ごとみたい。なんかヤな感じ)

3:2012/07/21(土) 19:55:40.68 :xddYoZBc0

P「…」

P「凛はさ」

凛「なに?」

P「恋人とか欲しい?」

凛「恋人禁止じゃないの?」

P「うん、ダメ。
 それはそれとして、恋愛とかしてみたいとか思う?」

凛「そこで、『うん』って言ったら内申点下がりそうだね」

P「内申点って、現役高校生らしい表現だな。
 ちなみにアイドルやっていると、内申点に影響あるのか?」

凛「どうだろう?
 先生には『勉強を疎かにしないように』って言われたけど」

4:2012/07/21(土) 19:56:16.08 :xddYoZBc0

P「その意見には賛成だな。
 なんか話が脱線しまくってるけど、一度落ち着いて将来のこととか考えてみる良いタイミングかもな」

凛「ようやく軌道に乗り始めたばっかりだよ。
 将来のこととか考える以前に、仕事選んでる余裕もないと思うけど」

P「別に今全部を決めるわけじゃなくてさ。これからどういう事を考える必要があるのか、心構えだけしておく感じかな。
 そうしないと、選択しなきゃいけない時に前準備もなく決めなきゃいけなるだろうし、選択そのものに気付かない可能性だってある」

凛「そんなもんかな?」

P「というわけで、空いてるスケジュールで面談な」

凛「プロデューサーと?」

P「最初は俺と。さっきも言ったけど、今回は取りあえず心の準備をするだけだな。
 ホントに重要な時期になったら、親御さんも交えて。
 参考に先輩アイドルの話を聞くのもありだな」

凛「親はいいよ」

5:2012/07/21(土) 19:56:41.35 :xddYoZBc0

P「親御さんの了解はちゃんと取ってくれよ。
 言っておくけど、未成年のうちは親御さんに反対されたら事務所としてはその意見を尊重するからな」

凛「あれもダメこれもダメ。
 学校よりうるさいんだね」

P「学校よりずっと凛を大事にしている、って思ってくれると有難い」

凛「親よりうるさいのは?」

P「それは勿論、親御さんと同じくらいに大切に思っていて、親御さん以上に神経質だからだな」

凛(私が大切なのはどうして?
 って聞いたら、プロデューサー困るかな)

凛(…聞けないよね、そんなこと)

6:2012/07/21(土) 19:57:44.11 :xddYoZBc0

凛「プロデューサーって口が上手いよね」

P「そうであれば良いと思ってる」

凛「私が子供だから簡単に言い包められるってこと?」

P「俺なんかまだまだ半人前の若造だってこと。
 凛も仕事を続けていけばすぐにわかるよ」

凛「ふーん」

P「…」

凛「…」

P「そろそろ着くぞ。準備しとけ」

凛「うん、わかった」

P(…音無さんとイチャイチャね。さて、どうしたものか)

8:2012/07/21(土) 19:59:16.51 :xddYoZBc0

\\\
事務所

小鳥「お先に失礼しますね」

律子「お疲れ様でしたー」

P「お疲れ様ー」

バタン

律子「…」カタカタ

P「なぁ、律子。ちょっと相談があるんだが」

律子「二人きりになったのを見計らって声をかけられたのに全然トキメかないのが不思議ですね。
 というか、なんか嫌な予感がするんですけど」

P「正解かな。あんまり楽しい話じゃないと思う。
 言うまでもないと思うけど、オフレコでお願いな」

9:2012/07/21(土) 19:59:53.76 :xddYoZBc0

律子「はいはい。わかってますよ。
 手付金にコーヒーくらい奢ってもらえるんですか?」

P「了解。砂糖とミルクは?」

律子「んー。今日はアリアリで」

P「はいよ」

カチャカチャ、コト

P「でだ。
 俺と音無さんって、イチャイチャしてるように見える?」

律子「うわぁ」

P「御感想は?」

律子「コーヒーを口に含んでなくて良かったです」

P「ですよねー。噴飯ものの笑い話だよなー」

10:2012/07/21(土) 20:00:22.69 :xddYoZBc0

律子「逆です。まったく笑えませんね」

P「さようですか」

律子「事務所の娘に言われちゃったんですか」

P「どの娘かは詮索しない方向でお願いします」

律子「うーん。でもプロデューサーって、小鳥さん以外にも色んな娘とイチャイチャしてますよね。
 何で小鳥さん限定なんですか?」

P「律子から見ると、音無さんとの関係が特別目立つわけじゃないのか」

律子「イチャついてるのは否定しないんですね。
 いつか刺されますよ」

P「みんなと仲良くしようと意識しているのは確かだけど。
 それがイチャついてるように見えるなら、ちょっとマズいよなぁ」

11:2012/07/21(土) 20:00:52.11 :xddYoZBc0

律子「大したスケコマシですね。
 まあイチャついているように見えるというか、皆プロデューサーに対してのパーソナルスペースが狭いんですよね」

P「他人がいると不快になる距離だっけ?」ススス>>>

律子「そうやって、安易に距離を開けようだなんて思わないでくださいね。
 安心できる距離から遠ざかったりされたら、普通に傷つきますから」

P「肝に銘じておきます」<<<ススス 律子「よろしい。  …何の話でしたっけ」 P「俺と音無さんがイチャついているように見えるか、って話」 律子「間違いなく、距離は近いと思いますよ。  家族なみの近さを許してますよね、お互い」 P「まあ言われてみると、確かに余所の人といる時より近いかもしれない」 12:2012/07/21(土) 20:01:20.45 :xddYoZBc0 律子「事務所の他の娘に対してもその距離ですけどね。  だとすると、その娘が小鳥さん限定したのは、現役アイドルじゃないからですかね?」 P「それは俺も思った。  けど、それだったら律子も同じ条件だな」 律子「その辺は本人に聞いてください」 律子(まあ私は割りきってるからかな?) P「機会があったらな。  じゃあさ。律子から見て俺の距離って馴れ馴れしすぎると思うか?」 律子「ギリギリ慕われてる、という枠に収まっていると思いますよ。  肝心の小鳥さんに関しては…事務所の初期メンバーですからね。  気を許しているのはそのせいだって言って、納得してもらうしかないんじゃないですか」 P「それはもう伝えた」 律子「納得してもらえました?」 13:2012/07/21(土) 20:01:48.58 :xddYoZBc0 P「どうだろう?  こればっかりは本人の気持ち次第だからな」 律子「ハイハイ。モテるプロデューサーは辛いですね」 P「いや、そういう意味じゃなくてな。  なんて言うかな…」 P「…例えば、律子がアイドルやってた頃に、俺がプロデューサーだとしてさ。  当然、俺はお前に恋人作るの禁止だって言うわけだ。  そう言った本人が目の前で会社の同僚とイチャイチャしてるように見えたら、相手に恋愛感情なんてなくてもイラっとしないか?」 律子「ああ、そういうことですか。  確かに、理屈じゃなくてムカつきますね」 P「だろ。そういうのもあると思うんだよ」 律子(どうだか) 14:2012/07/21(土) 20:02:18.82 :xddYoZBc0 P「とはいえアイドルのご機嫌とるために他の人と距離を置くっていうのもなあ」 律子「小鳥さんなら協力してくれるんじゃないですか。大人ですし」 P「裏で話合わせるっていうのは、いずれバレるだろ。根本的解決にもなってないし」 律子「こういう問題だと、根本的解決は難しいと思いますけどね」 P「だよなぁ。納得してもらうしかないのか」 律子(…プロデューサーの担当の娘で、初期メンバーじゃなくて、色恋沙汰に反応する年頃。  それに加えて、プロデューサーがこういう話をしても大丈夫と思っている娘か) 律子「凛ですか」 P「…律子は事務所の娘を良く見てるなぁ」 15:2012/07/21(土) 20:02:47.64 :xddYoZBc0 律子「ヒントが多すぎましたね。  じゃあ、今回のお礼は『仕事を回してもらう』っていう形の方が良さそうですね」 P「OK。誰の分だ?」 律子「後で何種類かこっちの希望を出しますんで、何かいいのがあれば回してください」 P「了解。  今日はありがとな」 律子「どういたしまして」 P(話せばわかってくれるとは思うが…頭で理解できても、納得は難しいだろうな。  まあ急いで結論を出すことでもない。もう少し考えてみるか。  …それよりも、まずは『進路相談』か) 16:2012/07/21(土) 20:04:00.00 :xddYoZBc0 \\\ 事務所、会議室 P「…とまあ、こんなところかな」 凛「ふーん」 P「何度も繰り返すけど、今日のところは『こういう道もある』っていう程度の話だから」 凛「うん、参考にしておく。  大学進学とか、移籍とか、今はよくわかんないし」 P「とはいえ、いざって時に凛が望む途を選べるように、学業にも仕事にも全力を尽くして欲しいっていうのが本音だな」 凛「仕事だけじゃなくて、勉強も?」 P「学問を本気で修めたいと思うようになるかもしれないだろ」 凛「それはないと思うな」 17:2012/07/21(土) 20:04:29.02 :xddYoZBc0 P「人生何があるかわからないからな」 凛「そうだね、1年前まではアイドルになるなんて思ってもみなかった」フフッ P「だろ」 凛「…私生活は、学校も真面目にやった方が良いんだよね。  お仕事の方はどうすれば良いの?」 P「それも出来るだけ凛の希望に沿うようにしたいと思ってる。  今は色々経験してみて、そこから好きな方向を選んでいけば良いんじゃないかな」 凛「結構適当なんだね。  …プロデューサーはどういうのが向いてると思う?」 P「凛ならどの方面でもいけると思うぞ。  美人でスタイルも良いから、グラビアやCMで映えるだろうし。  歌ってる時の凛はすごく格好良いから、その面でアピールしても良い。  クールな雰囲気や立ち振る舞いとか、物怖じしない点なんかは役者としての武器になるな。  息の合った相方がいればバラエティだって務まるだろう」 18:2012/07/21(土) 20:04:58.20 :xddYoZBc0 凛「そ、そうかな?」テレ 凛(ちょっとこそばゆいかな。  …でも、私みたいな娘は一杯いるし。…お世辞だよね、きっと) 凛「でも、後半は無理してるよね」 P「無理なもんか。  確かに、どの方面だって今の凛じゃ経験不足のひよっこで、一筋縄ではいかないという点じゃ一緒だ。  けど、どの方向に進んだって、凛だったらトップアイドルになれる魅力がある。  だから凛が自分自身で、自分が一番輝けると感じられるものを選んで欲しいんだ」 凛「トップアイドルって…でも、私、愛想良くないし、歌だって、ダンスだってそんなに上手くないし」 P「凛は自分で思ってるほど無愛想じゃないぞ。  受け答えははっきりしてるし、気配りもできるからコミュニケーションに関して不安がない。  実際、他の娘たちとも年の上下に関係なくうまくやってるじゃないか。本当に無愛想だったらそうはならない」 19:2012/07/21(土) 20:05:26.41 :xddYoZBc0 P「それに『柔らかく微笑む』っていうのか? 笑った時の印象がすごく優しくて、そういう時の凛は一緒にいて穏やかで落ち着いた気分になる。  会話と気持ちのコントロール方法がわかって初対面の相手でもそういう自分を出せるようになれば、そっちの印象だって強くなるだろう。  その印象を普段の格好良さと合わせて見せられたら、それぞれの魅力が一層引き立つと思うな」 凛「…そうかな?」カァ P「そうだ」 凛(褒めてくれてるんだよね?  ダメだ。なんか、うまく考えられない) P「それに今言ったコントロール方法にしろ、今上手くできないものはレッスンで補う。  その上で、その時の凛の魅力を一番引き出す歌・ダンス・仕事なんかを持ってくるのが俺たちの仕事だ」 凛「…そこは、信頼してる」 P「ああ、任せてくれ」 20:2012/07/21(土) 20:05:54.60 :xddYoZBc0 P「…まあ、要するにだ。凛は魅力的な女の子で、色んな方面に磨きをかけるために今は色んなレッスンを受けてもらうし、仕事も手広くやってもらう。  その中で俺も将来の方向性は模索していく。  けど凛の方でも、自分が『楽しい』と思ったことや達成感を覚えたこととか、仕事を通じて感じたことを大切にして欲しいんだ。  そういう気持ちが将来を決める時にはとても重要なことだからな」 凛「…うん」 P「よし、頼むぞ」 P(やっぱりこの年頃だと、大人の『真剣』には耐性ないか。  まあでも、凛ならこの程度の褒め言葉で箍が外れることもないと思うが…) P「…よし、じゃあ『進路相談』は終わりだ。  これからも頑張っていこう」アクシュ 凛「あっ、うん、よろしくお願いします…」ニギニギ P「さて、次はレッスンだったな。  悪かったな、こんな時間からつき合わせて」 凛「…」フルフル 21:2012/07/21(土) 20:06:22.66 :xddYoZBc0 凛「その、参考になった、と思う。  ありがとう、プロデューサー」 P「ああ…レッスンには後で顔出すから」 凛「うん、行ってきます」タタッ バタン P「…さて」ピポパ P「…お疲れさまです。Pです。…ええ、会議室です。…お待ちしてます」ピッ 22:2012/07/21(土) 20:06:51.85 :xddYoZBc0 バタン 社長「おはよう」 P「おはようございます」 社長「早速だが、始めてくれたまえ」 P「はい。事前に御説明した通り、現状では手広くやって、そこから本人の選択に任せようと思っています。  どの方向でも基本的にクールさや、格好良さを押し出す形になると思います」 社長「ふむ。  ただどうだろう、選択するとは言っても一つの分野で突出た物をもっている感じではないと思うが?」 P「仰る通りです。オールラウンダータイプですね。  オーバーリアクションを求められるタイプのバラエティは苦手そうですが…最後までそれ以外で手広くやるのもアリだと思います。  ただどの分野とも経験が少なすぎますので、今後どこかに突出する可能性も無きにしも非ずですね」 社長「現状は多方面で進めるのが無難か。  ユニット活動ではどうかね」 23:2012/07/21(土) 20:07:30.91 :xddYoZBc0 P「ソロ、若しくはリーダー向きですね。はっきり言ってリーダーでなければ埋もれてしまう娘でしょう。  平だったらリーダーを立てるでしょうからユニットとしては上手くいくと思いますが、かなり勿体ないですね」 社長「『勿体ない』か。随分と入れ込んでるじゃないか、君ィ」ニヤ P「社長が『ティンときた!』逸材ですからね」ニヤリ P「ユニットに関しての続きですが、先ほどバラエティは難しいと言いましたが、相方さえいれば相方とセットで上手く回せる可能性はあると思います。  ただそうすると、バラエティ以外の方面で相手役の娘の個性が消される可能性もありますので、やはり今の時点ではその方面に集中させるべきではないでしょう。  それに、その面では『生すっか!?』などの765プロが内輪でやる番組を使って充分アピールできると思いますので、後から方向転換もできると思います」 社長「ふむ。そこは如月君や萩原君の時と同じ方針だね。良いと思うよ。  宣伝の方はどうかね?」 P「まだ本人に経験と実力はないので、宣伝に力を入れる時期ではないですね。  とにかく色んな現場を経験させて、関係者に顔を知ってもらうのが一番の宣伝だと思います」 社長「君がプロデュースしているというのも、それなりの宣伝効果があると思うがね。  実際、青田買いじみたオファーも来ているようだが?」 24:2012/07/21(土) 20:07:59.42 :xddYoZBc0 P「実際は冗談半分なのが殆どです。こっちが強く推せばあるいは通るかもしれませんが、今のところそれは考えてません。  たまにホントの青田買いもありますが、それは経験が偏ると思うので断っています。  今の段階ですとベテラン相手では色が付くし、ソロや安い芸人相手では得られるものが少なすぎます。  …あっ、勿論断るにしても先方にはニーズに合った他の娘を売り込んでいますよ」 社長「その点は『出し惜しみしている』とか『値を釣り上げている』と思われないように注意してくれたまえ。  ちなみに、CDデビューの時も宣伝は抑えるつもりかね?」 P「抑えるというか、Fランクアイドル相応のもので行こうと思っています。  ただ、興味を持ってくれた人については、こちらがアピールしたい面を印象付けたいですね。  ですので、検索サイトにお布施して、ヒットする動画や画像を誘導しようと思ってます。  今のところ考えている宣伝用素材がこれです」カチカチ 社長「ふむ」 社長(…しかし、この段階で指名付きのお布施とは…  トップアイドルも担当しているからか、少し金銭感覚がそちらよりになっているようだな) 25:2012/07/21(土) 20:08:27.82 :xddYoZBc0 社長「…ん? この動画は見覚えがないが…」 P「あっ、それは友人に協力してもらって、個人的に作ってもらったものですね」 社長「なるほど。これは良いねぇ、君」ホッコリ P「ありがとうございます」ヨシッ 社長(友人とはいえ、ここまでのものを無償というわけにはいくまい。  自腹か、あるいは割をくった娘がいるのかもしれん) 社長「本人のやる気は? 続けられそうかね」 P「そこはこちら次第だと思ってます。やっぱり最初からアイドル志望の娘よりは注意が必要ですね。  始めのうちは、真面目にやればクライアントにきちんと評価されるタイプの仕事を中心にやっていこうと思ってます。  そうじゃないものは徐々に慣らしていって、仕事にやりがいを覚えてもらうしかありませんね」 社長「ふむ。ただ残酷なようだが、『努力すれば報われる』世界ではない。  真面目な娘はその点で躓くこともあるだろう」 26:2012/07/21(土) 20:08:56.63 :xddYoZBc0 P「場数さえ踏めば、それで腐るような娘ではないと思います。  真面目なだけじゃなくて、結構勝負事に熱くなるところもありますし。見た目よりは根性ありますよ」 社長「そうかね」 P(…社長が見つけてきた娘だから、その点は心配してないんだけどな) 社長(…そこは彼が担当しているなら問題ないか) 社長「では、止め時はどうかね」 P「本人はそこまで考えてないようですね。本人の希望さえあれば、20代までは問題なくウチの第一線でやれるでしょう。  実家も家業がありますので、リタイア時の就職の心配もそれほどしなくて良いと思います。  そうじゃなくても真面目で、アイドルであることを鼻にかけることのない娘ですから、普通に就職だってできるんじゃないでしょうか。  その点は全然心配いらいないと思います」 社長「ふむ。止め時を逃してA V女優だなんて結末はちょっとアレだからねぇ」 P「俺は歌って踊れるA Vアイドルってアリだと思いますけどね。  ウチの娘がそうなるのは嫌ですけど」 27:2012/07/21(土) 20:09:24.20 :xddYoZBc0 社長「いずれにせよ、ウチの領分ではないな」 P「そうですね」 社長「…ふむ。そんなところか」 社長(…プロデュース業に専念させるあまり、ビジネス的な視点が疎かになっているようだ。  そこは経営者が判断する領分とはいえ、少し箍が外れているようにも思う。  そろそろ我が社もプロジェクト予算制を導入して、彼に予算管理もさせるべきだろうか?) 社長(…しかし、彼はまだ金勘定に躍起になるには若い。  それに、今はプロデュース業が一番面白い時期だろう。これだけの熱意に水を差すのも野暮だ) 社長(…幸い、今は事務所の経営も安定している。  ある程度なら、割に合わない出費も許容できるか…) 28:2012/07/21(土) 20:09:52.50 :xddYoZBc0 社長「…よろしい。渋谷君の件に関しては了解した。君の思うように進めてくれたまえ」 P「はい。ありがとうございます」 社長「今回も期待しているよ、君ィ」 P「ご期待に添えるように頑張ります」ペコリ 社長(予算管理か…一度、音無君と相談するべきだろうな。  自転車操業から脱却できたと喜ぶべきなのだろうが…ふむ、悩ましいな)ブツブツ バタン P「ふう、凛の進路相談のつもりが、俺自身の考えをまとめる良い機会だったな」 P(社長の了解ももらえたし、ある程度方針も決まった。  これからはもっと気を引き締めていかなきゃな) バタン、スタスタ 29:2012/07/21(土) 20:10:20.34 :xddYoZBc0 小鳥「───だから、絶対黒ですって」 律子「また、小鳥さんはー」 スタスタ 小鳥「…あ、プロデューサーさん。  ちょっと聞いても良いですか」ニンマリ P「ん、なんでしょう?」 小鳥「さっき凛ちゃんが会議室から出てきた時、完全にのぼせ上がってたんですけど、プロデューサーさん、会議室で何してたんですか?」ニコニコ P「ああ、褒め殺しましたからね」 小鳥「あれ? 褒め殺しパターンですか。珍しいですね」 律子「褒め殺しパターンってなんですか?」 P「別に厳密にパターン分けしてるわけじゃないけどな。  場合によっては、そういう対応をすることもあるってだけの話」 30:2012/07/21(土) 20:10:48.35 :xddYoZBc0 律子「後学までに、どんな条件ならそうなるんですか?」 P「凛は、ほら、社長がスカウトしてきた娘じゃないか。もともとアイドル志望だったわけじゃない。  それなのに最初はキツいレッスンばっかりだし、低ランクの時の仕事ではモブ扱いもされる。  スカウトされたのに全然スポットライトが当たらないんじゃ、どうしたってやる気はおきないだろう?」 律子「最近は765プロ所属だと大分色眼鏡で見てもらえると思いますけど」 小鳥「売り手としてはそうかもしれませんけど、業者さん相手では未だ不安定な零細扱いなんですけどね」ピヨヨヨ P「アイドルに全く興味のない人だって一定数はいますしね。  そういったことを覚悟してる娘なら、今が下積み期間で扱いが悪いってことをわかってくれるだろうけど、凛はそうじゃない。  モチベーションアップのためには、『トップアイドルを目指して、一緒に頑張ろう』だけじゃ足りないんだ。  それ以前に、『お前にはトップアイドルになれる魅力がある』っていうこちらの期待とか熱意をしっかり伝えておこうと思ってな」 律子「そのための褒め殺しですか」 P「褒め殺しと言うには、現状肯定が少ないけどな。  むしろ、『お前はやればできる娘なんだ』ってヤツかな」 31:2012/07/21(土) 20:11:16.34 :xddYoZBc0 律子「ふーん。  スカウトした娘みんなにそんなこと言ってるんですか?」 P「まさか。『場合によっては』って言っただろう。  凛の場合、モチベーションを上げるためにはこっちの本気を汲んでもらうのが一番だと思ったんだよ。  具体的な目標を掲げた方が良い娘もいるし、こっちが何も言わなくてもその気になってくれる娘もいる。低ランクの仕事を楽しんでやっくてれる娘だっているさ。  その辺はケースバイケースだな」 律子「モチベーション維持のため、ですか。  正直、凛はそこまで尻を叩かなくても真面目にやってくれると思いますけど」 P「『お仕事だから真面目にやる』じゃダメなんだ。  それ以上を期待してるってことを伝えて、トップアイドルを目指すやる気を持ってもらいたいんだよ」 律子(今の時点で、ホントにトップまで行けると考えてるの?  随分入れ込んでいるというか、どうしてそこまで確信が持てるのかしら…) 小鳥「なるほど、『褒め殺す』がプロデューサーさんの凛ちゃん攻略テクニックなんですね」 律子「アイドルを攻略してどうするんですか。  けど、確かにそんなに『特別視』していることをアピールしたら、口説いているのと変わらないですね」 32:2012/07/21(土) 20:11:44.63 :xddYoZBc0 P「実際、褒めて褒めて『トップアイドルになってくれ』ってお願いしてるんだから、口説いてる以外の何ものでもないな」 小鳥「大の大人が年端もいかない娘の魅力を真剣に褒めて、恋人作りは禁止して、なおかつ一緒にいる時間も長んですよね。  これはもう、惚れちゃいますね!」 律子「口説く方が上司で、『仕事が出来る』っていうのもポイント高いですね」 P「茶菓すなよ。ちなみに、普段から褒めてるわけじゃないぞ。むしろ厳しめだと思う」 小鳥「アメとムチ!893的な女の落し方ですね!」 P「そんな単純なもんじゃないでしょう」 律子「でもやっぱり真剣に口説かれたら嬉しいですよ。  自分を好きになってくれる人に好意を抱くって、自然なことじゃないですか」ニンマリ 小鳥「ただし、イケメンに限る!」キリッ P(また音無さんは…)ハァ 律子(また小鳥さんは…)ハァ 小鳥(あれー?)ピヨー 33:2012/07/21(土) 20:12:14.48 :xddYoZBc0 P「けど、これまでそんな心配したことなんてないよな?  俺、結構みんなを褒めてきたつもりだけど」 律子「今までの娘は『褒め殺しパターン』なんて使ってなかったじゃないですか。  基本的にみんなアイドル志望だったし、本人が自分の『可愛い』らしさを充分に自覚してましたしね」 P「例外は千早の歌以外は『まあ、どうでもいいですが』と、やよいの天心爛漫さか。  雪歩はどうだ?」 律子「雪歩はアレで結構自分の器量の良さを自覚してたし、自信持ってましたよ。  『引っ込み思案さえ直せばアイドルとして通用する』って、雪歩の性格で無意識に思えるくらいに褒められ慣れてたみたいですし」 小鳥「顔を『ひんそー』だっていうと、Bad Communicationですものね!」箱マス知識ドヤァ P(また音無さんは…)ハァ 律子(また小鳥さんは…)ハァ 小鳥(あれー?)ピヨー 34:2012/07/21(土) 20:12:42.56 :xddYoZBc0 P「そんなに好いた惚れたなんかが心配なら、俺の個人的な意見と思われないように、同じプロデューサーである律子からも褒めてやって欲しいんだけど」 律子「自分が担当する娘を差し置いてですか?  無理に決まってるじゃないですか」 P「ストレートに褒めなくても、その娘たちの『ライバル』として見るのはありだろ?」 律子「それは勿論。今だってそういう目で見てますよ。  ただ竜宮みたいなホントのトップアイドルと比較しても嘘くさくなりますし、どうしても『同期内』でのライバル意識になりますね。  それに加えて私が担当してる娘は『褒め殺しパターン』じゃないですから、あんまり実績もないうちに持ち上げたくないんですよね。  だから申し訳ないですけど、プロデューサーの要望にはちょっと応えかねます」 P「そっか。残念だな」 小鳥「私や社長じゃダメなんですか?」 P「今の時期はメディアへの露出が少ないですし、音無さんだと現場から遠すぎてどうしても『真剣』だと思ってくれないんですよね。俺が言わせたと思われるのもマズいですし。  けど、社長に言ってもらうって案は良いですね。スカウトしてきた本人ですし、俺なんかが言うより説得力あるかも」 35:2012/07/21(土) 20:13:10.92 :xddYoZBc0 律子「なんだかんだ言って、プロデューサー自身結構気を遣ってるんですね」 P「そりゃあまあ、大切なアイドルだからな」 小鳥「そういうこと簡単に言えちゃうなんて、やっぱりプロデューサーさんにとってプロデュース業は天職ですね」ニコニコ P「そうだと良いんですけどね」 時計ジホウデスヨー P「おっと、もうこんな時間か。  じゃあ、俺はちょっとレッスン見てきますんで」 小鳥「褒めるのは良いですけど、本気になっちゃだめですよ」 P「はいはい」 小鳥「いってらっしゃ~い」 P「はい。行ってきます」 バタン 36:2012/07/21(土) 20:13:40.06 :xddYoZBc0 小鳥「…ね、黒だったでしょ?」 律子「凛本人に確認しないことには。…まあ、限りなく黒に近いグレーですね」 小鳥「うーん。最近、プロデューサーさんが凛ちゃんに付きっきりだし、確認は難しいかしら」 律子「そうなんですか?」 小鳥「よっぽど凛ちゃんに期待してるんでしょうね」 律子「確かに入れ込んでるみたいですね」 小鳥「逆にプロデューサーさんの方が惚れちゃったりして」キャー 律子「んー、それは無いと思いますよ」 小鳥「あれ、断言しましたね」 律子「以前プロデューサーがアイドルをどんな目で見てるのか、聞いたことがあるんですよ」 小鳥「それでそれで」wktk 37:2012/07/21(土) 20:14:08.87 :xddYoZBc0 律子「私も同意見なんですけど、アイドルは『ムスメ』みたいなものなんですよね。  自分がプロデュースする娘は『世界で一番魅力的なウチの娘』なんです。  で、世間に対しては『ウチの娘は可愛いでしょ?』っていう親バカ気分な訳です」 小鳥「つまり恋愛対象にならない?」 律子「なり難いでしょうね。  それにプロデューサーはアレで結構亭主関白なところがありますから、パートナーが不特定多数の目に晒されるのとか気に食わないみたいですよ」 小鳥「随分プロデューサーさんのこと詳しいんですね」ニマニマ 律子「役職としてはライバルですし、二人で飲んでる時に隙を探るような感じでそういう話になったんですよね。  それで、お互いにそういう面に関しては『コイツは無いなー』って空気になりました」 小鳥「ありゃりゃ。勿体ない。  その時の話をもう少しくわしく…」 律子「脱線しましたね。  まあつまるところ、プロデューサーが凛に手を出すことは無いと思います」 38:2012/07/21(土) 20:14:37.55 :xddYoZBc0 小鳥「そうかなあ。凛ちゃんがメジャーになってない今は亭主関白的に結構危ないんじゃないかしら。  ほら、今月もこんなに一緒にいるし」カチカチ 律子「さっき『付きっきり』って言ってたヤツですか。  うわ、駆け出しなのに随分シッカリ詰め込んでますね」 小鳥「そうなんですよ。初めは皆レッスン主体なのに、レッスンがない時はしっかり営業取ってきて。  これでバーター取引は殆ど無いのが流石ですよね」 律子「そりゃすごい」 律子(?…あれ?ちょっと待て、このレッスンスケジュール…!) 律子「っ!」カチカチ 小鳥「へ? 律子さん?」 律子(やっぱり! 杏や幸子みたいなサボリがちな娘と被せてきてる。  なしくずしにマンツーマンレッスンにもっていっているんだ。  他の娘と差別しないように見せかけて優遇してるのか!セコイ!案外セコイなアイツ!) 39:2012/07/21(土) 20:15:05.70 :xddYoZBc0 律子(…いや、別に悪いことじゃない。そういう方法に気付かなかった私が悪い。  あっ、合間合間に夕美や奈緒なんか仲の良い娘たちとも合わせてる。じゃあこっちの組み合わせは習熟度を考えて…いや待て焦るな。深読みはよくないわ) 律子「けど、無駄に時間をかけてスケジュール組んでたわけじゃないんだ。  何が『スケジュール管理は苦手だ』あのムッツリスケコマシめ…」ギリギリ 小鳥「あの~、律子さ~ん」 律子(だとすると、今度の新旧メンバーの合同レッスンにも個人的な思惑があるのかしら?  簡単に流すんじゃなかった。なんとか私の娘が割をくわないようにしないと…)ブツブツ 小鳥「う~ん。なんだかわからないですけど、ご愁傷様です、プロデューサーさん」 40:2012/07/21(土) 20:15:34.55 :xddYoZBc0 \\\ レッスン場 トレーナー「はい、注目!  じゃあ今から6曲、それぞれ1コーラスだけ流すから通してみて。  1曲終わったら、ベテラン組は時計回りに隣の組に移動。5分間隔だから結構きついわよ!」 全員「「はい!」」 トレーナー(とはいえ、このレッスンは何の意味があるんだ?  プロデューサーはレクリエーション感覚で良いと言っているが…まあ仕事だから否やはないが…) 律子(ベテラン2人に対して新人1人の即席ユニット。しかも新人がセンターか…  『将来的に一緒にやることになるから、今のうちに慣れさせる』って、別におかしなことは言ってないけど。  ホント、どんな目的があるのかしら?) 美希「ハニー! ミキのこと見ててね!」ノシ トレーナー「ほら、星井美希!よそ見しない!」 美希「はーい」 P「やれやれ」ニガワライ 41:2012/07/21(土) 20:16:02.23 :xddYoZBc0 律子(美希が気を抜いてる? 確かに直接ステージやオーディションに関係する練習じゃないけど…  プロデューサーもそれを許してるし…ホントに深い意味はないのかしら?) 凛(先輩たちと一緒か…やっぱり緊張するな) 凛「よろしくお願いします」 春香「うん。頑張ろうね」 千早「よろしく」 凛(始めは天海さんと如月さんと一緒か…) トレーナー「はい。じゃあ、始め!」 凛(よし、頑張ろ) 42:2012/07/21(土) 20:16:30.88 :xddYoZBc0 ♪もおと遠くへ泳いで~みたい~♪ 千早「───、──♪」 凛(! 声が、消される!) 春香「♪ずっと人魚になあってい~たいの♪」 凛(えっ!?なんで天海さんの声は聞こえるの!?) 千早・春香(!) 凛(あ、二人とも抑えてくれてる。ダメだ、私足引っ張ってる。調子上げなきゃ) 春香「大丈夫、凛ちゃんのペースでいいから」ボソ 凛(えっ) 春香「♪」ウィンク 凛「…」コク 43:2012/07/21(土) 20:16:59.88 :xddYoZBc0 P(…ふむ) 千早(…? プロデューサー?) ♪~未来が~はあじまる♪ P(…やっぱり…) 千早「…」ムス 凛(全然ダメだった…。如月さん、怒ってる…) 春香「え、えっとね。ほら、私持ち歌だからでしゃばりすぎちゃったかな~なんて」 トレーナー「反省会は後だ!ほら、次に行くぞ!」 千早「…」スタスタ 春香「は、はい!」 44:2012/07/21(土) 20:17:28.78 :xddYoZBc0 やよい「よろしくお願いしまーす!」 伊織「よろしく頼むわね」 凛「あ、はい。お願いします」 凛(…今度こそ。二人とも、私より年下だし…) ♪ごまえ~ごまえ~♪ やよい「♪♪」 凛(えっ、えっ? ここでそんなに跳ぶの!?  あっ、ダメ、引きずられる!) 伊織(セーブして周りに合わせるレッスンなのかしら?) 伊織「…」チラッ やよい(伊織ちゃん? えっと、こんな感じ?) 凛(あっ、合った) 45:2012/07/21(土) 20:17:58.47 :xddYoZBc0 P(…なるほど) 伊織(っ! あいつ!) やよい(? あれ?プロデューサー?) ♪~わたしになり~た~い~♪ 凛(フロントにいるのに、リードできなかった。ダメだ、私…) やよい「あ、あの、私…」 伊織「はいはい。次行くわよ、やよい」 やよい「でも伊織ちゃん、私…」 伊織「大丈夫だから」 凛「あっ、行っちゃた…」 凛(…次こそ、頑張らなきゃ) 46:2012/07/21(土) 20:18:26.36 :xddYoZBc0 ♪とかちつくちて♪ 凛(ダメ、両方に合わせられない!) ♪コッスモスコスコス♪ 凛(えっ、ここでダンスアピール!?あれ?私は?あっ遅れる!) ♪じゃあねなんて言わない~で~♪ 凛(ムリ!バックからこんなプレッシャーなんてムリ!) ♪もお伏目が~ちな~昨日なんてい~らない♪ 凛(歌もダンスもそんな器用に切り替えられないってば!同時になんて無理!) 47:2012/07/21(土) 20:18:54.37 :xddYoZBc0 P(…なるほど)フムフム 春香(千早ちゃん!抑えてー!抑えてー!) 伊織(やよい!しゃんとしなさいよ!) 亜美(真美~機嫌なおしてってば~) 真(ほら雪歩!頑張って!) あずさ(あらあら、美希ちゃんったら) 貴音(響!そのような言い方は!) トレーナー(…阿鼻叫喚だな)ハア 律子(あっちゃー。今回はベテラン組の方だったか。  新人組では変な自信つけちゃってる娘もいるし…)ハア 48:2012/07/21(土) 20:19:22.72 :xddYoZBc0 ♪~耐え~られま~す~強いから~♪ トレーナー「…はい!じゃあ15分休憩!  その後は2巡目だ!」 ザワザワ… 凛「…」ハァハァ 凛(…全然、ダメだった)シュン P(…少し考えを整理するか)ブツブツ 凛(…プロデューサーは…あ、行っちゃった…) トレーナー「なあ律子、ちょっとこれは困るんだが…」ボソボソ 律子「すみません、私から叱っておきますので」ボソボソ 49:2012/07/21(土) 20:19:51.29 :xddYoZBc0 トレーナー「頼む。  …けど、プロデューサーでもこういうことがあるんだな。  不謹慎だが、ちょっと安心した」クスクス 律子「実際はこんなのばっかりですよ」ハァ トレーナー「はは、それは大変だ」 律子「まったく。あの人は!」 50:2012/07/21(土) 20:20:19.86 :xddYoZBc0 \\\ 休憩所 P(…うん。やっぱりだ。  凛は今時の『普通の女の子』なんだ)   P(千早やあずささんのような歌唱力はない。  響、真のような躍動感もない。  やよい、亜美、真美のようなエネルギーもない。  雪歩、伊織のようなキャラクターもない。  美希、貴音のようなパーフェクトプレイヤーでもない) P(けど、当たり前のように中心にいる。  『普通の女の子』だけど、中心的なアイドル。  『正統派・キュート』な天海春香に対しての、『今時』の…いや『ニュージェネレーション・クール』なアイドル) P(この娘は、きっと春香と並んで時代を引っ張っていける娘なんだ。  それを、その二人を俺がプロデュースしている。  …これはスゴいチャンスだ)グッ 51:2012/07/21(土) 20:20:48.59 :xddYoZBc0 P(やっぱり、社長は…) 美希「ハニー」グイ P「うわっ! な、なんだ美希か。どうしたいきなり」アセアセ P(珍しいな、美希がこんなに静かなのは) 美希「ミキね、ハニーは凛をエコヒイキしすぎだなって思うの」 P「は?」 美希「…」グス P「待て待て待て!  何でそうなる。何で泣く。とにかく、顔拭いて!」 美希「う~、バカ、ハニーのバカ!」グスグス P「ちょっと、どうしたんだよ、美希」 52:2012/07/21(土) 20:21:16.71 :xddYoZBc0 伊織「そりゃあ、あんだけ露骨に値踏みされれば腹も立つわよ」 P「伊織! 値踏みって、何だそりゃ?」 伊織「さっきずっとやってたじゃない。  私たちを物差し代わりに使って。ホント腹が立つわね」 春香「千早ちゃんがへそを曲げてます」 亜美「真美がすねちゃったYO」 真「雪歩が埋まってます」 あずさ「美希ちゃん、泣かせちゃいましたね」 貴音「響が癇癪をおこしております」 伊織「やよいはしょげかえってるわ」 P「…なんだ、お前ら揃って。  それが俺のせいだって?」 あずさ「はい」ニコニコ# P「う…」タジタジ 53:2012/07/21(土) 20:21:45.99 :xddYoZBc0 律子「はいはい。後は私がやっておくから、あなた達も休んでなさい。  後半はシッカリやってよ」 亜美「りっちゃん、ギルティだよ!」 真「執行猶予なしでね」 P「…情状酌量の余地は?」 貴音「ありません」ツン 伊織「少しは反省しなさい!」プンスカ 春香「…」ベー! 美希「ハニーのバーカ、バーカ!」グス …ゾロゾロ 54:2012/07/21(土) 20:22:14.74 :xddYoZBc0 P「どうしてこうなった」ハア 律子「今回は手段が悪かったですね」 P「手段って、やっぱお見通しか?」 律子「気付いたのはついさっきですけど…  凛の将来性とか、マッチするタイプとか、ホントにトップアイドルになる素質があるのかとか。  その辺を見極めるために、トップアイドルと見比べたかったんですよね?」 P「正解。…ベテランの娘たちは見比べられるのなんて慣れてると思ったんだけどな」 律子「慣れてるって、何言ってんですか」 P「?」キョトン 律子「はぁ…まあ、そこは実際にステージに立った経験がないとわからないかもしれませんね。  ステージに立つと、観客からの視線って不思議とわかるものなんですよ」 P「だから、慣れてるんだろう?」 55:2012/07/21(土) 20:22:44.22 :xddYoZBc0 律子「そりゃあ『自分が惹き付けた視線』とか、レッスンの時の『全体の完成度をチェックする視線』とか、『粗探しをする視線』なんかには慣れてますよ。後、『他の娘に持ってかれた視線』なんかもわかりますね。  けど、伊織が言ってたじゃないですか。今日のプロデューサーの視線は『凛を測るために、あの娘達を物差しに使った』って」 P「…ごめん。違いが良くわかんないんだが。  いつものレッスンと今日は何が違うんだ?」 律子「いつものレッスンだと、『全体の完成度を上げるために見てるんだ』ってわかるんですよ。  だから見せ場で注目されてなくても、文句はないんです。  けど、今日はそんな事関係なく凛を中心に見てたじゃないですか」 P「…こう言ってしまうとアレだが…要はヤキモチってことか?」 律子「全然違います。認識が甘すぎます。そんな可愛いモノじゃないです。  いいですか、ステージではみんな視線を奪い合ってるんですよ。そのアピールを無視されて、パフォーマンスの完成度も無視して、あまつさえ自分を見る時は凛と比較するための基準としてだけ利用されたんです。  あの娘たちはトップアイドルですよ。トップアイドルのプライドがあるんです。あんな目で見られたら怒るのも当たり前ですよ!」 P「………ひょっとして。俺、相当マズいことしてた?」 律子「ちょっと有り得ないくらいマズいことやってましたね」 P「…そっかー」ガクゼン 56:2012/07/21(土) 20:23:12.30 :xddYoZBc0 P(…凛のことに夢中になって、周りが見えなくなって…  駆け出しのプロデューサーでもないのに、何やってんだ俺は…)ガックシ 律子(…今回のことは私にとっても良い教訓ね。  アイドル候補生が2期、3期と続けば、いつ起こってもおかしくない事だった。  …トップアイドルが下り坂に入った時だって関係してくるかもしれない) 律子「…そういう訳ですから、後半からは注意して下さいね」 P(『俺なんかまだまだ半人前』  自分で言った通りになっちゃたな)ハァ P「…後半の内容、少し変えてくか」 律子「は?」 P「つまりだな。───っていうのはどうだ?」 57:2012/07/21(土) 20:23:40.56 :xddYoZBc0 \\\ レッスン場 P「新人、集まれ」 トレーナー「ベテラン組、集合!」 ザワザワ トレーナー「後半は、大人数のユニットをやる。  まずお前たちが手本を見せて、その次はまた新人達と合同でやってみる」 千早「曲は?」 トレーナー「1回目は『READY!!』だ。2回目以降は1回目の結果次第だな」 千早「わかりました」ピリピリ 響「うーっ」イライラ 58:2012/07/21(土) 20:24:09.05 :xddYoZBc0 春香(う~ん。空気悪いなぁ) 真美(兄ちゃん…またあの娘と一緒にいる)チラ 貴音(…あなた様?…あぁ、なるほど)チラ 貴音「皆、提案があります」 亜美「どしたの、お姫ちん?」 貴音「………格の違いを、教えてあげましょう」 春香「え゛? 四条さん?」 59:2012/07/21(土) 20:24:37.32 :xddYoZBc0 亜美「うわぁ、お姫ちん燃え燃えだね!」 千早「…乗ったわ」 美希「ハニーに見せつけてやるの!」 響「自分も乗った。目にものみせてやるぞ!」 伊織「…そうね。やってやろうじゃないの」 真「…ボクもこのままっていうのは、ちょっと面白くないな」 亜美「亜美はもちろんサンセ→だYO」 真美「…真美もサンセー」 やよい「えっ? えっ?」 あずさ「やよいちゃん、みんなでプロデューサーさんをビックリさせるくらい頑張りましょう、っていうことよ」 60:2012/07/21(土) 20:25:05.62 :xddYoZBc0 やよい(…そしたら、プロデューサー、またステージ見て喜んでくれるかな?) やよい「わかりましたっ!私、頑張ります!」 あずさ「ふふ、やよいちゃんは良い子ね」 春香(ああ、成程。…となると)チラッ 雪歩(私なんてひんそーでひんにゅーでちんちくりんでダメダメでプロデューサーはきっと愛想尽かしちゃってこんなダメな私はもう穴掘って埋まってますぅ)ブツブツ 春香「じゃあ、出だしは雪歩と私で一緒にいこうか?」 雪歩「ふぇ?」 真「良いね」 伊織「良いんじゃない」 貴音「よろしいかと」 美希「ミキは良いと思うな」 61:2012/07/21(土) 20:25:34.34 :xddYoZBc0 雪歩(…そっか、私は皆の足引っ張っちゃうから春香ちゃんにフォローしてもらって隅っこの方で目立たないようにしてれば邪魔にならないからううんいっそのこと穴掘って埋まってれば…)ブツブツ 春香「雪歩、いこ」 雪歩「はぃ」 春香(うーん、律子さんもフォローしてくれたみたいだし、プロデューサーさんなら気付いてくれるかな?) \\\ 凛「あっ、プロデューサー」 P「よっ」 凛(…合わす顔がないよ。…失望されちゃったかな) P「ほら、顔上げろ。ちゃんと見ておけよ」 凛「え?」 62:2012/07/21(土) 20:26:05.10 :xddYoZBc0 P「特に春香だ。春香に目を奪われた瞬間をしっかり覚えとけ」 凛「え?…あ、はい」 P(…あれは…貴音か。スゴいな、一言でまとめ上げちまった。  後は雪歩か。…皆気付いてるか。じゃあ大丈夫だな) トレーナー「はい!じゃあ始めるよ!」 ♪あーゆREADY~♪ 春香「♪」ニコ 凛(えっ!)ブル 63:2012/07/21(土) 20:26:33.29 :xddYoZBc0 ♪あいむLead~♪ 雪歩(ほら、みんな春香ちゃんの方見てる。やっぱり私がアイドルになりたいなんておもいあがり…) 雪歩(…あれ?見られてる)バッ 雪歩(プロデューサー、見てる!  あっ、頷いた! 『雪歩、大丈夫だよ』って、プロデューサーが応援してくれてる!)パァァ 雪歩「♪絶ったい私No.1!」 春香(あっ、雪歩のスイッチ入った。  うぅ、私を食わないでね!合わせてね!合わせてね!雪歩!) 美希(雪歩はチョロいの) 美希「♪スタート始まるきょおのステージ♪」 美希(ハニーが見てる!  ハニー!見て!ミキ、今サイコーにキラキラしてるよ!)パァァ 64:2012/07/21(土) 20:27:01.80 :xddYoZBc0 凛(スゴい。鳥肌が止まらない。  …これがトップアイドルなんだ) P(…よかった。なんとかなった)ドキドキ ♪~全~体~みんなONLY1♪ 凛「…」ボーゼン P「…」...パチパチパチ ...パチパチパチ!! P「どうだ?」パチパチパチ 凛「スゴかった。震えてる」パチパチパチ P「そうだろ。これが765プロのアイドルだ」 65:2012/07/21(土) 20:27:30.42 :xddYoZBc0 凛「…ねえ、プロデューサー」 P「ん?」 凛「…私は、アイドルになれるって思う?」 P「なれるよ」 凛「…ホント?」 P「だって今のアイツら見て、『歌いたい・踊りたい』って顔してるからな」 凛「……ホント?」ペタペタ P「アイドル。目指してみたいだろ?」 凛「…うん」 P「よし、じゃあ行ってこい」 凛「うん!」タタッ 66:2012/07/21(土) 20:27:58.52 :xddYoZBc0 ♪CHANGE IN MY WORLD~♪ P「…首の皮一枚つながった」ホッ 律子「けど、これから機嫌直してもらうのが大変そうですね。自業自得ですけど」 P「…胃が」キリキリ トレーナー「はは、765プロは面白いな」 67:2012/07/21(土) 20:28:26.31 :xddYoZBc0 \\\ 居酒屋 P「はぁ」 律子「目の前でため息つかないで下さいよ。辛気臭い」 P「…プロデューサーって、難しいよなあ」 律子「何を今更」 P「俺、正直調子乗ってた。  今日はそれを痛感した」 律子「私も今日のことは考えさせられました。  私たちまだまだペーペーですもんね。もっと勉強しないと」 P「…けどなー。正直これからどうすりゃ良いかなー」 68:2012/07/21(土) 20:28:54.79 :xddYoZBc0 律子「んー。今日はやりすぎだと思いますけど、あんまり甘やかしすぎる必要もないと思いますよ」 P「甘やかすって、どういう意味だ?」 律子「さっきはああ言いましたけど、この業界、同じ事務所内だったとしても誰かと比較するって必要不可欠じゃないですか。  頭の中で『誰々よりも誰々の方が向いてる』なんて比較は日常的にやってますよね?」 P「実際に目の前で露骨にやらなければ問題ないってことか?」 律子「今までだって露骨にやってたと思いますよ。  ただ、良くも悪くもベテラン組は仲間意識が強くて、一丸になって頑張ろうって雰囲気だったじゃないですか。  だから『比較される』っていうよりも『役割分担』って印象が強くて、それで今までは偶々上手く行ってただけだと思うんですよね」 P「そこに新人が入ったから軋轢が生まれた、ってことか。  軋轢なんてどうやったって生じるんだから、それをあまり気にしすぎるなと?」 律子「少なくとも、無理に八方美人を演じる必要はないと思います。  それにウチでの温室育ちに問題なくても、将来的には外に出て行く娘もいるでしょうし。ある程度は面白くないことにも耐性付けとかないと」 69:2012/07/21(土) 20:29:23.25 :xddYoZBc0 P「律子は厳しいな。でも、一理あるか。  千早なんて能力的にはいつ巣立ってもおかしくないけど、余所でやってけるかは不安だなぁ。  ……あ、千早が独り立ちすると思うと何か泣けてきた」グス 律子「またですか。鬱陶しい」 P「千早、ちゃんとご飯食べてるかなぁ。  新しい事務所で友達できたかなぁ、いじめられてないかなぁ。  野郎の友達はダメだ。ソイツは友達じゃねぇ。  ガンバレ千早、負けるな千早。でも辛い時はいつでも帰ってきて良いからな」ブツブツ 律子「ダメだこりゃ。  ホント、子離れできそうにないですよね」 P「俺、結婚して子供できたらプロデューサー続けられるか自信ないわ」 律子「…正直私もそれは不安ですね」 70:2012/07/21(土) 20:29:51.79 :xddYoZBc0 P「嫁さんに『アイドルと娘とどっちが大切なの!』って言われたらどうしよう」 律子「息子はないんですか」 P「息子だったら、グレちゃうかな?」 律子「結婚もしてないのに何を言ってるんですか」 P「嫁さんに『アイドルと私とどっちが大切なの!』って言われたらどうしよう」 律子「どっちが大切なんですか?」 P「さあ?嫁さんいないし。  律子は旦那に『俺と仕事とどっちが大切なんだ!』って言われたらどうする?」 律子「そんな人は願い下げですね」 P「じゃあ、旦那に『子供と仕事とどっちが大切なんだ!』って言われたらどうする?」 律子「…」グス 71:2012/07/21(土) 20:30:20.53 :xddYoZBc0 P「やめろよぉ。なんか俺まで泣けてきた」グス 律子「ぷろでゅーさーが言ったんじゃないですか」グスグス P「俺、生涯独身でいる」グスグス 律子「独身の何が悪いんだー!」グスグス P「悪いんだー!」グスグス 律子「…でも、子供欲しいなぁ」ハァ P「子供欲しいよなあ」ハァ 律子「どこかに配偶者の仕事に理解のある家庭的な良い人いないかなぁ」 P「運命の人はどこですかー?」 律子「私はここですよー!」 72:2012/07/21(土) 20:30:48.50 :xddYoZBc0 P「いいさいいさ、俺にはアイドルの娘たちがいるし」 律子「アイドルはあなたのお人形じゃありませんよ」 P「うん。わかってる」 律子「ホントにわかってんですかね?」 P「けどさー、結婚に関しては仕事を言い訳にして相手に負担ばっかり強いるのも良くないと思うんだ」 律子「そうしたら、私なんていつまで経っても結婚できそうにありませんしね」 P「律子はやっぱり独立したいのか?」 律子「765プロに不満はないんですよ。  でも、やっぱり夢なんですよね」 P「…そっか」 73:2012/07/21(土) 20:31:16.59 :xddYoZBc0 律子「プロデューサーはそういう気持ちはないんですか?」 P「俺は一プロデューサーがいいな」 律子「別にプロダクションを立ち上げなくても、フリーのプロデューサーだってあるじゃないですか」 P「ああ、そういう手もあるのか。  …でも、やっぱりないな。というか、正直に言うとさ…」 律子「言うと?」 P「社長の下から離れたくないんだ。  …いや、まだ社長から学ぶとこがある、かな?」 律子「社長? 経営を学びたいんですか?」 P「違う。『ティンときた!』ってヤツ。スカウトの直感かな」 律子「あれですか? 単なる口説き文句じゃないんですか?」 74:2012/07/21(土) 20:31:46.34 :xddYoZBc0 P「少なくとも俺がプロデュースして成功した娘は、みんな社長が『ティンときた!』娘だからな。  本人に素質あるし、俺との相性も良いし。  やっぱり社長は眼力はスゴいよ。尊敬してる」 律子「あっ、もしかして凛をドラフト1位指名したのはそれが理由ですか!」 P「正解。そんでその選択は間違ってなかったと思ってる」 律子「そんなことこれまで一言も言わなかったじゃないですか。  結構セコイですよね、プロデューサー」 P「律子は独立を考えてるんだろ? だったら社長の直感に頼らないで、自分の直感を信じる方が良い経験になるだろ」 律子「ああもうっ! 口だけは達者なんだから」 P「けど、俺もいつまでも社長に甘えてられないよなー。  社長だって、いつまでも現役ってわけじゃないだろうし」 律子「私も、いつまでも765プロに甘えてられないなー。  アイドルの娘達だけじゃなくて、私達も結構環境に甘えてましたよねー」 75:2012/07/21(土) 20:32:14.16 :xddYoZBc0 P「プロデューサーって難しいよなー」 律子「何を今更」 P「でも、やっぱり楽しいよなー」 律子「何を今更」 P「凛はトップアイドルになるんだ!ニュージェネレーションだ!」 律子「はいはい。だらだら妖精とラブリープリンセスですね」 P「そうそう、あの凸凹コンビが新時代を…あれ?」 76:2012/07/21(土) 20:32:42.17 :xddYoZBc0 律子「ところでプロデューサー」 P「んー」 律子「終電、なくなっちゃいましたね」 P「そうだな。ラストオーダーだしな」 律子「…出ますか」 P「…タクシー代、割り勘な」 律子「プロデューサーの家の方が遠いじゃないですか」 P「ばれたか」 律子「まったく、何度それで騙されたことか…」 P「すいませーん!お会計お願いしまーす!」 77:2012/07/21(土) 20:33:10.69 :xddYoZBc0 \\\ コンサート会場、コンサート終了後 P「───そうだな、俺にとってアイドルはムスメみたいなもんだな」 春香「プロデューサーさんを親として見るのは無理ですよー!」 P「春香にとっては、プロデューサーって何だ?」 春香「じゃあ私は『運命の人』にします!」 P「なるほど、世界に一人だけか。親と一緒だな」 春香「どうしてそうなるんですか!  小指と小指が赤い糸で繋がっている方の運命です!」 P「いや、不特定多数から黄色い声援を浴びて喜んで、『みんな大好きー』とか平気で言えちゃう娘はちょっと…」 春香「そういう娘が、『俺だけのモノ』になるんですよ!  独占欲フルスロットルですよ、プロデューサーさん!」 78:2012/07/21(土) 20:33:39.50 :xddYoZBc0 P「春香ってコンサートの後はハイテンションになるよな。  俺、コンサートの後は『祭りの後』って感じでシンミリするタイプなんだ。  俺たちって合わないな。音楽性の違いで解散するか」 春香「ヒドい!良く考えるとさっきの台詞もヒドい!  私をこんなにしたのはプロデューサーなのに!歓声を浴びるアイドル的な意味で!」 P「おおムスメよ、愛してるよ」 春香「プロデューサーさんには娘に対する愛が足りないと思います!  でも嬉しい!私も愛してます!  スタッフの皆さんも本当にありがとうございました!みんな、みんな愛してまーす!」ノシ スタッフ ハルカチャーン アイシテルヨー!! 春香「愛!Love!ゆー!  プロデューサーさん!私ちょっと歌いたい気分です!」 79:2012/07/21(土) 20:34:07.82 :xddYoZBc0 P「これ以上は撤収の邪魔になるからダメ。  控え室行って、きらりとハピハピしてろ」 春香「了解しました!  きらりちゃーん!ハピハピしてるー!?でわっ!我が友よ!闇に飲まれよ!」ダダダ P「闇に飲まれよー」 …ヴァイ!…ニョワー!…ドンガラガッシャーン! P「…行ったか」 凛「…天海さん、スゴいね」 P「まあ単独ライブだからな。お客さんも盛り上がってたし、それに当てられたらあんなモンだろう」 凛「…告白、してたよね?」 P「ライブの興奮を発散させたかったんだろ。今日は千早がいないから大人しい方だ。  実際ライブ後にはそういうこと多いから、あんま気にすんな  後、当てられて興奮してる人も多いから注意しとけ」 凛「うん、わかった」 80:2012/07/21(土) 20:34:36.34 :xddYoZBc0 P「…で、どうだった初ステージは?  前座とはいえ、お客さんが大勢いたから緊張したか?」 凛「色んなこと考えてたような気がするんだけど、天海さんの出番で全部吹っ飛んじゃった」 P「スゴいだろ」 凛「うん、スゴかった。…私たちのことなんて、きっと誰も覚えてないよね」 P「それが前座のメリットだな。失敗してもお客さんの殆どが真打ち目当てだからダメージが少なくて済む。  春香のコンサートだとお客さんは前座から盛り上げようとしてくれるし、場数を踏むには良い条件だ」 凛「そういうこと言っちゃうんだ」ムス P「本番前にも言っただろ。だから失敗を恐れずにやれって」 凛「…覚えてない」ムスー P「なら、もう一つ思い出させて凹ませておくけど、今日ファンになってくれる人は元々『765プロが好き』って好意的な人たちが多いからな。  765プロ主催じゃないと、きっと今回ほど上手くいかないだろうから覚悟しておけよ」 81:2012/07/21(土) 20:35:04.60 :xddYoZBc0 凛「…プロデューサーって時々イジワルだよね」 P「厳しいと言って欲しいな。いつまでも候補生気分じゃ困るし」 凛「候補生の時は甘い言葉で誑かして、使えるようになったら骨の髄まで絞り取るんだね」 P「誑かすとは失敬な。俺はいつだって本気で言ってるぞ」 凛「どうだか」 P「…それで、初ステージの感想は?」 凛「プロデューサー、話聞いてた?」 P「感想は何も聞いてないような気がするな。  …春香に全部持ってかれて悔しかったか?」 凛「……プロデューサーって時々スゴくイジワルだよね」 P「正直な感想をくれない凛も大概だと思うけどな」 凛「その『何でもわかってます』って感じがムカつく」ムス 82:2012/07/21(土) 20:35:33.34 :xddYoZBc0 P「悪かった。『何でもわかってる』わけじゃない。  けど、前に言ったろ、『仕事を通じて感じたことを大切にして欲しい』って。  凛の感じたこと、俺にはわからないから教えて欲しいんだよ」 凛「………隣、座って良い?」 P「どうぞ」 凛「…」ストン 凛「…最初はね、スゴくドキドキしてた。  お客さんの歓声とか、サイリウムの応援とか一杯で、興奮で体がしびれて動けなくなると思った」 P「うん」 凛「…歌ってたら頭の中真っ白になって、私の声に合わせて会場が震えてる気がして、  『ああ、今、私お客さんと一体になってる』なんて思ってた」 P「うん」 83:2012/07/21(土) 20:36:01.76 :xddYoZBc0 凛「…あっという間に出番が終わって、天海さんも褒めてくれて、スタッフの人も『お疲れ様』って。  なんか私、達成感なんか感じちゃって。『お客さん、喜んでくれた』なんて自惚れて」 P「うん」 凛「…でも、天海さんがステージに出たら何もかも違って。  お客さんはずっと嬉しそうで、天海さんも楽しそうで、みんな、天海さんしか見てなくて」 P「うん」 凛「…スゴく、眩しくて、格好良くて、傍にいるだけで興奮してきて。  私、ばっかみたいって」 P「うん」 凛「…悔しいなぁ」 P「うん」 84:2012/07/21(土) 20:36:30.27 :xddYoZBc0 凛「…プロデューサーはこうなるって思ってた?」 P「まあ、ある程度は」 凛「ヒドいよね」 P「うん。ヒドいな。  さっきも愛が足りないって言われた」 凛「私もそう思う」 P「難しいなあ。こんなにアイドルのことばっかり考えてるのに」 凛「そうなの?」 P「そうなの」 凛「…私ね、プロデューサーは魔法使いなんだと思ってた。  綺麗なドレスとガラスの靴を作ってくれて、カボチャの馬車を仕立ててくれて、舞踏会に連れていってくれるんだと思ってた」 P「光栄だな」 85:2012/07/21(土) 20:36:58.94 :xddYoZBc0 凛「ちなみに、レッスンの時のプロデューサーはイジワルな継母と義理姉」 P「一人三役か」 凛「今はイジワルな人しかいない」 P「ヒドいシンデレラストーリーだな」 凛「シンデレラもいないよ」 P「おかしいな、確かに馬車には乗ってたのに。  舞踏会にも行かないのか?」 凛「馬車に乗ってたのは、花売り娘だったみたい。  最初に連れていかれたのは、舞踏会じゃなかったし」 P「確かに、まだ舞踏会には着いてないな」 86:2012/07/21(土) 20:37:27.57 :xddYoZBc0 凛「舞踏会に出れたと思って、大恥かいちゃった」 P「それは、雪辱を果たさなきゃな」 凛「うん。勿論。  こんどはちゃんと舞踏会に連れて行ってね」 P「それこそ、もちろん」 87:2012/07/21(土) 20:37:59.64 :xddYoZBc0 凛「ねえ、プロデューサー」 P「うん?」 凛「手も顔もちゃんと洗ってきたんだよ」 P「…花売り娘ってそういうことか。  『ピグマリオン』? それとも『マイ・フェア・レディ』?  映画と原作では結末も違うよな」 凛「どっちにしろ、プロデューサーはヒドい人」 P「違いない」 凛「怒った?」 P「正直、その配役はちょっとショックだ。  …そっか、やっぱ俺は何もわかってないな」ハァ 88:2012/07/21(土) 20:38:34.15 :xddYoZBc0 凛「…でもね、プロデューサー」 P「うん?」 凛「手も顔もちゃんと洗ってきたんだよ」 P「……俺のスリッパはどこだい?」 凛「ふふっ」 おしまい 91:2012/07/21(土) 20:41:12.59 :xddYoZBc0 \\\ 事務所 社長「君たち、ちょっとコレを見てくれたまえ!」 P「履歴書ですか。ひょっとして、また候補生増やすんですか?」 社長「それを君たちと相談したいのだ。  担当する人数的に厳しいのはわかっているが、ティンときた素晴らしい娘なんだよ!」 P「やりましょう!」 律子「いいですけど、いい加減マネージャーくらい雇いましょうよ」 社長「うっ、そうすると経費がだね…」 P「大丈夫です!俺が担当します!」 社長「やってくれるかね、君ィ!」 律子「はいはい。お任せしますからね」 P「それで、どんな娘なんです。…何々『島村卯月』ちゃんか…」 社長「うむ。一見普通の娘にしか見えないが、頑張り屋で、満点の笑顔がこうグッと私を惹き付けてやまないのだよ」 P「良い娘そうですね。春香に続く正統派アイドルって感じですね!」 社長「そう!ニュージェネレーションだ!」 P「ニュージェネレーションが来ましたか!…あれ?」 卯月「プロデューサーさんって、律子さんと付き合ってるんですか」P「ないない」 以下略 しまむらさんなんていなかったことはなかった 蛇足のおしまい 113:2012/07/25(水) 23:11:33.93 :maJLTNUL0 小鳥(あ、髪食べちゃった。…よいしょ)パサリ 凛「…」ジー 小鳥「あら。なあに、凛ちゃん?」 凛「音無さんって、大人の色気があるよね」 小鳥「へ?」 凛「いいなあ」 小鳥「ぇ!?」 小鳥(何?何!? リアルJKが2X才に何言っちゃてんの? 新手のスタンド攻撃?) 律子(うわぁ、嫌な予感しかしない) 114:2012/07/25(水) 23:12:05.58 :maJLTNUL0 小鳥「あ、ありがとう? なのかしら?  でもほら、私なんかより律子さんだってキャリアウーマンっていう大人の色気ムンムンじゃない?」 律子(ちょっと!巻き込まないで下さいよ!) 小鳥(いやです!何か恐いです!助けてください!死なば諸共ですよ!) 加蓮(また凛は…)シランプリ 奈緒(こっちくんな、こっちくんなよ!)シランプリ 凛「秋月さんは格好良い色気かな」 律子「こそばゆいわね。突然何を言うのよ」 凛「大人の色気があって羨ましいなあって」 律子「華の女子高生が何を言ってるんだか。  私はあんた達の若さが羨ましいわよ」 小鳥(いいなあ、律子さんはそんなこと口にできる歳で)ズーン 115:2012/07/25(水) 23:12:35.29 :maJLTNUL0 凛「でも、そういうの勝手に身に付くものじゃないと思うし。スゴいなあって」 小鳥「そ、そうかしら」 律子「色気ねぇ。私はあんまり子供っぽいと仕事でバカにされるから、背伸びしてただけなんだけど」 小鳥(私何かしてたっけ? 夏の陣?冬の陣?) 凛「格好いいと思う」 律子「ありがと」 凛「音無さんも…」 小鳥「ひゃ、ひゃい!」 凛「さっきの。こう、ハラリと落ちた髪を掻き上げて耳にかけるしぐさとか、その時に覗くうなじとか。  大人の色気だなぁって」 小鳥「うぇ!」カァ 116:2012/07/25(水) 23:13:04.65 :maJLTNUL0 小鳥(だ、ダメよ小鳥!百合は悲しみしか生まないのよ!  ユッコもナオコも誓いを破って勝手にゴールインして、そう!私だっていい加減もうゴールしてもいいよね)ウェウェウェ 律子「それなら、凛がやっても爽やか系の色気が出るんじゃない?」 凛「ダメだった」 律子「ダメ?」 凛「全然無反応」 小鳥「………ゑ?」 律子(…誰の話? って聞くまでもないか) 奈緒(来た!!)シランプリ 加蓮(はぁ、またか)シランプリ 117:2012/07/25(水) 23:13:33.31 :maJLTNUL0 凛「音無さんがやるとチラ見するのに…  色気ってどうやって出せばいいのかな?」 律子「知りません」ハァ 凛「みんなそう言うんだよね。奈緒も加蓮も」 奈緒「…」シランプリ 加蓮「…」シランプリ 律子(逃げたわね) 凛「他にもね。キャスター付きの椅子に座ったまま、がーって移動するじゃないですか」 律子「やるわね」 凛「床を蹴る時、やっぱりチラ見するんだ。私だと『遊ぶな』って叱るだけなのに。  スカート丈も同じくらいなのに、何が違うだろう?」 律子「知らないってば」 118:2012/07/25(水) 23:14:05.09 :maJLTNUL0 凛「いいなあ」 律子(いいのかしら) 加蓮(いいよね) 奈緒(きっ、興味ねぇから!) 凛「あと、床に落ちた物を拾おうとして屈んだ時とか…」 律子「凛」 凛「はい?」 律子「もう許してあげて」 凛「?」キョトン 小鳥「…どーせ私なんてアラサーの男旱りの血眼になって獲物を探してる末期型腐女子ですよー。えーえー年甲斐もなくミニスカートなんて履いて絶対領域で媚売ってる残り物ですよー。縁日で叩き売りされているカラーひよこの余り物みたいに日の目を見ないままピヨーと散る定めなのさー」シクシク 119:2012/07/25(水) 23:15:11.18 :maJLTNUL0 凛「音無さん、どうしたんですか?」 律子「大人の色気って、ああやって育てるのよ」 \\\ 居酒屋 小鳥「何なんですか!あの娘は! もう私完全痴女じゃないですか痴女!」バンバン P「いや、俺に言われても」 小鳥「アン?何見てんだよエロメガネ」 P「いや、ホントすんませんでしたーっ!」ドゲザー 律子「小鳥さんは泣いていい」 小鳥「ピヨッー」バサバサ 律子「正直、私は笑いを堪えるのに必死でした」ケラケラ 小鳥「クケェー!!」バッサ!バッサ! P「…」プッ 小鳥「…」ゲシッ P「痛っ! 無言で蹴らないで下さいよ」 120:2012/07/25(水) 23:15:40.30 :maJLTNUL0 小鳥「大体!プロデューサーさんがいけないんですからね!  なんかもう『私のプロデューサーに色目使うな』でしたよ、アレは!」 P「それ、俺が悪いんですかね?」 小鳥「私が悪いって言うんですか!」 律子「凛も悪気は全くなかったみたいですけど」 P「それが悪いんじゃない?」 律子「つまりプロデューサーの普段の教育が悪いんじゃないですか?」 P「凛は良い娘だぞ」 律子「そこは同意しますが」 P「じゃあ、誰も悪くないってことで」 121:2012/07/25(水) 23:16:08.83 :maJLTNUL0 小鳥「ちくしょー!呑まずにやってられるかー!」 律子「いやもう、ホント災難でしたね」 P「音無さんは呑んでいい」 小鳥「うぅっ…JKなんて滅んでしまえ…」グビグビ P(けど、酔いつぶれたら俺が介抱しなきゃならないんだろうなあ) 律子「しかし、あの娘、たまにとんでもないこと言いますね」 P「そうか?そんなに困らされた記憶はないんだが」 小鳥「いいえ!凛ちゃんはもう初っ端から大変でした!」プハァー! 律子「初対面で、765プロのプロデューサー殿にあの台詞ですものね」ケラケラ P「ああ、アレ」 122:2012/07/25(水) 23:16:39.12 :maJLTNUL0 律子「『ふーん、アンタが私のプロデューサー?……まあ、悪くないかな…』でしたっけ」 P「省くなよ。その後、ちゃんと自己紹介と挨拶してたぞ」 律子「いやでも、あの瞬間に事務所に流れた空気はホント微妙でしたね」 小鳥「あの瞬間、みんなの心が一つになりました!  そう!『何言ってんだコイツ?』って」カンパーイ!! P「『アイドルのプロデューサー』っていう想像と違ったんじゃないかな。まあ実際ただのサラリーマンだし。  それほどおかしな反応じゃないだろ」 律子「けど、あの娘達は自分たちのプロデューサーを馬鹿にされたみたいで面白くなかったみたいですよ。  美希や千早なんて噛みつかんばかりでしたし」 P「それは有難い話だな。  でも、そんな風に思っててもすぐに凛と打ち解けてくれたし。ホント、みんな良い娘だよな」 律子「最初は年長組が間を持っていた感じですけどね」 P「頼りになるよな。  …それにしても、美希はともかく、千早が息巻いてたって? 初耳だなそれは」 123:2012/07/25(水) 23:17:12.18 :maJLTNUL0 小鳥「千早ちゃんはプロデューサーさんにゾッコンですから。  『あの娘にプロデューサーの何がわかるって言うの!』ってカンカンでしたよ」 P「初対面の時の態度だったら、千早と美希も同じようなもんだった気がするんだが…」 律子「その変わりようが可愛いんじゃないですか」 P「まあね」 律子「…ところでプロデューサー、変わりようと言えば」ニヤリ P「はいはい、何でしょうか律子さん」ハァ 律子「最近、凛が随分プロデューサーにお熱のようですけど、何があったんですかね?」ニヤニヤ 小鳥「吐けー!吐けー!私だけ公開処刑なんて不公平だー!」ウェップ P「小鳥さんは吐く前に言ってくださいね。  …けどあの娘にどんな心境の変化があったかなんて、正直言ってこっちが聞きたいくらいだよ」 124:2012/07/25(水) 23:17:41.10 :maJLTNUL0 律子「心境の変化はわからなくても、『何か』はあったわけですか」 P「…まあなー…『マイ・フェア・レディ』のあらすじって知ってるか?」 律子「シンデレラストーリーの定番ですね」 小鳥「待ってください…あっ、Wikiにあらすじ載ってました」ピヨピヨ P「凛が言うには、自分はシンデレラじゃなくて、花売り娘なんだって」 律子「へぇー、…ああ、なるほどなるほど。それでそれで?」ワクワク 小鳥「?」ポカーン P「手も顔もちゃんと洗ってきたと」 律子「くぅー!その後は!」バン P「その後はまたちょっと話をして、最後にその台詞をもう一度」 律子「プロデューサーの返しは!?もちろん!」バンバン P「俺のスリッパはどこだ」 律子「Perfect Commnication!!」ハイターッチ P「いぇーい」ハイターッチ 125:2012/07/25(水) 23:18:11.61 :maJLTNUL0 小鳥「さっぱりわかりません。三行で解説をお願いします」 律子「映画のワンシーンになぞらえた告白ですよ!  ロマンチックだなあ」 小鳥「リア充爆発しろ」ニコ 律子「そっかー、魔法使いだと思ってたプロデューサーが、いつの間にかヒギンズ教授になってたのかー。  いやー、ごちそうさまです」 小鳥「魔法使いとナントカ教授は何が違うんですか?」ケッ 律子「『シンデレラ』の魔法使いは舞踏会に行くための使い切り舞台装置なのに対して、『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授は主人公の一人なんですよ。彼はヒロインがレディになるための教師でありパートナーで、その上、ヒロインの恋のお相手なんです。  しかも単に舞踏会に出れば成功が約束されてる『シンデレラ』に比べて、『マイ・フェア・レディ』は舞踏会の華になるためにヒギンズ教授と一緒になって長い努力と訓練が必要っていうのもプロデューサーとの関係をほのめかしてますね。  あ、あと『マイ・フェア・レディ』のヒロインが花売り娘なのと、凛の実家が花屋っていうのも意味深ですね」 小鳥「とりあえず、プロデューサーさんを殴っておけば良いんですか?」ゲシッ P「痛っ! 蹴ってますよ!」 126:2012/07/25(水) 23:18:39.83 :maJLTNUL0 小鳥「けど、告白シーンなんですよね?  OK出しちゃってませんか? 良いんですか、それ?」チビリチビリ P「OKも何も、『マイ・フェア・レディ』ごっこをしただけですよ。  そのシーンだって、結構解釈の余地がありますし」 律子「具体的なことは何も言ってないんですか?」 P「俺は勿論、凛もな」 律子「気持ちだけ伝えて、気持ちだけ受け取った、って感じですか。  あーもうっ、初々しいなー」 小鳥「…なんか、意外ですねー。律子さんはアイドルとこういう話になると怒るんじゃないかと思ってました」 P「恋愛小説好きですからね。たまたま趣向に合ったんじゃないですか?」 小鳥「プロデューサーさんは、なんか冷めてますね」 P「ヒギンズ教授みたいと言われたことに思うことがありまして…」 127:2012/07/25(水) 23:19:08.61 :maJLTNUL0 小鳥「律子さーん、ナントカ教授って、どんな人なんですかー?」 律子「天才で、自信家で、毒舌家で、独身主義者で、マザコンで、女性を独立した人間と見ない女性蔑視者です」 小鳥「…恋人役なんですよね?」 律子「恋のお相手です。厳密には恋人役じゃありません」 P「解釈の仕方によっては、恋の相手でもない可能性もあるな」 律子「なんでそう捻くれた捉え方をするんですか」 P「だって、ヒギンズ教授だぞ?  ピグマリオン・コンプレックスって言われたみたいで、顔を引っ叩かれた気分になった」ハァ 律子「深読みしすぎじゃないですか?」 小鳥「ピグ・マリオ?」 律子「ピグマリオン・コンプレックスです。  一般には人形偏愛症のことですけど、この場合は、女性を人形にように扱って、自分好みの育てる性癖ですね」 小鳥「なるほどなるほど」チンプンカンプン 128:2012/07/25(水) 23:19:38.37 :maJLTNUL0 小鳥(あれぇ、私って最年長よね?  というか、15才JKの告白を解説されてる私って…)ズーン 小鳥「…深いんですねー」ハァ P(ため息、色っペーな)チラ 律子(ああ、コレか。  凛はホントよく見てるわね) P「音無さん、急に大人しくなりましたね?」 律子「大人の色気を育ててるんですよ」 P「?」 律子「…凛の話に戻りますけど、やっぱりプロデューサーは深読みしすぎですって。  というか、『女』として見てないから、そういう目で見てくれってラブコールじゃないですか?」 P「そりゃ無理だろ」 律子「ダメですね」 129:2012/07/25(水) 23:20:09.06 :maJLTNUL0 P「…まあ、ムリかダメかは置いとくとして。  じゃあ俺はアイドルの娘たちをどういう目で見てるんだってことが引っかかってな」 律子「『女』として見てなくて、『ムスメ』として見てるんじゃないですか?」 P「ヒギンズ教授の実験対象なのかもしれない」 律子「呆れた。そんなことを気にしてたんですか?」 P「だってさ。この間の合同レッスンだって、それで失敗したようにも思うし」 律子「こういう商売なんですから、それこそ物語序盤のヒギンズ教授みたいにアイドルを独立した人間と見なさない人だっていますよ。  でも765プロにはそんなプロデューサーはいません」 P「そうかなあ?」 律子「あの娘たちだって、そんな人を信頼したりしませんよ。そんなことしたら、それこそスリッパ投げて出て行っちゃいますね。  それに、そんな人を社長が765プロに入れるわけないじゃないですか?」 P「…そうかな」 130:2012/07/25(水) 23:20:37.90 :maJLTNUL0 律子「ホラ、自信持ってください。  大丈夫、貴方はアイドルを愛してますよ」 P「…そっか………ありがとな、律子」 律子「どういたしまして」 P「…」 律子「…」 小鳥「zzz」エヘヘー 律子「じゃあ、後はよろしくお願いします」 P「ですよねー」 131:2012/07/25(水) 23:21:07.26 :maJLTNUL0 \\\ 車、P運転中 P(…アイドルを愛してる。  そうだよな、そう思わなきゃ、この仕事はやってられないよな)ウンウン 千早「…今日は機嫌良さそうですね」 P「ん? 俺機嫌悪かったか?」 千早「機嫌が悪いというか、最近はどこか思い悩んでるような…。  すみません。差し出がましかったですね」 P「いや、心配かけたんなら俺の方こそすまなかったな。  それと、心配してくれてありがとうな」 千早「いえ…それで、気に掛っていたことはもう良いですか?」 P「ああ、大した問題じゃなかったし」 千早「…そうですか」 P「おう」 132:2012/07/25(水) 23:21:36.07 :maJLTNUL0 千早「………あの、プロデューサー」 P「ん?」 千早「…私も悩み、というか、プロデューサーに相談があるんです」 P「ひょっとして、俺の様子見て遠慮してたか?」 千早「そう言う訳では…いえ、尻込みしてたんだと思います」 P「…車、止めるか?」 千早「そのままでお願いします」 P「わかった。…それで、相談って?」 千早「…あの、わたし…」スゥ P「うん」 千早「………アイドルを、止めようと思います」 133:2012/07/25(水) 23:22:05.17 :maJLTNUL0 P「………そっか」 千早「驚かないんですね」 P「正直、千早はいつかアイドルを卒業するんだと思ってた」 千早「そうですか」 P「聞くまでもないことだけど、歌うことは続けるんだろう?」 千早「勿論です」 P「アイドルを止めた後の方針は固まってるのか?」 千早「いくつかの事務所とレコード会社から打診を受けています。  あっ、もちろん今は全部断ってます!765プロに不満があるわけじゃないんです!ただ私!」 P「千早、落ち着け」 千早「…すみません、私…」 134:2012/07/25(水) 23:22:34.71 :maJLTNUL0 P「わかってる。もっと歌いたいんだろ。今よりももっと」 千早「…765プロは、大好きなんです。けど、私は…」 P「わかってるよ。  …移籍とか、ちゃんと話し合おう。千早の希望に合う最高の条件で送り出してあげるよ」 千早「そんな!ダメです!私の我侭なのに!」 P「我侭なもんか。  相談してくれて嬉しいよ。千早が歌手として羽ばたいていく手助けができるんだからな」 千早「…ありがとう、ございます」 135:2012/07/25(水) 23:23:05.25 :maJLTNUL0 P「………千早」 千早「…はい」 P「よく決断したな」 千早「はい」 P「大丈夫、千早ならきっと成功する。  俺は応援するよ。みんなもきっとそうだ」 千早「………プロデューサー」グッ P「ん?」 千早「…私だけじゃ、きっとダメです」 136:2012/07/25(水) 23:23:33.99 :maJLTNUL0 P「千早?」 千早「…私を誰よりもわかってくれる人が、傍で見守ってくれなきゃダメなんです」 P「おい、千早」 千早「…プロデューサー、私と、一緒に…」 P「千早!」 千早「っ」ビク P「…俺は765プロの、アイドルのプロデューサーなんだ」 千早「………ぁ」 P「…わかってくれ」 137:2012/07/25(水) 23:24:02.94 :maJLTNUL0 千早「………すみません。  …今言ったことは忘れて下さい」 P「千早…」 千早「前見て運転して下さい。………お願い」 P「ああ」 千早「…」 P「…」 P(…アイドルを愛してるって…  こんな時に、手を振り払って。愛してるだなんて…) P(…なんだよ、それ) 138:2012/07/25(水) 23:24:35.87 :maJLTNUL0 \\\ 事務所 凛「プロデューサー。お茶入れたけど、飲む?」 P「ああ、ありがと」カタカタ 凛「お菓子あるけど、いる?」 P「塩気が欲しいな」カタカタ 凛「はぴはぴで良い?」 P「おう」カタカタ 凛「はい」 P「ん、さんきゅ」ズズー 凛「…」ズズー 139:2012/07/25(水) 23:25:04.14 :maJLTNUL0 P「…あんま遅くならないうちに帰れよ」カタカタ 凛「うん、これ飲んだら帰る」 P「そうか」カタカタ 凛「プロデューサー、忙しそうだね」 P「感謝祭の前はいつもこんなもんだ。それにお前らほどじゃないよ。  凛も、ソロとユニットとオールスターの全部をこなすのは初めてだから大変だろ」カタカタ 凛「レッスンも大変だけど、今は先輩たちの方が大変かな」 P「どうした?」 凛「ごめん。変な意味じゃないんだよ?  やっぱり如月さんの最後のコンサートだから、みんな気合い入ってて。気を抜くと置いてきぼりにされそうってこと」 P「そっか、みんな頑張ってるんだな」カタカタ 凛「うん。頑張ってるんだよ?」 P「良い娘だ」カタカタ 140:2012/07/25(水) 23:25:32.92 :maJLTNUL0 凛「…最近、プロデューサーはあんまりレッスン見に来てくれないよね」 P「悪いな。ちょっと余所との打合せが立て込んでるんだ。  それに、もうみんな付きっきりでレッスンに立ち会うレベルじゃないだろ」カタカタ 凛「そんなことないよ」 P「プロデューサーはそう判断したんだけどな。  レッスンで何か困ってるのか?」カタカタ 凛「うん。やっぱり先輩たちと同じには出来ないかな」 P「同じにやる必要はないし、同じにやって欲しくはないな。  凛は凛らしく、自分のステージをやればいい」カタカタ 凛「でも、今回の感謝祭、ファンのみんなは『アイドル如月千早のラストステージ』を見に来るんだよね?」 P「…」カタ 凛「プログラムもそういう風に組んであるし、先輩たちもそのつもりで練習してるよ。  …私、そこで自分らしいだけのステージなんて、ヤだな」 141:2012/07/25(水) 23:26:01.71 :maJLTNUL0 P「お前も、他の娘も、引き立て役なんかじゃない」 凛「そうかな? でも、先輩たちは如月さんが最高のパフォーマンスを出せるようにしているよ」 P「全員が、最高のパフォーマンスをしなきゃダメだ」 凛「その方法をレッスンして欲しいな。  先輩たちは、なんていうか、自分らしくて全力なのに、如月さんがすごく引き立つんだ。  私は今まで我武者羅だったし、自分たちのことだけで一杯一杯だったし、あんな魅せ方知らない」 P「それは、あの娘たちだから出来ることだ。  良い悪いじゃない。あの娘たちはずっと一緒にやってきて、それが出来るくらいに絆を深めていったんだ」 凛「私にそれが出来ないのはわかってるよ?  でも、このままじゃ私のことなんて誰も覚えていてくれない。ちゃんと如月さんのステージに私がいたことを覚えていてもらいたい。私がいて、如月さんのステージが最高のものになって欲しい。  …もう場を温めるだけの前座なんて嫌だよ」グッ 142:2012/07/25(水) 23:26:46.69 :maJLTNUL0 P「…士別れて三日、即ち更に刮目して相待すべし、か」 凛「え?」 P「いっちょ前のこと言うようになりやがって」ニヤ 凛「生意気かな?」 P「いや、格好いいな。惚れ惚れする」 凛「そうかな?」テレ P「お客さんも楽しませて、自分も最高に輝いて、仲間と一緒に最高のステージを魅せる。  その上テーマまで演出するのか。…悪いけど、今回のテーマの中心は凛じゃないぞ」 凛「わかってる。ヒロインは如月さんでしょ?」 P「そうだな」 143:2012/07/25(水) 23:27:14.79 :maJLTNUL0 P「まったく、凛はたまにとんでもないことを言うな」 凛「?」キョトン P「難しい注文だってこと」 凛「私のパフォーマンスを最大限引き出すのがプロデューサーの仕事だって、自分で言ってたよ」 P「まったくもってその通りだな。  ああそうだよ。アイドルを輝かせるのがプロデューサーの仕事だよな」カタカタカタ 凛「プロデューサー?」 P「悪い。大至急片付けなきゃならない仕事ができた。  うん。さっさと片付けちまおう。こんなことをしてる場合じゃないもんな」カタカタカタ 凛「…うん。じゃあ明日、待ってるから」 P「ああ、また明日。  レッスン場で」 144:2012/07/25(水) 23:27:43.31 :maJLTNUL0 \\\ 765プロ感謝祭、終了後会場 凛「♪あるこぉー、果てない道♪」 P「…凛か?」 凛「ひゃぁ!」ビクッ P「何やってるんだ?」 凛「プロデューサー!?」 P「ああ」 凛「プロデューサーこそ何やってるの?  如月さんを送って行ったんじゃなかったの?」 P「送るっていうか、お別れの挨拶かな。今までお疲れさまでしたって」 145:2012/07/25(水) 23:28:12.29 :maJLTNUL0 凛「…それだけ?」 P「それだけ」 凛「ふーん」 P「それで。凛はこんな所で何やってんだ?」 凛「プロデューサーと同じだよ。コンサートの余韻に浸ってるの」 P「…すごかったな」 凛「すごかったね」 P「凛もすごく良かったぞ」 凛「うん。頑張ったんだよ。  でも、やっぱり如月さんが一番だった」 P「今夜のヒロインだからな。  ホント、いつの間にかあんなスゴい奴になってたんだなあ」 凛「ヒロインだものね」フフッ 146:2012/07/25(水) 23:28:41.14 :maJLTNUL0 P「………なぁ、凛」 凛「なに?」 P「俺にとって、やっぱりアイドルの娘はシンデレラなんだと思う」 凛「プロデューサーは魔法使い?」 P「魔法使いでありたいな。  成功しても、12時で効果の切れる中途半端な魔法しか使えないけどな」 凛「そうなんだ」 P「けど、それで充分なんだよな。シンデレラは舞踏会に出れば、きっとハッピーエンドを掴み取れる。  12時を過ぎて魔法が続く必要はないんだと思う」 凛「ふーん。シンデレラは王子様と結ばれるの?」 P「そうなるといいな」 147:2012/07/25(水) 23:29:13.72 :maJLTNUL0 凛「…よくわかんないけど」 P「そっか」 凛「プロデューサーは魔法使いポジションの秋月さんが良いの?」 P「…」ガックシ 凛「?」キョトン P「…君はたまにとんでもないことを言う」 凛「違うの?」 P「そういう話じゃないの。  俺はシンデレラが好きだけど、ヒギンズ教授でもなければ、王子様でもないって話をしてるの」 148:2012/07/25(水) 23:29:41.83 :maJLTNUL0 凛「シンデレラが魔法使いを好きになっても良いと思うな」 P「俺はステージで輝いてるシンデレラが好きなの」 凛「うん、知ってる」 P「じゃあ、俺の言いたいこともわかってくれるよな」 凛「12時になるのを待てば良いの?」 P「違う。王子様が放っておかないだろう」 凛「大丈夫、ガラスの靴は置いていかないから」 P「王子様に散々気を持たせといて、そりゃないだろ」 凛「難しいね」 P「極めてシンプルな話だ」 凛「私の言い分も結構シンプルじゃないかな?」 149:2012/07/25(水) 23:30:09.88 :maJLTNUL0 P「…何が君をそんなに意固地にさせるのかな?」 凛「今日はね、ちょっとそんな気分なんだ」 P「勘弁してくれ」ハァ 凛「ふふっ…プロデューサーのせいだからね」 P「俺が何をした」 凛「口紅、付いてるよ」 P「!」バッ 凛「お別れの挨拶?」ジトー P「…色々あったんだよ」プイ 凛「色々?」ジー P「…黙秘権を行使します」 150:2012/07/25(水) 23:30:42.42 :maJLTNUL0 凛「ふーん。どうせ如月さんにもシンデレラと魔法使いの話をしたんでしょ?」 P「…凛は何でもお見通しだな」ハァ 凛「こういう話だと、プロデューサーってわかりやすいよね。  如月さんの気持ちもわかっちゃうかな」 P「俺の気持ちも汲んでくれると助かるんだけどな」 凛「ふふっ、プロデューサーのことばっかり考えてるよ? だからそういう事で我侭言いません。  プロデューサーの夢も私の夢も一緒に叶えたいし。今はすっごく頑張ってるんだ」 P「努力の方向が間違ってるような気がするんだけどなあ」 凛「間違ってないよ。だって、お仕事を通じて感じたことだもの。そういうのが大事だって、教えてくれたのはプロデューサーだよ?  だからプロデューサーにも、私の気持ち、知ってもらいたいんだ」 P「…強いなぁ」 凛「トップアイドル、目指してますから」 151:2012/07/25(水) 23:31:14.05 :maJLTNUL0 P「そっか」 凛「だからね、いつまでも見守っててね、プロデューサー」 P「…俺は、今のままでいいのかな?」 凛「うん、いいと思うよ」 P「…そうだな、トップアイドル目指して。  これからもよろしくな、凛」 凛「うん!」 おしまい 152:2012/07/25(水) 23:31:43.73 :maJLTNUL0 ふぅ ここまでのお付き合いありがとうございました。 続けーって言ってくれた方の期待に添えたか心配ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 (・ω・)ノシ 元スレ http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1342868033

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